イスラ

逃げられたか……

自身が探知しうる範囲にカレンの魔力反応がないことを確認してぼそり、と呟いた黒と白の魔法使いが融合した魔法使い――イスラは、軽い舌打ちをすると同時に目を閉じ、魔法を解除する。

その瞬間にイスラの体が包まれ、やがて光が治まるとそこには黒い少女と白い少女の姿があった。

二人とも相当疲労しているのか、額には珠のような汗が浮かび、肩を大きく上下させて呼吸を整えようとしてる。

テネス

まったく……
奥の手を使っても仕留めきれないとは……
本当に厄介だよ、アイツは……

黒い少女――テネスが吐き捨てるように言い、白い少女――ルクスが頷く。

ルクス

本当はすぐにでも追撃に入りたいところですが、我々の消耗もかなり激しいですし……

それに、と言葉を切ってテネスが視線を向けた先、そこには本来ならばこの場にはいないはずの一般人――洸汰がなんとも言えない顔でカレンが消えた夜の闇を見つめていた。

ルクス

一般人の彼の処遇も決めなければなりません……
緊急事態とはいえ、彼の目の前で魔法を使ってしまいましたから……

テネス

ああ……
まぁ、こいつの記憶を消すのが妥当だとは思うがな……

テネス

おい、そこの小増!

テネスが、いまだ呆けたように夜空を見つめる洸汰を乱暴に呼びつける。
が、聞こえていないのか、はたまた自分のことだと思っていないのか、ともあれ洸汰はその声を無視するようにただただ少女が消えた空を見つめていた。

ルクス

あらあら……
無視されてしまいましたね

テネス

うるさいぞ、ルクス!

なぜか楽しげに言うルクスを一喝し、テネスは徐に近づくと、まるで魔力が切れたゴーレムみたいに固まる洸汰を後ろから思いっきり蹴り飛ばした。

洸汰

うわぁっ!?

突然のことに悲鳴を上げ、それでもどうにか体勢を整えて転ばずにすんだ洸汰が、憤りながら自分を蹴った犯人を振り返る。

洸汰

いきなり何を……!?

洸汰

お前たちは……!?

文句を言おうとして振り返った先にいたのが、さっきまでカレンと激しい戦闘を繰り広げていた黒と白の少女たちと知って、一気に警戒する洸汰。

その洸汰の態度に、テネスは思わずといった様子でため息をついた。

テネス

小増……
私たちはお前を助けてやったんだぞ?
いわば命の恩人だ……
その恩人にその態度は無いとは思わないのか?

洸汰

………………

確かに助けてもらっただけに、言葉を詰まらせてしまう洸汰に、今度は白い少女――ルクスがまるで見るものすべてを安心させるような微笑を浮かべながら近づいてきた。

ルクス

そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ
私たちは何もあなたを取って食べようとか、今すぐカレン・マルヴェンスの居場所を聞き出すために拷問しようとか、そんなことは一切思っていませんから……

ルクス

もちろん、今すぐにでも彼女を追いかけたいと思う気持ちはありますが、先ほどの戦闘で私たちはかなりの魔力を消費してしまいましたし、負傷者の手当てもしなければなりません

テネス

それに、本来一般人たる小増……貴様の処遇も決めなければならないからな……

洸汰

処遇……?

ルクス

ええ……
あなたには決めてもらわなければなりません……
このまますべてを忘れて、魔法というものに一切かかわりの無い、いつも通りの日常へと戻るか……
あるいは、このまま魔法使いへの道を歩み……、彼女と――カレン・マルヴェンスと戦うか……

テネス

ルクス!?

半身の思わぬ提案に、黒い少女は眼を見開く。

テネス

どういうことだ、ルクス……?
こいつを魔法に関わらせるつもりか?

ルクス

あるいはそれも一つの選択肢と言うことです……
まだ終わっていませんが、この戦いで私たちはいろんなものを消耗してしまいました……
今なら、魔法の存在を知ってしまった彼をこちら側に引き込むこともあるいは可能ですから……

テネス

…………まったく……
お前はやっぱり私よりよっぽど黒が似合うよ……

皮肉を言うテネスをルクスが笑って受け流していると、洸汰が口を挟んできた。

洸汰

魔法を覚えた俺が……
カレンさんの側につくとは考えないんですか?

テネス

…………なら話してやろう……
あのレネゲイドが――カレン・マルヴェンスが我々協会に何をしてきたか……
これから奴がしようとしていることがどんなことなのかを……

テネス

その上で小増……
貴様がなおもあいつの側につくというのなら、私たちは貴様をこの場で殺す

そして黒と白の少女は、洸汰へと彼女たちが突き止めた真実を話し始めた。

カレン

ふぅ……
危なかった……
あのまま戦ってたら、本当にあの二人に殺されてたところだね……

夜の闇の中、どうにか協会の魔法使いたちから逃げ出してきたカレンは、変身を解いて自宅のベッドに座りながら、ほっと安堵の息をついていた。

クロエ

けど、やつらもあの超合一魔法を使った後だから、少なくとも数日は追ってこれないはずだニャ……
少し休んだら、今のうちに封印を解いてしまうのがいいと思うニャ……

カレン

そうね……
でも、あの戦いで、せっかく溜め込んだ魔力をかなり消費しちゃったし……
封印を解くには少し足りないかも……

クロエ

仕方ニャいニャ……
足りニャい分は魔法薬でおぎニャうしかニャいニャ……

カレン

それしかない……かな……

よほど疲れたのか、小さく欠伸をしたカレンはそのままベッドに身を横たえると、程なくして小さく寝息を立て始めた。

クロエ

今はゆっくりと眠るニャ……

小さく呟いた黒猫は、パチリと部屋の電気を消すと、そっとカレンの横で体を丸めた。

――それから数日後

体を休め、準備を整えたカレンが、封印を見つけた神社の境内に立っていた。

クロエ

遂にこのときがきたニャ……

カレン

そうね……
やっとこの手でお父さんとお母さんの……

高ぶる感情を抑えるように、静かに眼を閉じたカレンは、やがてゆっくりと眼を開けると、すでに地面に描かれた魔法陣を鋭く睨みつけた。

そして指先を小さく傷つけると、ぷくりとあふれ出た血を魔法陣の中央に垂らしながら、朗々と呪文をつむいでいく。

カレン

此地に鬼神を縛りし鎖よ……
我が血と魔力を持って命じる……
今こそその身を砕き、汝が縛りしものを解放せしめよ!

その声に応える様に、魔法陣が怪しく光だし、同時に地面が鳴動する。

やがて、魔法陣の光が極大に達し、地面がまるで巨大地震のように一際強く揺れたかと思うと、空から雷が落ちて魔法陣を直撃する。
そして――

魔法陣の中央から、ゆっくりと鬼神がその姿を現した。

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