雨の音がごおごおと続き、時折雷が落ちる不穏な天候。それに増して、現在はAM二時。丑三つ時と来た。ホラー映画などを見たものならば、子供は一人でトイレに行けずにまごまごしている時間帯だろう。

 そんな時間、少年はむくりと起き上がり、目をこすりながら暗がりな部屋を歩き出す。

――その背後から、何かが忍び寄っているとも知らずに。

 トントントン。少年の足音。
 トントントン。今度は別の何かが立てる音。

 少年は振り返る。しかし、背後には何も見当たらない。

 勘違いかなぁ。少年はまた歩きだした。

 トントントン。少年の足音と共に。
 トントントン。別の何かの立てる音。

 キィーッ。今度は、爪を金属に突き立てたような、不快な音がした。

 少年が振り返るが、音の正体は掴めない。
 暗がりなのだ、仕方ない。

 少年は眉間にしわを寄せながらも、一息ついて前を向く。その刹那、少年の小さな顔を、真っ白な掌が覆いつくした。

うわあっ!

 少年は、声を上げようとするものの、力強いその手によって、喋るどころか息をすることもままならない。

 首を左右に振っても離れない手。少年は無我夢中で、空いている両手を動かし、その手に引っかき傷を付けた。

!!

 痛みを感じたのか、咄嗟に少年から離れた手。離れた直後に少年が顔を上げると、その手は天井から伸びていた。

 傷にもがき苦しむかのように、手首を動かすその手を、少年はじっと見つめる。やがて、その手へと声をかけた。

大丈夫?

 少年言葉は、きっと想定外だったのだろう。手はビクッとその身を震わすと、手を縮こませる。

痛いでしょ? ごめんね

 少年は青白い手に触れ、傷口を撫でる。すると、手は即座に少年から離れ、天井の中へと消えていった。

 ぱちくりと天井を見つめる少年。

 まさか、夢や幻だなんて話ではないよね。

 少年が振り向いた直後、少年の細い喉を手が襲った。

……!!

 不意を突かれた少年は、目を細める。キリキリと骨が軋む音がする。手はクスクスと笑うように震えていたが、少年は余った力を込めて駆け出した。

 彼の力が残っていたことに、驚いて大きく手が震える。

 しかし、それ以上に驚いたのは、少年が首を絞められてまでやって来た場所だった。

きずぐち……あらわないと……

!?

 少年が、命がけでやって来た場所。それは、脱衣所だった。それもやって来た理由は、今正に襲われているこの手の、傷口を洗う為。

 予想だにしない少年の行動に、思わず手は少年から離れた。

 しかし、彼を恐れたこの手を、今度は彼自身が掴み取る。

駄目だよ。ちょっと染みるけど、手当した方が絶対に良いんだよ

 戸惑う手を力任せに蛇口へと伸ばし、少年は水で手の傷口を洗い流した。

――続

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