霧雨が降る夜だった。林道でひとりの少女の死体が発見されたことにより、現場付近一帯は立ち入り禁止の厳戒態勢が敷かれていた。
少女はつい昨日、両親によって捜索願が出されていたばかりである。絞殺されており、その他の暴行の形跡はない。失踪当時の服装はセーラー服だったのだが、発見された死体には真っ白いローブが着せられており、その周辺には鳥の羽が散らされていた。
この一ヶ月で十人もの少女が、同一の方法で殺害されており、現場の具体的な状況などは報道されていなかったものの、その犯罪はすでに日本中の話題を攫っていた。変質的な猟奇殺人犯、おそらく同一犯による凶行――推理が、憶測が飛び交い、加熱した。
その頃、ひとりの男が一件の邸宅に向かって歩みを進めていた。霧雨が男のまとったレインコートを濡らす。時間が経てばこの雨は強さを増し、引きずるような足跡を洗い流していくだろう。
男が辿り着いた先には古く大きな洋館があった。あらゆるところに蔦が絡み、住居としては今どきの日本ではなかなか見かけない、シックで歴史を感じさせる装いであった。薄暗い林の奥で静かに佇み、霧雨に囲まれたその様相は、どこかしらゴシックホラーの風情が漂う。
男がチャイムを鳴らす前に、扉が静かに音を立てて開いた。来訪者の存在を察していたのだ。光が漏れる扉の間から、色が白く、痩せた男が姿を見せた。