丸藤 智弥

ここですね

夕暮れ時のとある森。そこに入ろうとする人影が四人分。

千田 柚子

ちょうど5時ね。本当はもっと早く来たかったけれど……

後方からゆっくりと二人組が付いて来る。

如月 日々子

なんで私を巻き込んだの。もっと相応しい人がいるでしょ

千田 柚子

文句言わないで、日々子。この間行方不明になった紗代はあなたの親友でしょ?

日立 佳彦

俺は関係ないぞ

千田 柚子

あなたは智弥の知り合いでしょ

丸藤 智弥

そして博人の親友

面倒くさいな…とでも言いたげに二人組は歩くペースを速める。

しばらく歩いていると、とても高い崖についた。

如月 日々子

待って…この森にこんな所あったっけ?

日立 佳彦

言われてみれば、確かにそうだな。ここに来るまでの道も見覚えがなかった

千田 柚子

引き返すわよ。ここにいると変な気分になる

日立 佳彦

同感だ

全員動き始めるが、一人だけ動かなかった。

丸藤 智弥

待ってください!何か見えませんか…?

如月 日々子

言われてみれば…人?

チェーンソー片手にその人物は近付いてくる。

立ち位置的に進路を塞いでいる。

やぁやぁ、子供たち。こんな時間にこんな所で何をやっているんだい?

千田 柚子

ちょっとした探し物です。
どなたですか?

あなたこそ。とは言わずに、まずは名前を聞いた。

名乗る時は自分からと習わなかったのかね?

千田 柚子

クッ……

智弥が制止しつつ仲裁に入る。

丸藤 智弥

S高校の丸藤です

日暮 亮介

S高校か…昔通っていたね…
私は日暮 亮介だ、よろしく

どう考えても嘘だった。

今目の前にいる男は低く見て六十代程だが、S高校は二十年前に建てられた学校である。

日立 佳彦

これ不味いんじゃねぇの?

佳彦が小声で言う。

如月 日々子

同感

しかし後ろは崖である。

この男が退かないと戻る事は出来ない。

丸藤 智弥

私達は探し物があるので失礼します

日暮 亮介

誰が行っていいなんて言った?

丸藤 智弥

はっ……?

四人が反応するより早く、男は行動した。

チェーンソーのエンジンをかけ始めたのだ。

如月 日々子

不味いわよ!

日暮 亮介

君達には
死んでもらうよ!

エンジンがかかると、男はチェーンソーを振り回しながら近付いてきた。

日立 佳彦

皆!下に飛び込め!

不幸中の幸いか、下に薄らと川のようなものが見えた。

浅いか深いか、死か生か。

そこまでは分からないが、今の状況では考える時間などなかった。

如月 日々子

どうにでもなれ!

まずは日々子が飛び込んだ。

それに佳彦が続く。

日立 佳彦

二人とも急げ!

男が迫る中、智弥は転んでしまった。

丸藤 智弥

あっ……

日暮 亮介

死ねええええ!!

チェーンソーが智弥に振り下ろされようとしたその時。

千田 柚子

危ない!

柚子が智弥を力の限り引っ張り、そのまま下へと突き落とした。

悲鳴を出す暇もなく智弥は川に落ちた。

日暮 亮介

すぐには殺さないぞ…
たっぷり痛めつけて…それから……

好都合である。

語り出した隙を見て柚子は走り出した。

千田 柚子

ええーい!

まんまと全員を逃してしまった男は、悪態をつきながら川の先へと向かった。

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