幼いのぞみに男の子らしくないと言われたことが余程ショックだったらしい。益荒男(ますらお)は数歩後ずさると、そのまま倒れて気を失ってしまった。
いや……だからさ、ガチで返した方が良いって虎次郎(とらじろう)
お嬢ちゃん、お名前のんちゃんって言うの?
おい、聞けよ
ううん、のぞみだよ! お兄さんは?
俺? 俺の名前はね~良太郎って言うんだ
え……お前虎次郎じゃないの? 良太郎なの!?
え、お前良太郎!? 俺今までずっと騙されてたの!?
あ、いや……
だってお前……俺が良太郎って名前だったらぜってぇダチにならないだろ? 特にヤンキーは
それはまぁ……
だとしても打ち明けろよ! 相手がどんなのでも、受け入れるのがダチってモンだろうが!!
だってさ、のぞみ? 聞いた?
うん! やったー、益荒男兄ちゃんも函館来てくれるんだ、わーい
えー! いや、だからそういう事じゃなくて……
じゃあ、どういう事? お前、嘘つきなの?
いや、嘘とかじゃないだろこういう場合。だからそのさあ
益荒男兄ちゃんって男の子らしくないんだね
んな……!!
幼いのぞみに男の子らしくないと言われたことが余程ショックだったらしい。益荒男(ますらお)は数歩後ずさると、そのまま倒れて気を失ってしまった。
―飛行機内―
は! ここは一体……俺は
よく寝てたな。あと一時間で着くぞ函館
のん、楽しみ~
なぬー!? てか、お前らどうやって俺の事ここまで運んだの?
なぁなぁ、早く函館着いて益荒男をハリストス教会に置いてきたいな~
良い人になって帰って来てほしいね
余計なお世話だよ!!
―函館駅―
着いたな、函館!
は~っこだって~♪
なんだか腑に落ちねぇなぁ
……って言うかお前さぁ、ガッツリ観光する気じゃね!?
と、益荒男が指さした良太郎の手元には、「週刊函館」があった。
いやぁ、まさか!
とは言ったものの、良太郎がガッツリ観光する気だったのは言うまでも無い。
―ハセガワストア―
着いたぞ!
わーい、ハセガワストアだあ!
どこだよここ?
だからいまハセガワストアって言ったろ?ちゃんと聞けよ
だからそういう意味じゃなくて、一体どういった目的で俺たちはここに来てるとか、東京のワルの俺達には全くなじみが無いっていうかさあ……とにかく情報が少なくて不安なんだよ。なあ、店入る前にちょっとググってみても……
ホント益荒男兄ちゃんって男らしくないんだね
はい黙ります。黙りますからそれだけは言わないで!
注…ハセガワストアとは…北海道函館市を中心に展開しているコンビニエンスストアです。
北海道根室市には、チェーン店であるタイエーも展開しています。
当社の看板商品であるやきとり弁当は1978年9月に発売して以来、現在も当時と変わらぬ味を守り続けています。〈お店のHPより抜粋〉
函館市民のいわばソウルフードとして愛され続けているご当地グルメ
お父さんが言ってたけど、昔グレイがテレビで言ってちょっと有名になったんだって
ええ! 宇宙人が! マジで!?
いや、たぶんそっちじゃないと思うけど、まあ俺もよく知らんけど
店の外でヤンキー座りしてやきとり弁当のふたを空ける三人。
おお、ヤバッ!! めちゃ美味そう
良い匂い~
やっべえ! 超うめえなのぞみ!?
うん、すっごく美味しい! それとあのね。このブタさん。お父さんにそっくり~
マジで? さすがだな。のぞみのお父さん。こんなおいしい弁当の写真に使われるだなんて~
良太郎、話の解釈間違ってるぞ? ……っていうかこの弁当さあ
どした益荒男?
この中身って“焼き鳥”弁当だよな?これ上に乗ってるの豚串じゃね? 鶏肉じゃねえよな?
あのね、益荒男兄ちゃん
ん?
独りで喋ってばっかいないで食べたら?冷めるよ?
そこは“男らしくない”の天丼だろ!!
注…北海道の道南エリアでは、一般的に「やきとり」というと豚肉のことを指します。
道南地区は養豚場も多く、鶏より豚が安価に手に入りやすかったことが、その一番の理由といえるかもしれません。〈これまたお店のHPより抜粋〉
因みにハセガワストアにはちゃんと鶏肉の焼き鳥も売っているようです。
ちなみに、天丼と言うのは同じボケや振りを二、三回被せるお笑い用語のことを指します。
あれ? いま誰か余計に喋らなかった?
いや、誰も
また益荒男兄ちゃん他人のせいにしようとしてる
帰り道の途中、のぞみがふと足を止めると、おもむろに雪だるまを指差した。
あ! お父さんっ!!
!!
!!
お嬢ちゃん、そういう冗談は駄目だぜ。父ちゃん泣いちまうぞ? オラ、お前も何とか言えよ
ウオオオオッ! お、お父さんですかあああ! こんな格好で来てしまってすみませんっっっ!!
え?
あ、あああ、あの! 色白で正に道産子って感じで……いや、決して悪い意味では!!
お前……それは無ェって。だってソレ、雪だるまだもん。仮にソイツが父ちゃんだったら、のぞみの父ちゃん全裸じゃねぇか
あ、あの……余計なお世話かもしれないんですけど、寒くないですか? その……真っ裸ですし。男前は良いかもしれませんけど、娘さんの前ですし
そこは分かっているのか
あの……俺の上着どうぞ! 俺の服なんて嫌かもしれませんけど、その……温もり残ってるので!!
その言い方でもっと嫌になるわ
そんなお気を遣わずとも……ああっ!
良太郎が服をかけようとしたその時、雪だるまの頭がもげてしまい、そのまま頭は地面に転げ落ちてしまった。
……やべぇよ。やべぇよ俺
……お父さん殺(や)っちまったぁぁぁ!!!
ば、馬鹿! 大声で変な言い方すんじゃねぇ!!
気が動転して泣きだす良太郎。それを見たのぞみがいそいそと動き出す。
りょーたろー!!
泣きながら振り返る良太郎と、困り果てた様子の益荒男ものぞみの声に振り返る。すると、のぞみはぜーはーと肩で息をしながら良太郎に言った。
出来たよ! 新しいお父さん!!
……お、おとうさぁーん!!
とりあえずのぞみのお父さんが丸く太った中年なのは間違いないだろう
〈脚本・監修〉橋本ピッツァ(敬称略)
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