エウカシとオトウカシ
エウカシとオトウカシ
八咫烏(ヤタガラス)の案内で、一行は吉野川(奈良県吉野郡)の川下についた。
そこには竹編みの筒を罠にして魚を取ってる人がいたので、誰か聞くと二エモツノコと答えた。なんか暇そうだったので、一緒に来るか聞いてみたら仲間になった。
さらに一行が歩いていると、次はピカピカ光る泉の中から、尻尾の生えた人が出てきた。イワレビコはまたテンションが上がる。
じっ ・ ・ ・
獣人キタァァーっ!!!
・ ・ ・ ビクッ!!
イワレビコが思わず声を上げると、獣人の尻尾が
ピンっ!
と張る。向こうはめっちゃ警戒してる様子だ。
あ ・ ・ ・ すみません ・ ・ ・ その尻尾 ・ ・ ・ ・ ・ ・ すげー、いいですね。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ??
君、名前は?
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ イヒカ ・ ・ ・
そう言うと、不安そうに尻尾がしゅんと下がる。
きゅーん♡
是非とも彼が住んでる獣人村に行きたい!!
とねだったイワレビコだったが、八咫烏に
ふざけんな!!
とつつかれたので、仕方なくさらに山奥へ進んだ。イヒカは警戒しながらも一緒についてきてくれて、そのうち仲間になった。
しばらく歩くとまた尻尾の生えた人が、今度は大きな岩を押し分けながら出てきた。
うぉぉ!!またいた!!
今度のはゴツイ!!
・ ・ ・ ん??もしかして、あんたが天つ神の子か?
あぁ、そうだけど、君、名前は?
え?俺?? ・ ・ ・ ・ ・ ・ イハオシワクノコだが。
そぅ。ところで、イハオシワクノコさん、獣人には、女子もいるのだろうか??
女??
・ ・ ・ いやー、見たことねぇけど。
えっ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ あぁ。そうなんですか ・ ・ ・ ・ ・ ・
イワレビコは一気にテンションが下がった。その様子を見ていた八咫烏と久米兵に、ケタケタ笑われてしまう。
はは。ご期待に添えないで悪かったな。俺、近くに天つ神の子が来たって聞いたから迎えにきたんだよ。
そう言って、イハオシワクノコも仲間になってくれた。
なんだかんだで仲間が増えて、だんだん旅のパーティーっぽくなってきた一行は、また山を進み奈良の宇陀(うだ)に出た。
第一村人の情報によると、宇陀にはエウカシとオトウカシという兄弟が住んでいて、兄の方は気性の荒い性格らしい。
イワレビコは用心のため八咫烏を遣いに出し、自分に仕えるかどうか聞いて来てもらった。
・・・っざけんなよイワレビコ!!マジビビった!!マジビビったんだけど!!
いつも口の悪い八咫烏だが、遣いから帰るとさらに口が悪くなっていた。
どうやら弟のオトウカシの方はあっさり仕えると言ってきたのだが、兄のエウカシは絶対嫌だと言って八咫烏が近づいた瞬間、鏑矢で射ってきたらしい。
よしよし。可哀想に。怖かったんだなぁ。
イワレビコは、八咫烏の頭を撫でてやる。
怖かねぇよバカ!!っざけんな!!マジざけんなっ!!!
しかも、あいつ、軍を集めるとか言ってやがったぜ??どうすんだよ、イワレビコ。
そうか ・ ・ ・ 面倒だな。
あんな奴、さっさと殺っちまおうぜ??
うーん ・ ・ ・ いや、しばらく様子を見よう。軍がどのくらいの規模になるか見たい。
ありがとな、八咫烏。
・ ・ ・ ・ ・ ・ おぅ。感謝しな。
しかし、いくら経ってもエウカシの元に兵士が集まって来る様子は無い。
今回、偵察から帰って来た八咫烏はご機嫌だ。
フン!エウカシの野郎、兵が全然集まらねぇーでやんのっ!!ざまぁみやがれ!!
つーか、さっき偵察に行ったら頭下げられて、お詫びに歓迎の宴をするから来てくれだとよ。
えっ?そうなのか??随分、手のひら返すのが早い奴なんだな ・ ・ ・ ・ ・ ・
元々、肝っ玉のちっちぇー男だったんだよっ!!
すると、その日のうちに、エウカシはイワレビコ達の野営に足を運び、ペコペコと頭を下げて
ぜひともイワレビコ様に仕えさせてください!!
と言ってきた。
わざわざ一行を迎えるために御殿まで建てたらしい。今夜、そこで宴を開くので是非来て欲しいというのだ。
まぁ、そこまでしてくれたのなら
と、イワレビコ達は招待を受けることにした。
日も暮れ、一行は宴へ行く準備をしていた。久米兵は久しぶりのタダ酒だとワイワイはしゃいでいる。
そんな中、久米兵のリーダー、オオクメがイワレビコの部屋を覗いた。
なぁ、旦那。エウカシの弟のオトウカシが面会したいって、そこまで来てるんすけど、どうします?
え?オトウカシの方はすぐに仕えるとか言って、大人しくしてなかったっけ?
でも、息切らして慌てた様子でしたよ?
そっか ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ じゃあ、通してやって。
弟のオトウカシが、オロオロした様子で部屋に入って来る。
すぐ後ろには、イワレビコが信頼している最強の付き人、ミチノオミがピタリとついていた。無表情だが、何か少しでも怪しい動きがあれば、すぐに首を飛ばせる構えだ。
・ ・ ・ ・ ・
・ ・ ・ ヒッ!
ミチノオミ ・ ・ ・ そんなに威嚇するなよ。怖がってんじゃん。
ミチノオミは、チラッとイワレビコを見ると柄から手を離す。
・ ・ ・ ごめんね、オトウカシさん。
オレらはこれから、エウカシさんのところに行くところだったんだけど ・ ・ ・ 何かご用だった?
は ・ ・ ・ はい。あの、その、兄上の宴会なのですが ・ ・ ・ あれは罠なのです!
!!
ミチノオミがまた柄に手をかける。
ミチノオミ、やめろっってば ・ ・ ・
・ ・ ・ ・ で、オトウカシさん。罠ってどういうこと?
イワレビコは穏やかな口調で、冷たくオトウカシを見据える。
彼の説明によると、兄のエウカシが作った御殿の入り口には巧妙な仕掛けがあり、板の間を踏むとバネの力で人を圧殺させることができる仕組みになっているとのことだった。
そっか。教えてくれてありがと。よかったら、中でお茶でも飲んで行って。
イワレビコはオトウカシを中へ案内するため席を立つと、オオクメとミチノオミに視線を送る。
オオクメ、ミチノオミ ・ ・ ・
悪いんだけど、先に行ってエウカシさんがどうやって、オレのことを迎えるつもりなのか確認してきてもらえる?
あぁ ・ ・ ・ わかった。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
オオクメは軽く頷くと自分の槍を取り、ミチノオミと共にエウカシの元へ向かった。