――私には、幼い頃から悩んで悩み続けても解決しない、面倒で疲労度特大の悩み事が在り続けている。
 

リデリア

う~ん……、相変わらずチェスの腕が凄いわねぇ、フィーシュ。

フィーシュ

ふふ、もう少し精進なさって下さいね、お嬢様。

 チェックメイトの声と共に負けを強いられた黄金の髪の少女、アルパーノ公爵リデリアは、残念な溜息を零しながらソファーに背を預けた。
 昼食後の勉強を終え、出かける前の暇潰しに遊んでいた、屋敷の侍従、フィーシュとのチェス勝負。
 利口で気の利くこの侍従は、たとえ相手が雇い主の娘であっても、手を抜いたりはしない。
 リデリア自身も下手に媚びを売られたり、負けて当然だと気を遣われるのも嫌いなので、彼との勝負はいつもわくわくしながら挑戦出来るのだ。

フィーシュ

でも、確実に強くなられていらっしゃいますから、僕に勝てる日も遠くないでしょうね。あ、そろそろお茶の替えをお持ちしますね。

リデリア

うぐぐっ……。全然勝てる感じがしないんだけどっ。

フィーシュ

多分、十年後ぐらいには?(笑)

リデリア

じゅ、十年!? フィーシュ……、それ、遠回しに、「ふっ、僕に勝とうなんて夢を見るのも大概にしてくださいよ」みたいな黒さが含まれてない!?

フィーシュ

……さぁ? どうでしょうかね。ふふふ。

 あぁ、素直で心優しい専属侍従の背後に、何かくろ~いモヤモヤのようなものが見える、気がする!!
 この分では、十年どころか、百年経っても無理な気しかしてこないのだがっ。
 フィーシュが部屋を一時退出していくと、リデリアはチェス盤の上に表れている惨敗具合に遠い目をした後、窓際へと近づいていった。

リデリア

ちょぉ~とくらい、フィーシュに冷や汗を掻かせてみたいのに、毎回毎回、余裕勝ちされるなんて……。うぅっ、やっぱり戦法を練って練って練りまくるしかないのかしらねぇ……。

 普通に見れば、公爵令嬢の優雅なひとときではあるのだが……。
 こうやって他愛のない事で悔しがったり、思考をそちらにもっていけている今の状態は、一時的な平穏、でしかないのだ。

リデリア

……ぁ。

 不意に襲ってきた、微かな目まい。
 平穏な日常を壊す、はじまりの気配……。
 リデリアは足元に力を入れ、すぐにソファーへと移動し始める。
 

リデリア

まったく……、毎日毎日、飽きもせず……、うっ、……今日こそ、絶対、寝ない、ん、だ、から……。

 睡眠時間はきちんと、とってある。
 それなのに、リデリアを誘う朧な世界への招待状は、彼女の都合などおかまいなしにやってくる。
 急激な睡魔、抗う事の困難な……、眠りへのはじまり。負けたくないのに、眠りたくなんて、ないのに……。

リデリア

……zzz。

 ――あぁ、今日も、負けてしまった。

リデリア

……また、なのね。

 心地良い睡魔に引き摺り込まれた先は、勿論、夢の世界だ。ただし、……異常な、とつくが。

リデリア

はぁ……。

 幼い頃からの、困った病気……、と、いうべきか。
 健康そのものなはずのリデリアは、毎日奇妙な睡魔の誘いに悩まされている。
 一日に何度も何度も、眠っている時間感覚は違うものの、それは頻繁に起こるのだ。
 強い睡魔に襲われ、気がつけばメルヘンな夢の中に。医者に診て貰っても、特に異常なしで終わってしまっている、この面倒な症状。
 そして、さらに厄介なのは……。

リデリア

……。

???

御機嫌よう!! 我が最愛の姫ぎ

???

ぐはぁああっ!!

リデリア

ふざけんじゃないわよ!!このド変態ド迷惑ストーカー男ぉおおおお!!

 天晴。出会い頭に白馬の王子? を、華麗なるジャンプ回し蹴り攻撃でぶっ飛ばしたリデリアである。
 王子? の身体は白馬から投げ出され、愛らしい花々を押し潰す始末となった。

???

はぁ、はぁ……っ。愛する姫君の渾身の一撃。なんと甘美な、なんと濃厚なっ。ぁあああっ!!

リデリア

ひぃいいいっ!!気色悪い!!

???

あぁ、麗しき我が姫よ。もっと、もっと、
この身に貴女の愛を刻み付けてください!!もっと、もっと、深く、強く、濃厚に!!

リデリア

いぃいいやああああああああ!!

 顔は間違いなく美しい男性なのに、その性格が残念過ぎるのも、毎度の事のだ。
 リデリアの夢に必ず現れる、正体不明の、煌々しい大迷惑な男。
 リデリアの事を自分の姫君だと讃え、彼は鳥肌確実の濃すぎる愛の囁き(いや、大声)を仕掛けてくるのだ。
 いつものように謎の男を容赦なく蹴り潰し、リデリアは逃げる。どこか遠くへ、あの意味不明な男の来ない場所へ、早く、早くぅうううううう!!

リデリア

はぁ、はぁ、はぁ……。

 全力ダッシュで逃亡を図り、ようやく辿り着いた森の奥の湖。あぁ……、夢の中で体力消耗、疲労特大ってのも、何だか損な話だわ。
 リデリアはため息と共に座り込み、目の前の水面を覗き込んだ。
 

リデリア

ホント……、呪われてるとしか言いようがないわねっ。

 どこか異常なしだ。何が疲労やストレスによる悪夢だ。あの意味不明なキラキラしい男、毎日のように顔を合わせているのだから、これだけはわかる。
 この夢は、どう考えても普通じゃない。

リデリア姫様……、こちらにおいででしたか。

リデリア

……。

 疲労困憊で座り込んでいるリデリアの許にやって来た、一頭の美しき白馬。
 その馬もまた、あの面倒な男と毎日のように一緒に現れ、リデリアを追いかけてくるはた迷惑な存在だ。
 だが、しかし……。

リデリア

アンタ、喋れたの!?

勿論ですとも~!!まぁ、今までは王子の邪魔をしないように、存在感を消していただけなんですけどね。ふふ、ですが、ずっと黙ってるのも何だか物足りなくなってしまいまして。

リデリア

そ、そう、なの……。

リデリア

――はっ!!ま、まさか、あの変態男も来てるんじゃないでしょうね!?

ご安心を~!!王子は今花畑でリデリア姫様に喜んで貰えそうな花束を作って頂いております♪

リデリア

そ、そう……。なら、いいわ。……で?アンタは何の用なのよ。

実は……、もういい加減に王子のストーカー歴も洒落にならなくなってきましたので、ここはひとつ。リデリア姫様に詳しい事情を説明させて頂こうかと。

リデリア

はぁ?説明~?

 今更どんな話が出てこようが、あの面倒臭過ぎる男に温情など与える気はない!!
 リデリアはドレスを膝の辺りまで捲ると、湖の中へ両足を浸しながら、白馬を睨み付けた。

リデリア

ふん!!

お怒りになるのも、無理はありませんが……。どうか、話を聞くだけでも……。

リデリア

話を聞いたら、二度と私に干渉しないって約束してくれるんでしょうね!?

……む。

リデリア

あ!?何、今何を言おうとしたわけ?まさか……、『無理』とか抜かさないでしょうねぇ?

い、いえ……っ。まぁ、努力はしてみますが……。ウチの王子、ド級にしつこいというか、粘着質と申しますか。

リデリア

最悪ね……。っていうか、さっきから王子王子って、何なのよ?

言葉の通りでございます!!リデリア姫様を二十四時間追い回している不審、ごほごほっ!!もとい、あの男性は、このラスヴェリート王国の第一王子殿下、セレイン様なのでございます!!

リデリア

……。

……。

リデリア

ら、ららららららららら!!

リデリア

この国の第一王子殿下ですってぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?!?!?

はい~!!将来有望、次期国王陛下!!お嫁に来て下さったら、一生不自由はありませんよ~!!

リデリア

あ、あ、悪夢だわ……。あれが?あの超絶意味不明なハイテンション男が、この国の、王子……?次期、国王?

 悪夢以上の恐ろしさがリデリアの精神を大打撃で抉りつけ、彼女を絶望の底へと突き落とす。
 あれが、あれが……、王子?
 十年以上リデリアを苦しめてきたストーカー男が、この国王子殿下!?

リデリア

嘘よ……。嘘、嘘。

残念ながら、真実なんですよねぇ……。リデリア姫様が覚えていらっしゃるかは謎なんですが、幼い頃にラスヴェリート王宮に訪れた事、覚えていらっしゃいませんか?

リデリア

ラスヴェリート王宮……。そういえば、幼い頃に一度だけ、お父様に連れて行って貰った事があったわねぇ。

 リデリアの父、アルパーノ公爵。
 父について王都へ向かった際、確かにリデリアは王宮を一度訪れている。
 けれど……、ぶっちゃけ当時の記憶は曖昧で、訪れたという記憶しかない。

その王宮で、リデリア姫様と王子は運命の出会いを果たされたのですよ!!

 え、何それ……。全然知らない。覚えてない。
 すりすりと身体を押し付けてきた馬を引きはがしながら、リデリアは本気で迷惑そうな顔で応対する。

リデリア

あんな印象ド最悪の男の記憶なんかないわよ!!会ったら絶対に覚えてるわ!!

申し訳ありません……。リデリア姫様の夢に出てくる時の王子は、その……、嫌がらせ、と申しますか、一途な愛情が拗れに拗れてしまいまして……、あんなド変態仕様に。

リデリア

今、嫌がらせって言ったわね?

も、申し訳ありませ~ん!!で、ですが、王子のリデリア姫様への愛は本物なんです~!!お、幼い頃、リデリア姫様によって外に連れ出され、それからというもの王子はっ。

リデリア

ふざけんじゃないわよ!!こっちは原因不明で毎日が悪夢満載だってのに、……ん?私が、あの男を外に連れ出した、ですって?

は、はぃ~!!お身体の弱かった王妃陛下の部屋ばかりに籠られていた王子の遊び相手として招かれたリデリア姫様が、その雄々しき男らしさ、ごほん!!いえいえっ、逞しさで扉をぶち破り、当時はまだ幼く内気だった王子を外に、うげぇえええっ!!痛ぃっ、痛いですっ、リデリア姫様ぁあああっ!!

 よぉぉく記憶の底を手探りしてみれば、確かに……、誰かと遊んだような記憶も。
 馬を締め上げていたリデリアはその手を離し、額に指先を添えて悩む仕草に入った。

リデリア

う~ん……、そんな事もあったような、なかったような……。

思い出してあげてくださいよぉおおおおっ!!

リデリア

ちょっ!!こらっ!!何人の足に噛み付いてんのよぉおおお!!いやぁああっ、夢なのに馬舌の感触が生々しいわ!!

 こっちが必死に思い出そうとしているのに、あの男の側近だというこの白馬は、リデリアの美しい素足に涎を垂らしながら噛み付いてくる!!
 足元で大きな駄々っ子をぶら下げている気分だ。
 けれど、そんなじゃれあいをしている内に……、何となく、昔の事を思い出してきた。

リデリア

空色の……、髪をした、女の子みたいに綺麗な、男の子。

おお!!はむはむっ!!ひょれでふよぉおおっ!!

うぐっ!!

 しがみついて離れない白馬を足蹴にし、リデリアはお手入れ抜群の黄金の髪を掻き上げ、ふんっと、鼻を鳴らした。

リデリア

で……?その、私がせっかく外に連れ出して遊んであげた引きこもりの王子様が、何で私を追いかけまわしてんのよ。

痛だだだだだっ!!で、ですから~、王子はリデリア姫様にフォーリンラブ!!なんですよ~!!お嫁さんになってほしいんです!!むしゃぶりつきたいんです~!!

うぅ……っ。ぼ、暴力反対っ。

リデリア

ふざけんじゃないわよ!!勝手に惚れられて、勝手に毎日の悪夢を約束されて……、私がどんなに迷惑してきたか!!少しは考えなさいってのよ!!

お、落ち着いてくださぁ~い!!

リデリア

王族のくせに外道な真似してんじゃないわよぉおおおおおおおおおお!!

王子・セレイン

あぁっ!!我が愛しのリデリア姫!!ようやく見つけた!!

リデリア

き、来やがったわね!!

王子・セレイン

限られた時の中でしか貴女とお会いできない……。この切なる恋心を受け止めてください。私のリデリア……。

リデリア

いぃいいやぁあああああああああ!!

……王子~、もうリデリア様には全部バレましたよ。っていうか、バラしときました。

王子・セレイン

ヴェルガイア……。誰が話していいと言った?

いやぁ、だって~……、いい加減、飽きませんか?リデリア様の夢に潜り込んで追いかけまわしたって、王子のウザさが千倍アップするぐらいで、メリットが全然ないじゃないですか~。

リデリア

そ、そうよ、そうよ!!アンタの正体はわかってんのよ!!ラスヴェリート王国第一王子、ド変態ストーカー第一王子、セレイン!!

王子・セレイン

もうちょっと遊んでいたかったんだけどなぁ……。はぁ~、俺の楽しみが。

リデリア

私はアンタの玩具じゃないっての!!

王子・セレイン

あと……、ド変態とか、ストーカーとか、あんまりだよね。はぁ~……。

 リデリアの後を追って来たらしきテンション最大値を振り切っていたはずの王子の姿は消え失せ、落ち着いた雰囲気の青年が残念そうに溜息を吐き出すばかりだ。これが……、この男の素なのか。

王子・セレイン

でも……、リデリアに殴られたり蹴られたり罵倒されると、胸がドキドキしちゃって……。ねぇ、リデリア、もっと言って?

リデリア

ひぃいいいいいいいい!!

 ヤバイ!! こいつ、真性のドMだぁああ!!
 顔は物凄く良いのに、中身が残念過ぎる!!
 すぐに駆け出して全力逃亡の体(てい)に入ったリデリアだったが、王子セレインの包囲網に抜かりはなかった。素早くリデリアの前に回り込み、ぎゅっと自分よりも華奢な身体を抱き締めて腕の中に閉じ込めてしまう。

王子・セレイン

捕まえた♪

ふふ、捕まえた~♪

リデリア

ぎゃああああああああああ!!ちょっ、こらっ、何してくれてんのよ!!ってか、馬!!馬!!アンタも何人の足に齧り付いてんのよぉおおおおおおお!!

王子・セレイン

ヴェルガイア……、俺のリデリアから離れろ。お前の部屋にある『魅惑の足フェチフルコース雑誌』を灰にしてもいいんだぞ?

あがぁあああっ!!そ、それだけはっ、それだけはご勘弁をぉおおおおおおっ!!

 ハイテンション・キラキラ王子から一転、真っ黒なオーラを纏った王子セレインに脅され、白馬ヴェルガイアは半泣き状態で湖から出て行ってしまった。
 足フェチ雑誌……、って。

リデリア

あの馬……、足フェチだったのね。だから、私の足に……、あぁっ、絶対についた。アイツの歯形がついたぁぁああっ!!

 夢だから大丈夫……、と言っても良いものかどうか。とりあえず、今どうにかしなくてならない相手は、自分を抱き締めてすりすりと頬ずりしてくるこの変態だろう。

リデリア

い、一国の王子がこんな事していいと思ってるわけ!?毎日の悪夢も、アンタの仕業なんでしょ!?なら、さっさと解放しなさいよ!!

王子・セレイン

そうだよ。君が……。

王子・セレイン

俺との約束を破った、罰だよ。

リデリア

――!!ば、罰、って。

王子・セレイン

俺と……、もう一度遊んでくれる、って、そう約束したのに……、君は俺の事を忘れて、王都から遠く離れたアルパーノ領に帰ってしまった。

リデリア

……。

王子・セレイン

ずっと信じて、待っていたのに……。君は来なかった。その上、夢を繋いで君の所に潜り込んでみれば……、君は、俺の事を忘れ去って、こう言ったんだよ。『あなた、だぁれ?』ってね。……酷い裏切りだったよ。

リデリア

……そ、そんなの、お、覚えて……、ない、わよ。

 宝物を抱くようにされていた王子セレインの抱擁が、突然憎しみを抱くかのように強まった。
 朧気にしか覚えていない、幼い頃の思い出。
 空色の髪をした男の子と遊んだ記憶はあれど、まだ、しっかりとは思い出せない。
 けれど、当時の事をしっかりと記憶しているこの王子にとっては……。

王子・セレイン

だからね……。二度と俺の事を忘れないように、毎日君の顔を見に来てるんだよ。あぁ……、愛しい俺のリデリア。君の心に俺を刻めるなら、どんな方法だって、どんな風に思われたって構わない。

リデリア

いやぁっ、痛ぅっ……、は、離しなさいっ、ぐっ、離し、てっ!!

 不穏な色香を漂わせながら、今までは簡単に蹴り飛ばされていた事などなかったかのように、セレインはリデリアを容易く拘束し続ける。
 嫌がるリデリアの頬や額に唇を寄せ、愛おしさと憎らしさを注ぎながら……。

王子・セレイン

昔と変わらない……。俺の正体が王子だって知っても、君は君らしさを失わない人だ。……はぁ、愛おしくて堪らないよ。俺のリデリア。

リデリア

いぃいやぁああああっ!!変態!!変態!!不審者!!犯罪者!!

王子・セレイン

ヤバイ……。ゾクゾクし過ぎて、胸の高鳴りが抑えられない……っ。

リデリア

アホかああああああああああああああああ!!

王子・セレイン

――ぐっ!!

 間一髪、乙女として大事なものを奪われずに済んだリデリアは、奇跡的に喰らわす事の叶った右ストレートのお蔭で飛び退く事に成功した。
 あぁっ、恐ろしい!! 全身に鳥肌が立って、ムカムカする!!

リデリア

はぁ、はぁ……。き、決めたわ!!

王子・セレイン

リデリア?

リデリア

アンタを叩きのめしに、王都に行くわ!!

王子・セレイン

!!

リデリア

現実のアンタに会って、今までの恨み言を叫びながらフルボッコにしてやる!!

王子・セレイン

♪♪

リデリア

って、何で赤くなって喜んでんのよ!!わ、私のお父様や、アンタの、こ、国王陛下にも言いつけてやるんだから!!

王子・セレイン

リデリアが……、生身のリデリアが、俺に……、会いに来てくれる。

リデリア

た、叩きのめしに行くって言ってんでしょうが!!

王子・セレイン

嬉しいな……。ねぇ、リデリア、花嫁衣裳、いっぱい用意しておくから、楽しみにしててね。

リデリア

人の話を聞けぇええええええええ!!

 リデリアは、今までの恨みを晴らす為に王都への旅路を決めたのだ。
 勿論、包み隠さず今までの事を父親や国王にぶちまけてやる。
 そうすれば、第一王子としてのセレインは信用を失い、下手をすれば王位継承権を剥奪されるだろう。
 そう脅してやっているのに……、何故喜ぶ!?
 歓喜に彩られたセレインは、激しく動揺している想い人を草地に押し倒し、覆い被さってきた。

リデリア

なっ、なななななっ!!

王子・セレイン

待ってるよ、リデリア……。現実の世界で君と再会し、この手に……、君を抱ける、その日を。

 麗しき面(おもて)に最上の喜びを刻んだ面倒極まりない男が、リデリアの頬へと柔らかな感触を触れ合わせる。それが合図となったかのように、森の中に吹き荒れた一陣の風。

王子・セレイン

じゃあね。また……。愛しているよ、俺のリデリア。

リデリア

……。

リデリア

いぃいいやぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!

 ――リデリア・アルパーノ。
 公爵令嬢として生まれた彼女は、幼い頃にやってしまったひとつの『世話』により、途方もなく面倒で、けれど、一途で純粋? な愛を抱き続ける王子の求愛を受け、それを跳ね返す為、今までの恨みを晴らす為、王都へと向かう事になったのだが……。
 今はまだ、誰も知らない
 彼女のこの決意が、ラスヴェリート王国を舞台に繰り広げられる、大きな事件の幕開けに飛び込んでいく事になろうとは……。

王子・セレイン

待っているよ、リデリア……。君と直(じか)に触れ合える、その日を。

 ――夢の中まで一途な溺愛王子様(短編)

夢の中まで一途な溺愛王子様!!【短編】

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