二日酔いである。
若い頃は二日酔いなどほとんどなく、毎日のように飲んだものだが、ジジイになった今は、たまに飲んだだけでも次の日は凄まじい二日酔いになる。

昨日もひどい二日酔いで、最悪の目覚めであった。まず、口の中が干からび、喉が渇いて仕方がない。僕は枕元に置いてあるコップの水を寝ながら一気に飲んだ。

ぬるい・・・・・・。

 二日酔いの日はいつもそうだが、僕は布団から起きない。体が重く、気持ちが悪く、また頭もガンガンするので起きる気がしないのだ。

なので、各種リモコン、メモ帳、飲み物やタブレットなど必要なものは、すべて枕元に置いてある。
前日の寝る前に、次の日は必ず二日酔いがひどいのが分かっているので、それらをセッティングしておくのだ。そして当日は、布団の上で過ごすのである。

それにしてもダルい。果てしなくダルい。だが、いくらダルくても世間の情勢は気になる。僕は吐きそうになりながら、仰向けのままタブレットの電源を入れた。

画面に指を走らせる。すると、ニュース欄に高校野球の話題が掲載されていた。

高校野球か・・・・・・。

青空、白球、青春、すばらしい。

地獄の二日酔いジジイとは別世界の話題だが、ここはひとつ、清々しい高校球児を見て、精神面だけでも健康になろうと、僕は高校野球を観戦すべく、テレビのリモコンに手を伸ばした。

ん?無い。テレビのリモコンが無い。

なんということだ!テレビのリモコンが足元にあるではないか!昨日セッティングしたはずだろう!
酔っ払って忘れてしまったのか!なんたる不覚。

このままでは高校野球が観れない。どうすればいいのだ・・・・・・。

 しばし黙考の末、とてつもなくすばらしいアイデアが浮かんだ。

リモコンアプリである。いつだったか、テレビのリモコンのアプリがあると聞いたことがある。そのアプリをインストールすると、スマホやタブレットがテレビのリモコンになるという。すばらしい。

僕はさっそく、
「テレビ リモコン アプリ 無料」
と入力し、検索した。

すると、出るわ出るわ結構な数のリモコンアプリが出てきた。僕は、よさげなものをひとつ選び、ダウンロードし、インストールした。

アプリを起動すると、タブレットにテレビのリモコンのような画面が表示された。

ほう、タブレットの画面がテレビのリモコンになっておる。
僕は、おもむろに電源ボタンをタップした。

・・・・・・・・・・。

電源ボタンをタップする。

・・・・・・・・・・。

電源ボタンを連打する。

・・・・・・・・・・。

アプリの説明を読む。すると、赤外線がどうのこうのと書いてある。僕のタブレットには赤外線機能は付いてない。
僕は、アプリをアンインストールした。

かくなる上は・・・・・・。

・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・。

うむ、念力でリモコンを取ろうとしたのだが、はやり無理であった。

もはや万策尽きた。僕は高校野球をあきらめた。

しかし、しばらくすると、嫌でも布団から立たねばならない事態が発生した。

下痢である。

いつもなら二日酔いの夜半頃に発生するのだが、この日は念力を使ったせいか、早々にやってきた。

こればかりは寝ながらというわけにはいかぬ。枕元に便器は置いてない。

僕はフラフラと立ち上がり、オエッ!オェァ!と、えずきを連発しつつトイレに入り、クソジジイと化した。

こんなに辛くなるのが分かっていて、なぜ飲んでしまうのだろうか。しかもひとりで。
二日酔いの日は、もう飲まん!最低1年は飲まん!などと思うのだが、次の日になると飲む理由を探している。

今日は心霊特番があるのか!よし!飲むか!

おお!でっかい鼻クソがとれたわい!飲むしかあるまい!

などと・・・・・・。

今まで何十年とこれを繰り返し、我ながらいい加減にしろと思うのだが、これからも多分繰り返すのだろう。いや絶対。

二日酔いとリモコン

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