これより有志によるかちかち山の演劇を始めます。
完璧だ……完璧すぎる
いや、気合入れすぎなんだけど……
すごいねこれ。
ほとんど特殊メイクの粋だよ
お姉ちゃんのメイク術のおかげだね!
ありがと! お姉ちゃん!
メイクされてる時から思ってたんだけど、なんでお姉さんなにも喋らないの?
え? ちゃんと喋ってるよ?
いや、なにも聞こえないけど
今だって
私の声は聞こえる者にしか聞こえない。
私の声は閉ざされてるから……
って
うん。姉妹ってことはよくわかった気がする
好奇心で親の顔が見てみたい感じだね
さて、そっちはどー?
準備万端
……着ぐるみなんだ
でかいね、うさぎ
これはお兄ちゃんに借りたの
妹の頼みだ、断れるわけないだろ
助かったよ! ありがと!
いいんだよ、照れるじゃないか
で、もう一人は?
たぶんもうすぐ出てくる
…………
熊じゃん!
なんで熊?
かちかち山じゃなかったの?
俺が聞きたいわ!
いやー、ちょうどいい狸がなかったみたいでさあ
そこは申し訳なかった。
他のたぬきは残虐性が足りなくて
別に残虐性求めてなかったんだが……
まあ、今回はたぬきってことで乗り切ってね
始まる前から不安要素がすごいことになってるんだけど……
これより有志によるかちかち山の演劇を始めます。
昔、昔あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいた。
二人は貧しくも幸せな暮らしをしていましたが、近年突然現れた、いたずらたぬきという敵に、苦戦を強いられていました。
ナレーションのアドリブがひどすぎる
おばあさん。わしはもう我慢の限界じゃ
そうですねえおじいさん
たぬきのいたずらに対して、ついに堪忍袋の緒が切れたおじいさんは、ついにたぬき退治に乗り出した。
ええ……?
いきなりそんなこと言われても
ん、んん
おばあさん!わしは我慢できん!
たぬきを退治するしかない!
おじいさんの言葉に、おばあさんの心も動かされ、おじいさんにきびだんごを渡して応援した。
昔話がまざってる
頑張ってきてくださいね
ああ
おじいさんは三日三晩、死闘を繰り広げ、激闘の末に見事たぬきを捕らえたのだった。
おばあさん、見てください!
まあ、さすがですおじいさん。大きなたぬきだこと
…………
たぬきっぽくないな
というか熊だよね
どう見ても熊
熊でっか!
めっちゃ会場ざわついてる……
そりゃざわざわするだろ!
完全に熊だからなあ!
気にしないようにしよう、どうしようもないし
おじいさんは捕まえてきたたぬきを縄で縛り、家の柱に括り付けた。
縄を解け
ダメだ、お前が反省するまではそこにしばりつけたままだ
ううぅ……
しかし、反省をする気はないたぬきは、括り付けられながらも抵抗した。
そんな展開じゃなかっただろ!
解け!解けえ!
今、背景が揺れたんだけど
倒さない程度に加減してくれ!
悪かったよ、気を付けるよ
たぬきの抵抗は次第に激しくなっていった。
あいつこっちの意図を組めよ!
もう知るか
解け!解け!解けえ!
やばいって!倒れるって!
手加減、手加減して!
その激しさにより、貧相な家であったおじいさんとおばあさんの家は倒壊してしまいました。
えー!?
家があった場所は石と木々の瓦礫の山となり、その中からおじいさんは命からがら這い出てきました。
ほんとに倒れた背景から這い出てるんだけどね
這い出てきたおじいさんは周りを見渡します。
しかし、おばあさんの姿もたぬきの姿もありません。
おばあさん! おばあさん!
どこだい!
その後、必死に捜しましたが、おばあさんは見つかりませんでした。
うぅ……おばあさん、おばあさん
家とおばあさんと何もかもを失ってしまったおじいさんは、途方に暮れてしまいました。
そこに前山のうさぎが姿を現しました。
おじいさん、どうしました
前山のうさぎさん。私はなにもかも失ってしまった……
おじいさん、あのたぬきが憎いですか?
……え?
暮らしていた家を壊し、生涯を共に過ごしてきたおばあさんを殺したたぬきが憎いですか?
それは……
人の人生を狂わせて、自分はのうのうと生きていこうとするうさぎが憎いですか?
憎い! あのうさぎが憎い!
では、取引をしましょう
取引?
おじいさん。私はあのたぬきに目に物見せてあげましょう
その代わり、おじいさんの大事なものを私がいただきます
なんか悪魔の取引みたいなことしてる……
これってかちかち山だよな?
オレの知ってるかちかち山じゃねえ……