昔々、本当に遠い昔。
後世から俗に神話と呼ばれているような過去。
その頃、世界は戦争ばかりしていました。
神様しかいなかった当時の世界は、それぞれの主義主張を繰り返すうちに収拾がつかなくなり、軈て戦争へと発展していきました。
今で言う『ラグナロク』の始まりは、現代と大きな違いはないのです。
世界の終焉とも呼ばれるこの大戦争では、文明が後退し、神々が死に絶えるほど甚大な被害を出したと言われています。
僅かばかりの生命達は長い長い時をかけて、漸く再生し今の世界があるのです。
そして今の世界にはラグナロクの名残である使われていたお宝……ではなく兵器があります。
それが『ラグナ・マテリア』と言われる超兵器の数々。
現代の文明ではもう二度と作れないと称される高度な技術で作られている、らしいです。
解析がまだ進んでいないので言い切れませんが。

ここ、重要です。
テストに出ますのでしっかりとノートに書き込んでおくように。

では、今日の授業はおしまいです。
各自、しっかりとノートに纏めていくように。

マキナ

じゃあ裁判はじめます
検察と裁判長が私
被告人は師匠
弁護人はいらない
あと証人も沢山いるから

師匠

待て、マキナ!
ごめんなさ

マキナ

師匠さんは黙ってて

師匠

なんでや……

この世界における、ラグナ・マテリアはとても危険で、希少なものだ。
巡って戦争なんてしょっちゅうだし、世界大戦だって今もやってる。
大変役に立つものもあれば危ないもの、多種多様。
価値観が種族ごとに違うからこれまた争いの種になる。

主人公、エクス・マキナは自律型で数少ない、稼働するレアなラグナ・マテリアだ。
正確に言うならば、マテリアに改造されてしまった遠い時代の忘れ物。
ラグナロク世界からずっと封印されて、先日解放されて漸く再起動した、とても珍しく強力な兵器である。

マキナ

わたしの時代は男神が覗きをした場合、問答無用で殺されても文句は言えないんだよ

マキナ

裁判という公平な方法をとっている事を先ず喜ぶべきじゃないかな、師匠さん
言い逃れとかしたらすぐに叩き割るよ

師匠

ひでえ……

神話時代に作り出されておきながら現代に蘇った生きる兵器。
マキナは今、生徒としてこの学園に生活している。
このストーリングス魔法学園が誇る最大戦力の一つである自負がある。
スケールが小さいけれど戦争をしている意識も。

そして来度の戦争は、女子更衣室をマテリアを使って覗き込んだとして、現行犯逮捕された男子生徒の裁判である。
というか、マテリアそのものであった。
本名不明、種族元人間、住所不定帰宅部、通称『師匠』の裁きを下す役目に抜擢された。
この生徒、実に不幸な生徒なのだ。

そもそもラグナ・マテリアとは、本質が戦略兵器でありながら、大型兵器から個人携行出来るサイズのものまで多岐に渡る。
用途も様々であり、基本的に解析するまでは何か出るか分からないブラックボックス。
しかも神々が自分たちの戦争に使った兵器ゆえ、他の子孫の種族が使おうとすれば大抵無理が生じる。
この生徒が所有するマテリア、『メアリーの眼』は、所有しているだけで魂がマテリアと融合して引き離すことができなくなった。
女神メアリーが偵察のために作り出した眼鏡なのだが、運の悪いことに師匠は身体から抜き取られた魂が現在、本体と共にあるためまともに生活できない状態だった。

名前がわからないのも『メアリーの眼』装備による二次被害で、情報隠匿状態に陥っているために魔法の存在する現代においても誰も本名を思い出すことができなくなった。
仕方なく、優れた魔術師であるこの眼鏡は師匠という名称で呼ばれているわけだ。
なお、マテリアではあるが耐久度は通常の眼鏡と大差ない。但し壊れても兵器であるため自動で治る。
『メアリーの眼』はいうなれば透視や高次元な未来予測などを可能にする兵器で、この男は置いてあった位置が丁度女子更衣室の方角だったが故に、覗いてたんじゃないかという疑いをかけられて強制連行。
現在、裁判という名前のリンチ寸前に立ち往生している。

マキナ

言いたいことは?

師匠

ごめんなさい!
色々配慮不足でした!

追い詰められて、師匠は謝った。
謝る以外には出来なかった。
マキナはあくまで無慈悲に問う。

マキナ

素直に罪状を認めるんだね?

師匠

あの、そのことなんだけど……
一応弁明させていただけませんかね……?

マキナ

弁明?
言い逃れじゃなくて?

師匠

今更するかッ!

言い逃れしたら、きっとこうなる。
彼には視える。
メアリーの眼による絶望の未来予測が。

ギャアアアアアアアーーーー!!

この機械少女は絶対にそうする。
間違いない、なので謝っておくのは懸命な判断だ。

師匠

俺は誓って、お嬢様方の着替えを見ておりません
真犯人は別にいるのです

マキナ

よーし、割ろうかな
やっぱり言い訳したし

師匠

やめて!
最後まで話聞いて!

違う違うと必死に叫びながら、冷たい目で見つめる周囲の女子に訴えかけるように眼鏡は言う。

師匠

あいつ! あいつだよ犯人!

マキナ

誰のこと?

名前が思い出せないメガネに苛立って周囲の女子が裁きの鉄拳をマキナに要求。
渋々絶叫を上げている師匠に叩き落とそうとする、その時だった。

ワイアーム

よォ、まだ生きていたかクソメガネ

師匠

テメェは!?

師匠が鋭く叫ぶ。
そして、こいつこそが真犯人だと告げた。
悪人面の男の名はワイアーム。
ドラゴンの一族であり、極めて悪趣味な嗜好をもつ変態。
置いてあった師匠の方角を変えたのはこの男だった。
理由、面白そうだから。
師匠が女子に怯えているのを見るのが。
それを詰れる状況が欲しかったから。

ワイアーム

無様だなァ、クソメガネ
女に取り囲まれてビクビクしてやがってよォ

師匠

貴様ッ……!

憤る師匠。だが眼鏡の宿命で自立行動は出来ない。
攻撃もできない。言葉で戦うしかない。

ワイアーム

おーおー怖い怖い
変態が移っちまうよ

ヘラヘラ笑っているワイアーム。
突然部屋に入ってきて周囲をスルーしてイジる。
……女子達の殺気が、ワイアームに集中しているのだが。
確実に、この鬼畜男の仕業であるとよーく分かった。
こいつの弱いものいじめは筋金入りで有名だ。

ワイアーム

なぁ、エクス
この眼鏡俺に貸してくれよ
油に放り込んで拷問にかけてやりてえ

そして今の狙いは師匠のみ。
如何にして彼が嫌がるかを常日頃研究し、実践する。
嫌がる、苦しむ所を見て悦に浸るのが良いとか。

マキナ

いいよ、ワイアーム
でもその前に、ちょっと覚悟してね?

ワイアーム

あ?

ワイアーム

あ゛ッ!?

マキナ

龍のぶつ切りにしてあげるッ!!

マキナが怒って、虚空に右手を掲げる。
そこには刹那、何かがぶれて、もう握られている。
ラグナ・マテリアの一つ、龍殺しの鎖鋸。
多くの龍のウロコを元ともせず切断してきた業物。
人間の姿になっていようが、知ったことじゃない。

ワイアーム

いや流石に死ぬ!

マキナ

だから何?

高速回転するノコギリを振り回すマキナ。
慌てて逃げ出すワイアーム。
兵器を使った追いかけっこの始まりである。
周囲の女子たちもそれぞれマテリアを構えてワイアームを追いかける。
慌ただしい室内の中、呆然とする師匠。
また置いてけぼりにされた。
だが、一人だけ追いかけていかなかった女子がいた。
知っている少女だ。名前は確か。

コッペリア

彼女も律儀だね……
こんなのに付き合わなくていいのに

名前はコッペリア。同じ自律型マテリアの一人。
少し前に稼働したラグナ・マテリア。
彼女はひょいっと師匠を持ち上げる。

コッペリア

そういうわけなの
ごめんね、『メアリーの眼』
君に恨みはないけど、ちょっと割れてもらうよ

師匠

!?

事実上の死刑宣告だった。
どういうわけだ。硬直する師匠。訳が分からない。
コッペリアは冤罪とはいえ、見た可能性は否定できないと念を押す。

コッペリア

君は知らないだろうけど、古い格言にこういう言葉があるの

コッペリア

壁にミミアリーのマイク
窓にメアリーの眼、とね
二つとも情報収集の為のマテリア
盗み聞きと盗み見を注意しろっていう教え

コッペリアは見たお前が悪い、イイから死ねと言う。
理不尽極まりない。
ミミアリーのマイクなんてマテリアもあるんだそうだ。

師匠

要するに俺を信じていないと?

コッペリア

そうなるね
昔から男はケダモノ、という格言もあるの
一度痛い目見ておかないと再犯の可能性大だから

師匠は握られる。
そのまま、力を込められていく。
このままでは……。一瞬、嫌な未来が駆け巡る。
それは、確定の未来だった。

コッペリア

君は悪くないよ
うん、全然悪くない

コッペリア

だから、死んでね

師匠

あっ、ちょ、やめェ……

ギャアアアアアーーーーーー!

死亡しました。

コッペリア

呆気ないなぁ……
同じラグナ・マテリアなのに……

コッペリア

もう少し頑張れないのこれ……?
メアリーの眼、レア物だし
あたしも欲しいんだけどなぁ……

コッペリア

むーっ……

コッペリアは一人唸りながら、師匠の残骸を投げ捨てて出ていった。
レア物マテリアが欲しいのは同じマテリアでも同じ。
でもこいつは今奪えない。
色々思考しながら、コッペリアは悩む。
そんな日々。魔法学園の小さな戦争の物語。
主にコメディ、時にシリアス。時にメタ。
マテリアと他種族たちの交流を描いていく。

師匠

なして殺したし

オチ担当だからです。

師匠

巫山戯んなァー!!

以上で、終幕!

マテリアその一 メアリーの眼

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