父さんから、古の剣士が使っていた『月明りの剣』を譲り受け、己の運命を悟った私は、父さんと母さんの住む生家を後にした。

アルモ

父さんは…

アルモの父

この剣と共に旅立ち、真の世界の理を見てくるのだ!

アルモ

と言っていた…
とりあえず、いつも買い出しに行っていた町まで行ってみよう…

 私は、町までの道を歩き出した。

 どれほど歩いただろうか。

 夕刻過ぎに終わった成人の儀式直後に両親から受けた告白。その後、剣に触れた次の瞬間に私の頭に流れ込んできた剣の記憶。そして旅立ち。

 生家を勢いよく出てきたものの、成人の儀式が終わったあたりで東の空から登り始めた月は、私の頭上を通り過ぎ、既に西の空へと傾いていた。

アルモ

…いつでも旅立てるようにって、母さんが荷物を用意してくれていたから野宿には困らないけど…
こんなことなら、太陽が昇ってから出発するべきだったかな…

 生家を勢いよく出て来てしまったことを後悔しながら、野宿の準備をし焚き火を起こした私は、荷物の中からチーズを取り出し軽く炙ると、地面にとろけ落ちる前にパンの上へ乗せ、口へと運ぶ。

アルモ

…真の世界の理、か…そんな簡単に見つかるのかな…

 簡単な夕食を済ませ寝袋に包まった私は、木々の隙間に見え隠れする満天の星空を眺めながら、そんなことを考えていた。

 だが…

アルモ

!!!
この足音は………オオカミの群れ!?

 寝袋から瞬時に出た私は、腰に剣を装備すると、無駄と分かっていながらも焚き火を消し、耳を澄ます。

すると、オオカミと思しき群れの足音の中に、微かだが人の足音が混じっていた。

アルモ

少しずつ、足音が大きくなっている…

 漆黒の闇に染まる周囲に同化した私は、剣の柄に手を当てその場に構えると、少しずつ大きくなる人の足音を確かに耳で捉えながら、それの出方を伺う。

 刹那…

 私は、素早く月明りの剣を鞘から抜き去ると、背後に現れた足音の正体ののど元に切っ先を突き立てた。

わっ!ストップ!ストップ!!俺は怪しい者じゃない!

アルモ

私の両親が言っていたわ
。『自分は怪しくない』と言い張る者ほど、怪しむべきだと…

だから、俺はその両親から頼まれて、あんたを追いかけて来たんだって!

 薄暗くて顔は良く見えないものの、その男はとっさにCrescent Allianceの紋章を、ほのかに輝く月明りの剣の刀身近くにかざした。

アルモ

それは…

信用してもらえたようだな…だが…

アルモ

しまった!あなたに気を取られて、オオカミの群れが近づいているのを忘れていたわ…

 すると、鞘から抜き去ったロングソードを目の前に構えたその男は、私と互いに背中を預ける形で立った。

おっと!俺もまだ死にたくはないんでね…
俺の疑いも晴れたことだし、ここは共闘しようじゃないか!アルモさん!!

アルモ

…あなた、名前は!?

ガイーラ

おっと、これは失礼。
俺はガイーラ。
表向きはフォーレスト王国の近衛隊長をやっているが、裏の顔はCrescent Allianceの遊撃部隊員さ。

アルモ

CAにも、部隊があるのね…

そんなことよりも、今は目の前のオオカミ共をどうにかするのが先決だ。
話は、こいつらを始末してからにしよう!

アルモ

そうね。私の背中は預けたわ!

アルモ

こうして私とガイーラは出会い、オオカミの群れを壊滅させ、私は無事にCrescent Allianceの本部に迎え入れられたわ。
ただ、本部といっても、ただの一軒家だったけど、ね。

アコード

なるほどな…それで「命の恩人」な訳か…

アルモ

そのガイーラが、もうこの世の人じゃなかっただなんて…
ううっ、ヒック…

 昔語りが終わり、再び感極まったのだろう。アルモは再び嗚咽を漏らし始めた。

アコード

レイスは、ガイーラがCAのメンバーだったことは知っていたんだよな…

レイス

まぁ、そうだな。かくいう私も、だ…

 レイスがペンダントに装飾されたCAの紋章を見せる。

アコード

そうだったのか…

レイス

ガイーラ様は、この国の近衛隊長を任される程、腕の立つお人だ。
敵将は『今頃は死んでいる』などとほざいていたが、私はいまだにその言葉信じられぬ。
主はきっと、どこかに落ち延びているに違いない…

 レイスの言葉に、アルモの嗚咽が止まる。

アルモ

…そうよ、ね…ガイーラさんが、死ぬわけないわよ、ね…

 レイスの言葉に信ぴょう性など微塵もない。

 だが、その場の3人を奮い立たせるには十分すぎる言葉でもあった。

アコード

…とりあえず、フォーレスト城を出よう。城の外の様子も気になる…

アルモ

…それも、そうね。
こんな辛気臭い場所でウダウダしているのを、ガイーラだったら許さないだろうし…

レイス

アルモの言う通りだ。私も、こんなところでメソメソなどしていられない!

アコード

よし!それじゃ城の外へ!

 こうして俺たち3人は、ガイーラに扮していたワイギヤ教軍12将軍の1人ラジマの撃退に成功した謁見の間を後にし、フォーレスト城を出たのだった。

第4話へ続く

Episode5「帰郷」 第3話~ガイーラとの出会い~

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