益荒男

いや……だからさ、ガチで返した方が良いって虎次郎(とらじろう)

虎次郎

お嬢ちゃん、お名前のんちゃんって言うの?

益荒男

おい、聞けよ

のぞみ

ううん、のぞみだよ! お兄さんは?

虎次郎

俺? 俺の名前はね~良太郎って言うんだ

益荒男

え……お前虎次郎じゃないの? 良太郎なの!?

益荒男

え、お前良太郎!? 俺今までずっと騙されてたの!?

良太郎

あ、いや……

良太郎

だってお前……俺が良太郎って名前だったらぜってぇダチにならないだろ? 特にヤンキーは

益荒男

それはまぁ……

益荒男

だとしても打ち明けろよ! 相手がどんなのでも、受け入れるのがダチってモンだろうが!!

良太郎

だってさ、のぞみ? 聞いた?

のぞみ

うん! やったー、益荒男兄ちゃんも函館来てくれるんだ、わーい

益荒男

えー! いや、だからそういう事じゃなくて……

良太郎

じゃあ、どういう事? お前、嘘つきなの?

益荒男

いや、嘘とかじゃないだろこういう場合。だからそのさあ

のぞみ

益荒男兄ちゃんって男の子らしくないんだね

益荒男

んな……!!

 幼いのぞみに男の子らしくないと言われたことが余程ショックだったらしい。益荒男(ますらお)は数歩後ずさると、そのまま倒れて気を失ってしまった。

―飛行機内―

益荒男

は! ここは一体……俺は

良太郎

よく寝てたな。あと一時間で着くぞ函館

のぞみ

のん、楽しみ~

益荒男

なぬー!? てか、お前らどうやって俺の事ここまで運んだの?

良太郎

なぁなぁ、早く函館着いて益荒男をハリストス教会に置いてきたいな~

のぞみ

良い人になって帰って来てほしいね

益荒男

余計なお世話だよ!!

―函館駅―

良太郎

着いたな、函館!

のぞみ

は~っこだって~♪

益荒男

なんだか腑に落ちねぇなぁ

益荒男

……って言うかお前さぁ、ガッツリ観光する気じゃね!?

 と、益荒男が指さした良太郎の手元には、「週刊函館」があった。

良太郎

いやぁ、まさか!

 とは言ったものの、良太郎がガッツリ観光する気だったのは言うまでも無い。

―ハセガワストア―

良太郎

着いたぞ!

のぞみ

わーい、ハセガワストアだあ!

益荒男

どこだよここ?

良太郎

だからいまハセガワストアって言ったろ?ちゃんと聞けよ

益荒男

だからそういう意味じゃなくて、一体どういった目的で俺たちはここに来てるとか、東京のワルの俺達には全くなじみが無いっていうかさあ……とにかく情報が少なくて不安なんだよ。なあ、店入る前にちょっとググってみても……

のぞみ

ホント益荒男兄ちゃんって男らしくないんだね

益荒男

はい黙ります。黙りますからそれだけは言わないで!

ピッツァくん

注…ハセガワストアとは…北海道函館市を中心に展開しているコンビニエンスストアです。
北海道根室市には、チェーン店であるタイエーも展開しています。
当社の看板商品であるやきとり弁当は1978年9月に発売して以来、現在も当時と変わらぬ味を守り続けています。〈お店のHPより抜粋〉

良太郎

函館市民のいわばソウルフードとして愛され続けているご当地グルメ

のぞみ

お父さんが言ってたけど、昔グレイがテレビで言ってちょっと有名になったんだって

良太郎

ええ! 宇宙人が! マジで!?

益荒男

いや、たぶんそっちじゃないと思うけど、まあ俺もよく知らんけど

 店の外でヤンキー座りしてやきとり弁当のふたを空ける三人。

良太郎

おお、ヤバッ!! めちゃ美味そう

のぞみ

良い匂い~

良太郎

やっべえ! 超うめえなのぞみ!?

のぞみ

うん、すっごく美味しい! それとあのね。このブタさん。お父さんにそっくり~

良太郎

マジで? さすがだな。のぞみのお父さん。こんなおいしい弁当の写真に使われるだなんて~

益荒男

良太郎、話の解釈間違ってるぞ? ……っていうかこの弁当さあ

良太郎

どした益荒男?

益荒男

この中身って“焼き鳥”弁当だよな?これ上に乗ってるの豚串じゃね? 鶏肉じゃねえよな?

のぞみ

あのね、益荒男兄ちゃん

益荒男

ん?

のぞみ

独りで喋ってばっかいないで食べたら?冷めるよ?

益荒男

そこは“男らしくない”の天丼だろ!!

ピッツァくん

注…北海道の道南エリアでは、一般的に「やきとり」というと豚肉のことを指します。
道南地区は養豚場も多く、鶏より豚が安価に手に入りやすかったことが、その一番の理由といえるかもしれません。〈これまたお店のHPより抜粋〉

因みにハセガワストアにはちゃんと鶏肉の焼き鳥も売っているようです。

ピッツァくん

ちなみに、天丼と言うのは同じボケや振りを二、三回被せるお笑い用語のことを指します。

益荒男

あれ? いま誰か余計に喋らなかった?

良太郎

いや、誰も

のぞみ

また益荒男兄ちゃん他人のせいにしようとしてる

 帰り道の途中、のぞみがふと足を止めると、おもむろに雪だるまを指差した。

のぞみ

あ! お父さんっ!!

良太郎

!!

益荒男

!!

益荒男

お嬢ちゃん、そういう冗談は駄目だぜ。父ちゃん泣いちまうぞ? オラ、お前も何とか言えよ

良太郎

ウオオオオッ! お、お父さんですかあああ! こんな格好で来てしまってすみませんっっっ!!

益荒男

え?

良太郎

あ、あああ、あの! 色白で正に道産子って感じで……いや、決して悪い意味では!!

益荒男

お前……それは無ェって。だってソレ、雪だるまだもん。仮にソイツが父ちゃんだったら、のぞみの父ちゃん全裸じゃねぇか

良太郎

あ、あの……余計なお世話かもしれないんですけど、寒くないですか? その……真っ裸ですし。男前は良いかもしれませんけど、娘さんの前ですし

益荒男

そこは分かっているのか

良太郎

あの……俺の上着どうぞ! 俺の服なんて嫌かもしれませんけど、その……温もり残ってるので!!

益荒男

その言い方でもっと嫌になるわ

良太郎

そんなお気を遣わずとも……ああっ!

 良太郎が服をかけようとしたその時、雪だるまの頭がもげてしまい、そのまま頭は地面に転げ落ちてしまった。

良太郎

……やべぇよ。やべぇよ俺

良太郎

……お父さん殺(や)っちまったぁぁぁ!!!

益荒男

ば、馬鹿! 大声で変な言い方すんじゃねぇ!!

 気が動転して泣きだす良太郎。それを見たのぞみがいそいそと動き出す。

のぞみ

りょーたろー!!

 泣きながら振り返る良太郎と、困り果てた様子の益荒男ものぞみの声に振り返る。すると、のぞみはぜーはーと肩で息をしながら良太郎に言った。

のぞみ

出来たよ! 新しいお父さん!!

良太郎

……お、おとうさぁーん!!

益荒男

とりあえずのぞみのお父さんが丸く太った中年なのは間違いないだろう

〈脚本・監修〉橋本ピッツァ(敬称略)

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