その日、僕はとあるアパートに引っ越した。
・・・
その日、僕はとあるアパートに引っ越した。
一人暮らしには慣れている。
3年前に一人暮らしを始めて、今回初めて引っ越しをした。
このアパートはいわゆる『シェアハウス』というもので、そのアパートに住んでいる人と一緒に同居するという感じの物だ。
そう、初めてのシェアハウス生活だ。
言っておくが、僕は重度のコミュ障だ。
友達なんて1人もいない、そのうえ誰とも話したことがない、というか話すことさえ苦手な僕だ。
これは、僕のコミュ障を治すために自ら受けた試練でもある。
まさかここで不可思議な出来事に巻き込まれるなんんて・・・
このとき、僕はまだ知らなかった・・・
郵便受け・・・
あ、僕の名前がある。
郵便受けには僕の名前がある。
そうだ、僕の名前、紹介してなかったね。
僕の名前は『碧 優(あおい ゆう)』
かなり短い名前だ。
女の子っぽい名前のため、よく女の子だと間違われる。
いまは慣れているけど・・・
それから・・・自分でも思うが、見た目が子供っぽい。
いわゆる童顔ってやつだ。
僕の好きなクトゥルフ神話TRPGで例えるなら、APPが17.5ぐらい。
あと少し行けばニャル様ぐらいの美貌の持ち主だ。
でもそんなに騒がれるような人間じゃない。
なにせ、僕は空気が薄い。
空気が大気圏ぐらい薄い・・・いや、宇宙ぐらいなのではないだろうか?
もはや空気という概念が僕にはないぐらい薄いのだ。
少し、うれしいな・・・
でも、こうして名前があるのを見ると、僕はまだ空気があるんだ・・・と実感が持てる。
お~い、僕ちゃ~ん。
!!
びっくりした、いきなり目の前に女性の顔が・・・
どっかのゲームで同じ感じの演出があったのを思い出した。
双眼鏡を覗いていたらいたら、突然人の顔がバーンってなる感じの・・・
あれは正直びっくりして放心状態になったのはいい思い出だ。
どうしたの~?そんなにびっくりしちゃって~
ここの生活で、初めての人。
どうしよう・・・やっぱりここは・・・
挨拶だ。
挨拶に始まり、挨拶に終わる。
人生とはそういうものだと思う・・・
は・・・初め・・・まして・・・
碧・・・優と・・・申します・・・
優くん、ね~
ゆ~くん、初めまして~
あたしは『園部 莉愛(そのべ りあ)』。
君と同じ部屋の人だよ~
よろしく~
そ、そうなんですか・・・
よ・・・よろしくお願いします・・・
莉愛さん、結構いい人そうだ。
気さくなお姉さんって感じ。
でも、なんで白衣?
・・・
え?
グルルルルル・・・
>>突然のトラ<<
ちょっと待って?
な ぜ ト ラ ?
「なぜ彼女が白衣着ているのか」という疑問が一匹のトラによって一瞬で吹き飛んだ。
なんでこんなところにトラがいるの?
ここ、アパートだよね?
動物園じゃないよね?
なんで?トラなんで?!
っていうかの僕のことめっちゃ見てるんですけど!
・・・ガゥ。
あぁ、五木さんの子寅丸くんじゃな~い。
よしよし、後で神戸牛あげるから~
いい子にしててね~
ガゥ♪
ペットだったの!?
確かにここはペットOKだって聞いたけど、まさかトラをペットにするなんて・・・
まるでアラブの石油王みたいじゃないか・・・
しかも神戸牛って・・・
いや、もしかしたらその五木さんは石油王なのかもしれない。
高級な肉を好むトラってことを考えるともしかしたら大金持ちが住んでるってことじゃないか?
(ポカーン)
あ、驚かせちゃったかな~
ここね、トラを買ってる人がいるのよね
まぁ彼は人は全く襲わないから~
食べるのは普通にお店とかで売ってるお肉ぐらいかな~
でも、いま神戸牛って・・・
彼って結構グルメなんだよね~
な、なるほど・・・
あの、さっき子寅丸こっちに来てませんでしたか?
へ!?
まて、まてまてまて。
まさかこの人があのトラの飼い主の五木さん?
どう見ても石油王とかではない。
そこら辺の好青年って感じだ・・・
あぁ、子寅丸なら私の隣にいるよ~
ガゥ
(スリスリ)
まじですか。
どっからどう見てもただの高校生だ。
お金持ちじゃなさそうな風貌をしているこの青年。
でも本当は・・・
あ、あの~・・・
お!君は今日から入る新入りの優君かい?
え、あ…まぁ…そうですけど…
初めまして、僕は「五木 雄二(いつき ゆうじ)」っていうんだ、よろしく!
い、五木さん…
一つ聞いても…いいでしょうか?
五木さんって、石油王ですか?
石油王だなんて…
僕はただのしがない大学生さ。
え、あ…いや、でもなんでトラを・・・
あぁ、子寅丸くんのこと?
彼は2年前に拾ったんだよね。
>>二年前に拾った<<
トラってそこらへんにいるもんなの?!
ここ日本だよ?!トラがいる地域って・・・
あの~お二人さん・・・
そろそろこの子をお部屋に案内したいんだけど~
あぁ、それもそうだね。
それじゃ、子寅丸の話はまた後でってことで。
じゃあ、また・・・
うん!
またね!
ここが、これからあなたが住むお部屋よ。
そして、私の部屋でもあるわね。
ここが、僕の住む部屋・・・
あぁ、君が碧くんだね。
話は聞いているよ。
え?ウサギ?
しかもしゃべってる・・・
なに、このシュールな光景・・・
それに僕の名前を知っている・・・
なんなんだこのウサギさんは・・・
あぁ、モニカさん。
この部屋、掃除してくれたんだね。
僕も手伝ったよ~!
女の子もいるようだ。
一人称を「僕」と言っている所から見るといわゆる僕っ娘って奴なのだろうか。
でも、彼女はなんだか不思議な雰囲気だ。
なんというか…その~…魔力的な~…サムシング…的な~…何か。
へぇ~、ルノちゃんも手伝ったんだ~。
きみ偉いね~、はいお駄賃。
やたー!
モニさん!莉愛ちゃんから500円もらったー!
よかったじゃない、頑張った甲斐があったってものだね。
あ、あの・・・
へ?どうしたの?
この人たち…誰ですか?
あ、僕は「鹿島 ルノ(かしま るの)」ですっ!
趣味はお手伝いですっ!
そんなにかしこまらなくても・・・
あ、私はモニカ・アンジェラ。
ここの大家さんのペットよ。
大家さんがお出かけしてるときは、私が代わりにやっているの・。
ちなみに私はメスよ。
は、はぁ・・・
さて、あなたが新しい入居者だってことは知っているわよ。
碧 優くん。
な、なぜ僕の名前を・・・
いや、入居者ファイルに書いといたんだから分からない筈ないでしょ・・・
あぁ・・・なるほどね。
改めて、ようこそ『とある荘』へ…
あ、そうそう。
一つ言い忘れたことがあったんだけど。
なんでしょうか・・・?
君と莉愛くんのほかにも、入居者が今度来るから、よろしくしてやって頂戴ね。
は、はい!
こうして、僕の不思議で、奇妙で、楽しくて、愉快な同居生活が始まった。