僕の良くないクセだったように思います。何事も後ろ向きに考えて、そんな何の役にも立たないもの。それがクセと言ってしまっては元も子もありませんが。

嫌い。


そんな言葉を君は雨の日に僕にぶつけてきました。それは唐突で何の準備していなかった僕はまともに受け止めてしまいました。

冗談でしょ?


苦笑交じりにそんな言葉しか返せませんでした。何か君に言い返す権利を僕が持っていなかったからだと思います。

いつも喋るために立ち寄る公園の端にある休憩所。屋根があって、ベンチがあるだけの簡素なものだったけれど、そこから見える池と蓮は何だか趣があって好きでした。

けれど、そんなことがどうでもなるくらい僕は君しか目に入りませんでした。

冗談なんかじゃない。
本気。


君は僕をしっかり見据え、力強く言い放ちました。

それもしょうがないと思います。何かにつけて僕は後ろ向きで、君はいつだって前を向こうとしていました。どんな逆境に立ったとしても、どうにかして追い風に変えてしまおう。そういう気概を持っていました。

僕はそんな彼女の足かせにしかならなかった。後悔しています。

そっか。


ただそれだけ。

すぐに踏み切ることができない僕は僕のことが嫌いでした。

そもそも彼女が前で僕が後ろならば、背中合わせになってしまっていて同じ方向を見ることができていません。こうなることが必然だったのかもと思ったりもしました。

もういい?


君は僕に背を向けました。

そういつも通り。

彼女が最後に僕の名前を呼んだのはいつか分かりません。僕も君を何と呼んでいたのか思い出すことができません。もう目の前にいないからなのかもしれません。

少し昔話をしよう。


この期に及んで後ろを向く僕をどうか許してください。

私、帰るから。

雨宿りするだけ。
BGMとでも思ってくれればいいから。


僕に顔を一切向けずに、一番遠いところに君は座りました。

君から告白をしてくれたときはびっくりした。あまりに接点がなかったから。


少し僕は君の横顔を見ていたりしていたのだけれど、そんなことはどうでもよくて。僕は怖くて何もできなかっただけでした。それなのに君は僕に告白した。


うん。

いろいろなところに行ったりもした。広島、沖縄、京都、北海道……。けれど、君の故郷に一緒に行くことはこれで叶わなくなった。


うん。そうだね。

もちろん喧嘩もした。こんなふうに長引いても何かすごくどうでもいいようなことで仲直りしたりして。その一連の過程がとてもおかしくて、面白くて。


君は一度も僕を見ませんでした。しょうがないのは分かっているけれど、すこし寂しかった。

そんな『とき』が僕にとってはかけがえのないもので、失いたくないものになっていった。いつかは別れるものと思っていたけれど、こんなに早く訪れるなんて。


早くはないかな? 

そんなこと言う資格はもう剥奪されてしまったわけだけど。

それから僕はとても女々しかったと思います。何とかして君を繋ぎとめたいとどんなことも言ったから。冷静になってみると少し恥ずかしいです。

もう何も言えなくなってしまったころ、雨が止みました。

もういい?


マキシ丈のスカートを直しながら言いました。

うん。


そう言うだけ。

じゃあ、さよなら。


それでは、何も変わらないだろう。

そう考えて僕は君に言ってやった。

僕も嫌いだ。


雨が止んでから初めて君はこちらを向いて。

……。


歯を見せて笑いました。

ああ、この顔だと思いました。この顔に、君の考え方も何もかもが詰まっていたんです。

さよなら。


そう言ってお互いに背を向けて歩き出しました。

それぞれの道に向かって。

僕が君を好きだったころ

それから僕はここに来るまで君の顔を見ることはなかったんだけど、やっぱり僕は君が嫌いです。


だって、笑わないから。





僕から君へ  

僕が君を好きだったころ

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