だーるまさんがこーろんだ

夕暮れの公園に子供たちの元気な声が響く。

自分もあんな風に遊んでいたことがあったなぁとのんきなことを考えながら、外気のせいで少しぬるくなった缶コーヒーを飲み干した。

公園のベンチから立ち上がり、自動販売機の隣にあるゴミ箱に空になった缶を捨てる。

ガラン
ガシャン

すでに捨てられてあった缶やビンなどにぶつかりながら缶はゴミ箱に吸い込まれた。

いつも通いなれている道。
特に変わったことは無い。

はずだった

脳内に違和感を覚える。

人間の――否、動物としての本能なのだろうか。
体内に危険信号がなっているような感覚があった。

なんだ?
なんだ?

慌ててカバンの中を探る。
すると違和感の正体はすぐに判明した。

家で仕上げるつもりだった資料のデータがないのだ。

自分がまかされている仕事の中でもかなり大事なものである。慌てるのも当然か。

安堵した気持ちと、もう一度オフィスまで戻るのかという面倒な気持ちがないまぜになりながら、今まで歩いてきた道を戻った。

人がいないオフィスというのは妙に気味が悪い。

何かがいそうだ……

何かが……

ウゥゥゥゥン……

突然の音に心臓が止まりかけた
慌てて後ろを振り返る

あら、こんな時間に珍しいですね

清掃業者のおばちゃんが電気をつけただけだと分かり胸をなでおろす。

あまり無理しないように頑張ってくださいね

自分たちも大変であろうに、他人の心配をしてくれる優しさに温かくなりながら資料を回収し家路につく。

夜道を歩いていると、どうしてもよく無いことが頭をよぎる。

このご時世、いつどこで何が起きるか分からない。
ひったくりに遭うかもしれないし、強姦に遭うかもしれない。
強姦の標的は女性だけに限らないというのだから、いろいろな意味で恐ろしい時代である。

そんなことを考えているからだろうか、心なしか足早になっているような気がした。

スタスタスタ
スタスタスタ

夕方にコーヒーを飲んでいた公園まで戻ってきたが、その時よりも移動時間は短かった。
やはり速足だったのだろう。

だーるまさんがこーろんだ

夜遅くになっても子供が遊んでいる。
この公園は灯りが多く、周囲よりは明るいとはいっても、子どもが外を出歩く時間ではない。

公園に立つ大きな木に額をつけている子供に声をかけようとする。

だるまさんが……転んだ。

そういって振り返った子どもは10歳くらいだっただろうか。
見た目では判別できない。
なにせ

顔がないのだから

あまりの衝撃に腰を抜かしその場にひっくり返る。

動いたー
じゃあ……

鬼交代だね

気がつくと目の前には木があった。
まごうことなく『木』である。

頭でも打ったかと思ったが、時間はそれほど経過していない。

そしてこんなところで遊んでる場合じゃない。

が、足が動かない。

慌てて後ろを振り返ると、一人の少年がいた。

鬼交代だね

鬼は次の鬼を見つけるまで交代できないからね

ずっと……

ずーーっと

ずーーーーっと……

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