少女

いやだ!!

 少女はそう叫ぶと、立ちはだかる大人達をポカポカと叩いた。

 だが、そこはあくまでも少女の抵抗。全く以って攻撃とはならなかった。

 それが悔しくて。少女は泣きながらその場から走り去っていった。

少女

どうして……どうしてこの町を変えようとしちゃうの?

 一方、青年型アンドロイドType-Aは、この町――エリー町の都市開発計画の発案者として、少女の対応に戸惑いを感じていた。

Type-A

どうしてあの子は、あんなに恐れているのだろう……

Type-みぃ

私は分かる気がするわ。だって、此処は彼女の故郷だもの、その故郷が変わってしまうのは、やっぱり怖いことなのよ

Type-A

そうだろうか? 変わることの良さだってあるはずなのに

Type-みぃ

だったら、アンタが教えてあげなさいな。その変わることの良さってヤツを、ね

Type-A

……

 所変わってとある老夫婦の家。病により布団に伏せるおばあさんは、おじいさんに手を握られ、外の景色を見つめていた。

おじいさん

のどかじゃな、ばあさん

おばあさん

ええ、そうね

おじいさん

この景色が、何時までも続くと良いんじゃけどな

おばあさん

……そうかね、私は、新しい世界も見てみたいと思うけどねぇ

おじいさん

おや、本当かい?

おばあさん

ええ、私はずっとこの場所でおじいさんと過ごして来ましたから。ちょっとは違う世界も見てみたかったと思ってね。わがままかね?

おじいさん

……いいや、そんなことは無いさ

おばあさん

ごほっ、ごほっ! でも、この体じゃ……ね。何時まで持つか分かったもんじゃない

おじいさん

……すまんの。わしにはお前さんにやるディの実を買う金も、取りに行く体力も無い……

 当てもなく走り回っていた少女の下に、入って来たとある老夫婦の会話。これを聞いた少女は、いたたまれない気持ちになった。

少女

……おばあちゃん、調子悪いの?

おばあさん

おや、可愛いお客さんだねぇ。変な会話聞かせちゃってごめんなさいね

少女

ううん

少女

おばあちゃん! 私、おばあちゃんの為に取って来るよ、ディの実!!

おじいさん

冗談よしなさい、ディの実は、崖にしか咲かない。お嬢ちゃん一人じゃ取れやせんよ

少女

待っててね! 今すぐとって来るから!!

おばあさん

おやまぁ……

おじいさん

まぁ、諦めてすぐ帰って来るじゃろう。その時は励ましてやろうな

少女

確か此処に、生ってるはず……!

 ボートをレンタルし、ディの実が生る渓谷へとやってきた少女。道具の準備もばっちりだ。

少女

よいしょ……

 少女は少しずつ、着実に崖を登っていく。……が。

少女

うわぁ!

 足を踏み外し、水面へと落ちてしまった。

少女

下が水で良かった……

 少女は泳いで崖の手前までくると、再度道具を使い、崖を登っていった。

 時も経過し、少女の目の前にはとうとうディの実が! しかし、少女が手を伸ばしたその瞬間のことだった。

少年

よっしゃあ!!

少女

あー!!

 少女より数秒早く、見知らぬ少年がディの実を崖の上から掴み、持って行ってしまったのだ。

少女

ま、待てー!!

 少女はなんとか崖の上まで登り切ると、少年を追いかけた。

Type-A

あ、君

少女

さっき、男の子が此処走って来ませんでしたか?

Type-A

え、えっと。あっちに

少女

有難う!

Type-A

あ、ちょっと……

 Type-Aが話しかける隙も無く、少女は少年を追いかけてしまった。彼女の後姿をこのまま見送るわけにもいかまい。彼もまた、少女を追いかけた。

少女

見つけたぞ!

少年

うわ、もう来やがった! 崖登ってたのにバケモンかよっ!!

少女

さぁ、その実を返して貰おうか……

少年

……絶対に渡すもんか。コレがあれば、俺達の生活が潤うんだから

少女

あのねぇ、こっちはおばあちゃんの命がかかってるんだから!!

少年

お、おばあちゃんの命!? ……でも、俺達だって必死なんだよ

少女

と言うと?

 少年の家は彼の生まれる前から貧しく、体の弱い母を守るように、少年と妹が働いているのだそう。

少女

……そっか

少年

こっちも必死に探して、やっと見つけた実なんだ。お前みたいにちゃんと崖だって登って来たんだぞ

少女

……分かった! それは君にあげるよ!!

少年

……お前……

少年

有難う、恩に着るぜ!!

少女

さて、今度はどうするかなぁ

商人

ディ~ディの実が今なら安いよ~

少女

うっそ、マジ!? それ下さい!!

商人

よし、それじゃあ1000マニーな

少女

たっか! でも払えなくは無いか……ほいっ

商人

まいどー

 商人から買ったディの実を手に、少女はスキップをしながらおじいさんとおばあさんの下へ戻った。

 しかし、おじいさんとおばあさんの反応はあまりにもあっけない。

おじいさん

……おや、これはニセモノだね

少女

ええっ!?

おばあさん

ええ、そうだね。でも折角取って来てくれたんだ。雑炊の具に入れて頂戴

少女

……

少女

待ってて! 絶対今度は本物持ってくるから!!

おじいさん

おい、これ……

 またしても、少女は二人の言葉を聞かずに去って行ってしまった。

少女

駄目だ、見つからない……

 少女はしゃがみこみ、その場でなきじゃくった。そんな彼女の視界に、一つの手が伸びてくる。

Type-A

君が欲しいのはコレ?

少女

ど、どうしてソレを……!

Type-A

そりゃあ分かるさ、ずっと君を追いかけていたんだから。この実、おばあさんにプレゼントしてやって

少女

う、うん! 有難う!!

Type-A

その代わりと言ってはなんだが、渡した帰りで良いから、ちょっとついてきてくれないか?

少女

……? うん

おじいさん

何と……!

おばあさん

まぁ……!

 少女の手にある本物のディの実に、二人はたまげたが、これをおばあさんに手渡すと、おばあさんはこれが現実であることを実感した。

おばあさん

有難う、有難うね……

おじいさん

本当に、感謝してもしきれんよ

少女

良いの、私は貰っただけだしね! それじゃあ、用事あるから行くね!!

おばあさん

ちょっと待っ……って言ってももう遅いね。本当に、本当に有難う

Type-A

ついてきてくれ

少女

うん

 二人が歩いていくと、やがて夕暮れだった空も暗くなっていった。

 そして、二人が着いた場所。それは、先程の崖の上だったのだが、それより少女が驚いたことは、Type-Aが空を飛べると言うことだ。

少女

すっごー! 空飛んだ

Type-A

それより凄いことが、これから起きるぞ。もう少しだけ待ってくれ

少女

うんうん!

少女

うわぁ~!!

 一定の時が経過すると、少女達の目の前には、光る花々が咲いていた。

Type-A

知らなかっただろ? この町の花が、光るだなんて

少女

うん、どうして!?

Type-A

実はこれ、私達が少しだけ細工したんだ

少女

きれーだね!! ……でも

Type-A

……変えられてしまうことは、やっぱり怖いのか?

少女

うん。私は今のままでも良いと思うよ。どうして変えちゃうの?

Type-A

……そうだな、強いて言うならば、私もこの場所を愛しているから、だろうか

少女

そうなの?

Type-A

ああ、本当だ。この懐かしくも、どこか見新しい景色はとても素敵だと思うし、住んでいる者達の人柄だって良い。君を見て、そう思ったよ

少女

えへへ

Type-A

だが、この村はこのままでは、いずれ人も減り、廃退していくだろう。それだけは、絶対にさせたくないんだ。同じ、この場所を愛する者としてね

少女

でも、この場所が変わっちゃったら、今まで住んでた人達は……?

Type-A

うん。だから、なるべくこの美しい景色を残して、且つ良い場所を作っていけたら。そう思っている。この世界を、生まれ変わらせたいんだ。……出来ないかな?

少女

……出来ると思うよ、だって、こんな素敵なお花畑を作れちゃうんだもん! もっとこの町を、素敵に生まれ変わらせてね

Type-A

……ああ!

少年

きれー……

おじいさん

綺麗じゃのう、ばあさん

おばあさん

ええ、綺麗だね

少女

本当に綺麗だね

Type-A

ええ!

 そして、長くて美しい夜は、刻々と終幕を遂げていった。

…一か月後…

少女

ギャー!! 遅刻だー!!!

 あの美しい花畑を見てから、もう二か月が経つ。今日は、町の一大イベントとも言える、エリー都市の誕生記念日だと言うのに、よりによって寝坊してしまった。

 パンを加え、寝癖を付けたままで、家を飛び出す。

 その瞬間――。少女は思わず加えていたパンを落としてしまった。

少女

わぁ~!!!

エリーに住む人

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