夕暮れの橋の上、キャンバスを抱えてそこから去ろうとした僕は、澄んだ声に引き止められた。
また、お会いしましたね。
夕暮れの橋の上、キャンバスを抱えてそこから去ろうとした僕は、澄んだ声に引き止められた。
え・・・
どこか見覚えのあるような気もするが、少なくとも同じ学校や塾の知り合いではない。
記憶の断片を引き戻そうとしても、そこだけが何故か鍵をかけられてしまったようにどうしても彼女の事を思い出すことが出来なくなっている。
お久しぶりです。もちろん、覚えてませんよね?
彼女は、もし人違いだったとき恥ずかしくないのだろうかと思うほどずんずんと話を進めていく。
しかも『覚えていない』という前提で。まったくもって意味がわからない。
分からなくても、大丈夫…
…彼女の真っ白な手が、ゆっくりとこちらに伸ばされる。
彼女の触れた所から、じんわりとあたたかなものが体を巡り、それは鍵のかかっていた僕の記憶の扉を開いた。
お久しぶりです。もちろん、覚えてますよね?
僕と彼女の記憶が、一気に流れこんでくる。
いつの日かの、記憶の欠片。