激しい爆風と凄まじい衝撃に体が吹き飛ばされ、地面から突如突き出した鋭い刺に体中を刺し貫かれる。
安全地帯だと思われた場所からは火炎の柱が立ち上り、逃げ惑うものへは青白い電撃の蛇が食らいつく。

それらをどうにか掻い潜って先へと進めば、突如として足もとの地面が消えて深い穴へと叩き落される。

魔法管理協会の魔法使いが張った人払いの結界はとっくに解け、悲鳴が夜空を切り裂き、鮮血が大地を染め、平和な街の一角を阿鼻叫喚の地獄へと作り変える。

そんな凄惨な光景の中にありながら、少女は顔色一つ変えることなく戦場を動き回り、倒れた魔法使いたちから容赦なく命と魔力の塊を奪っていく。

返り血を浴び、人の血で真っ赤に染まった手でもって相手の命を無表情に刈り取っていくその姿は、もはや死神とでも言うべきものだった。

とはいえ、もちろん魔法管理協会の精鋭たちもただ黙ってやられているわけではない。
転送が終わり、後人のために拠点の設営や戦いのための準備などに追われていたところを、突然今回のターゲットのカレン・マルヴェンスの奇襲を受けた彼らは、一度はパニックに陥りかけたものの、すぐさま正気を取り戻して人払いの結界を展開して反撃に打って出た。

相手はまだ未熟な魔法使いの少女一人に対して、自分たちは魔法管理協会の精鋭部隊。
当然、愚かにも一人で奇襲を仕掛けてきた少女はすぐに捕らえられ、彼らの上司である黒と白の魔法使いの手を煩わせることなく、事態は収拾へと向かう予定だったし、実際に精鋭部隊の誰もがそのように考えていた。

しかし、彼らの思惑は、少女が突然彼らに対して背を向けて逃走を始めたことで狂い始め、カレンの誘いに見事に乗って、先行した全員で彼女のあとを追いかけたことで完全に崩れ去った。

あるいはカレン・マルヴェンスを仕留めて手柄を立てようと思ったのかも知れない、あるいは敬愛する上官のために役に立とうと思ったのかも知れない、あるいは魔法管理協会の規律を破った少女を許せないという正義の心に従ったせいかもしれない。
そんな、各々の思惑はともかくとして、彼らは見事にカレンが張り巡らせた罠の地帯に飛び込み、そして今に至るというわけである。

そうして、カレンが精鋭部隊を奇襲して罠にはめてからそれなりの時間が経過し、最初は数十人いた協会側の魔法使いたちがいつの間にか片手で数えられるほどにまで数を減らしたころ。
魔法管理協会から残りの部隊を率いた白と黒の少女が日本に到着し、同時に目の前に広がっていた光景に絶句した。

とっくに設営が終わっているはずの拠点は途中で放り出され、食料や魔法の触媒が保存されている樽や木箱は破壊され、精鋭部隊の部下たちが死屍累々と屍をさらしていたのだ。

テネス

なんだ……これは……!?

呻くように呟いたその視界に、辛うじて一命を取り留めた部下の一人が喘ぎながら手を伸ばすのを捕らえたテネスが、慌ててその部下の下へと駆け寄る。

テネス

おい!
どうした!?
何があった!?

うぅ……
あ……も………わ……り……

ルクス

すぐに治療して差し上げます!

すぐさま駆けつけたルクスが、倒れた魔法使いに手をかざす。

その白い手から放たれた光が、魔法使いの全身を包み込み、徐々に傷を癒していく。
そして程なくして、完全に傷が癒えた魔法使いは、自分の主に膝を着き、頭を垂れながら報告した。

申し訳ありません
ここへ到着してすぐに、拠点の設営とレネゲイドの捜索準備を進めていたのですが……
奴がこちらへ奇襲を仕掛けてきまして……

テネス

他の奴らはどこへ行った?
いくら奇襲を受けても、先発部隊が固まっていれば……

それが……
あのレネゲイドは我々の仲間を数人殺した後、すぐさま撤退するそぶりを見せたのです……
それに対して、私も含めて先発部隊のほとんどがレネゲイドを追っていきました……
そして、それが奴の誘いだと気付いたころにはすでに遅く……
我々は奴の仕掛けた罠にハマり……
次々と仲間たちは殺されました……

申し訳ありません……
主の言いつけを守らなかった上に、こんな無様を晒してしまいました……

ルクス

大丈夫ですよ……
あなたたちのその行動は私たちのことを思ってのこと……
そんなあなたたちを罰するだなんてことはしません……
ですよね、テネス?

テネス

ああ、その通りだ……
だから今はゆっくり休んでくれ……

こくり、と頷いて体を横たえる部下に優しく微笑んだテネスとルクスは、やがて先ほどから感じていた、魔力が激しくぶつかり合う場所に目を向け、二人同時にそこへ向かい始めた。

一方そのころ。
罠を利用して次々と協会の魔法使いたちの魔力を奪っていたカレンは、その場にいないはずの人物が現れたことに驚いていた。

それに対して、その人物――洸汰はカレンが目の前にいることに安どの表情を見せ、ついですぐにその場に広がった凄惨な光景に絶句した。

洸汰

な…………んだ……これは……

焼け焦げた地面や不自然に飛び出した鋭い土の槍。
当たりはうめき声とむせ返るような血の匂いに満たされ、目の前の少女は全身を血で汚れ、その指先からはぽたぽたとまだ血が滴っていた。

洸汰

カレンさん……
一体これは……!?
何が……!?

困惑したように投げかけられた少年の問いを無視するように、カレンの足元に使い魔の黒猫のクロエが現れ、主に問いかける。

クロエ

あの坊主がここに来たのは想定外だニャ……
どうするつもりだニャ?

カレン

…………そんなの決まってる……
あの子がいようと関係ない……
私はもう、止まれないし、止まる気もないもの……
それに……大きな魔力が二つ……
近づいてきてるし……

黒猫の問いに小さく応えたカレンは、顔を上げると少年を睨みつけた。

カレン

あなたとはサヨナラしたはずよ?
何しにここへきたの?

洸汰

それは……その……
やっぱりあんな別れ方に納得できなくて……
そしたらなんだか急に変な予感みたいなのがして……
いても立ってもいられなくて……

洸汰が俯きながらぽつぽつと応えている間に、カレンの肩に飛び乗ったクロエが囁く。

クロエ

多分……
少しの間とはいえ、カレンの側にいて魔法に関わってきた影響だニャ……
それで坊主のニャかでニャにかが目覚めかけているんだニャ……
魔法使い以外でも魔力は持っているからニャ……

そうね、と使い魔に短く答えてから、カレンは再び洸汰に鋭い視線を向けた。

カレン

あなたがここにいても、何もできることは無いわ……
むしろ、あなたがここにいても邪魔なだけ……

カレン

だから、今すぐすべてを忘れてここから立ち去りなさい……
さもないと……あなたでも殺すわよ?

プレッシャーを伴って叩きつけられたカレンの冷酷な言葉に、洸汰が思わず息を呑み、後ずさりする。
そのときだった。

ルクス

あらあら……
女の子がそんな物騒なセリフを言うものではありませんよ?

テネス

いや、その前に一般人がこの場にいることをツッコめよ……

コントのようなやり取りをしながらもふわり、とカレンから放たれるプレッシャーから守るように、白と黒の少女が洸汰の前に立ちはだかった。

テネス

とりあえず、このガキは後で記憶を消すとして……
よう、カレン・マルヴェンス……
お仕置きの時間だぜ?

ルクス

あなたを魔法管理協会の規律の重大違反として処罰します……

カレン

来たわね……
白黒コンビ……

ざわり、と三人から魔力が立ち上り、お互いの間で激しくぶつかった。

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