お前!!!此処を動くんじゃねぇぞ!?!?

熊の如く大柄な青年が、
小さな女性の首元に刃を這わす

………。

女性は、憂いを帯びた目をしているが、
青年を真っ直ぐに見据える。


その剣は
人を斬る代物ではない


酷く古びた観賞用の刀だからだ

何故、貴方はそのようなことをするのですか…?

うるせぇ!?そんな目で見るな!!殺すぞ!!!

女性の愁いを帯びた目、
それは彼に向けての目だ


それを察した彼は、
その哀れみに逆上する

そんな目を、した優しいお人が、
人を殺すなんて事、する訳ないわ

ふざけんなよ?お前に俺の気持ちが分かる訳ないだろう!?!?

……何が、あったの…?

うるせえ!!!どうして、コイツはそんなことも知らねぇんだよ!?

!!!!

首筋に置かれた西洋刀が
小刻みに揺れる

――――ッ!!!


鈍い刃に宿るのは、
彼の怯えと、怒り、深い憎しみ

しかし、
その震えが収まる

刃を女性から離していく

女性は、安堵の溜息を吐いた

やっぱり、貴方は優しいひ――

んな訳ねぇだろ!?この世間知らずが!!!!

白刃は翻り、首元に抉りかかる!

鈍い、肉の感触がした

手は、人の血で染まっている

わ、わ、あ、あ、あ……

しかし、その血は心なしか温かくない

死は、人を冷たくさせるとは
こういうことなのか

しかし、奇妙だ

女性の断絶魔が
一切聞こえないこと、

息の上がる音も聞こえないこと

何か、が分からない

しかし、直観的に
妙に感じる

――――ッ!!!

背後から、死神のような北風が

ひた、ひた、と近づいてくる

錆付いているのに、
結構傷付くものだな

冷涼な人の声だ。


背筋が凍る音色でなく、
彼は内心安堵する

誰だお前!?!?!?

ああ、気にするな。

気にしてるから聞いてんだよ!?

――そうか、悪かった

ならば、これで分かるか?

滝の如く落ちる雨が
瞬時に凍り付き、

はらはらと華のように落ちていく

常世者如月か…!!

如月氷芳

様付けするか、常世者扱いか
まだ化け物扱いの方が気楽だな

今の俺では、お前には勝てない…!
おおおおお、覚えてろ!!!

如月氷芳

早くないか?

うるせぇ!覚えてろ!!!

如月氷芳

悪いが、忘れる

律儀に返事返してんじゃねぇよ!!

常世者なら、
ずっと働いてても
問題ないなぁ♪

如月氷芳

常世者につき、
手が滑って
王様を殺しても文句は言わせないぞ?

如月氷芳

して、
火事場泥棒とは大変だったな

いえ、この通り
貴方様の御蔭で無傷ですから

あの、貴方のお名前を聞いても良いでしょうか…?

如月氷芳

――何故、この名を知らな――

その首、取ってやる!

如月氷芳

させるか!!

鋭い金属音が木霊する

青年は困惑しながらも、
剣を振るい、間合いを詰めようとする。

何が――どうなってるんだ…?


その表情に冷や汗が出る

青年が、戸惑うのも無理はない




青年の白刃を止めたのは
刃ではない。

青白い片腕によって、だ

青白く貧弱そうな片腕は、

氷の如く凍てつき、
鉱石よりも固くなっていた

如月氷芳

常世者などと言っておきながら、
僕の戦闘方法を知らなかったのか?

お前、本当に常世者だろ…?

如月氷芳

大概にしてくれないか?

如月氷芳

常世国へ討伐遠征に行かされているのに
同族なわけないだろう!?

守るってたって、
お前、俺を殺そうと…!?

如月氷芳

防いでるだけだ
戯けが

に、に、逃げろ……!!

如月氷芳

聞こえているのか?

殺すつもりなどないのだが――

また助けていただき、
ありがとうございました

さっきのは君じゃなくて、
我を守っただけだから気にしないで?

何か、お礼でもしたいところなのですけれど…

如月氷芳

――王様、

如月氷芳

この女性に、違和感を感じるのだが

君が怪訝に感じてるのに
我が感じないとでも?

どうか、されましたか…?

貴方が
『この世の者と思えない』程、
美しかったから相談をしていた

あら、そんな、こと、
言われたことありません

それで君に、こんなお願いしたら
困るかなって考えてたんだ

……その、お願い……とは…?

憂いの女性と、氷の空

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