小絹

こんなに人が居るなんておかしいだろう

梓川

それは僕もそう思う

小絹

有明はいつからコロニーになったんだ

湯島

コロニー、うん、まぁ、一部は間違ってない

梓川

グリコーゲンとかアミロペクチンみたいにすごいことになってるけど、驚いててもどうしようもないからね

湯島

そうですね、現実は変わりませんね

小絹

現実は横に置いておきましょう。
えっと、販売前の準備は敷き布を敷いて本を並べるだけですか?

梓川

大体はそうなんだけど、小さいラックを立ててカバー掛けて、その中にお釣り銭の箱を入れておくよ

湯島

あれ?お釣り銭箱むき身じゃないんですね

梓川

むき身で置いておくと、横から持って行かれやすいから、ラックの下に隠すんだよ

小絹

なるほど

湯島

確かに、スリは心配だ……後で高校の後輩に教えておこう

梓川

あと、今回お誕生日席だから、値札はマスキングテープで敷き布に留めて置いてね

湯島

そうですね。この場所だと値札が風圧で飛びそう

小絹

風圧?どういう事です?

梓川

なんかわかんないんだけど、開場して数分するとすごい数の人が駆け抜けていくんだよね

小絹

駆け抜けるだけなんですか?

湯島

ああ、学漫のスペースを抜けて創作少女を抜けたところにやつらの狙いはあるんだ

梓川

え?そうなんだ

小絹

何があるんだ?

湯島

なんか梓川先輩と小絹には教えにくいなぁ

梓川

さて、怒濤の人波が収まって暫く経ったし、他の学校に挨拶回り行こうか

湯島

誰が行きますか?お釣り銭に関する危機管理意識が1番高いのは梓川先輩なので、先輩にはここに居て欲しいんですが

梓川

そう?じゃあ小絹お願いできる?

小絹

はい。構いませんよ

湯島

あれ?迷わず俺のこと外しましたね

梓川

湯島を野放しにするとなかなか帰ってこなさそうで

湯島

……自覚はある

小絹

実際に湯島を野放しにするとどうなるかはわかりませんが、僕も途中で友人を見付けたら少し時間が掛かるかも知れませんよ?

梓川

そうは言っても、そんな膨大な数友達が居るわけじゃないでしょ?それくらいなら大丈夫

小絹

わかりました。それでは行ってきます

湯島

……梓川先輩、なんで俺を野放しにすると帰ってこないと思いました?

梓川

いや、こういうイベント慣れてるみたいだから、かなり広範囲にわたって本のハンティングしてくるんじゃ無いかと思って

湯島

はい。それは否めません

梓川

そう言えば、湯島ってこういうイベントでどんな本買ってるの?

湯島

そうですね、なるべく自分の性癖に正直になるようにしています

梓川

えっ?もしかしてここってそう言う本も有るの?

湯島

はい。学漫と創作少女を越えた先にあります

梓川

あー、それであの人津波が来るのかぁ

湯島

興味ありますか?

梓川

えっと、無いわけじゃないけど、実際行くとなるとなんかこう

湯島

大丈夫。ここにはそう言う人が沢山居ますから

梓川

だめだってー!今日はサークルの用事で来てるんだからそそのかさないで!

お話中失礼します。こちら漫研ですか?

梓川

あ、失礼しました。そうです、漫研ですよ

私どもも漫研でして、よろしかったら部誌の交換をと思うのですが、いかがですか?

梓川

はい、部誌の交換は歓迎です

湯島

これがうちの新刊です。どうぞ

ありがとうございます。こちらがうちの新刊です、どうぞ

梓川

随分とこう言う事に慣れているようですけれど、挨拶回りとか慣れているんですか?

そうですね、家のことで余所様にご挨拶に伺うことは多いので、それで慣れました

湯島

家のことでですか、何だか大変そうですね

そうですね。
今は1人暮らしなので、家のことを忘れて学校のことを楽しみたいです

梓川

学生のうちにしか出来ないこと、沢山楽しんでくださいね

はい、ありがとうございます。
余り長居してしまってもお邪魔かと思いますので、そろそろ失礼しますね。
ありがとうございました

湯島

こちらこそ、ありがとうございました

梓川

随分と丁寧な人だったね

湯島

そうですね。育ちの良さが出てるというか

梓川

なんとなく小絹に似てる気がしたけど、気のせいかな?

湯島

ああ、確かに、ごく自然に上品な感じがする辺りとか、似てましたね

梓川

湯島も見た目だけなら上品っぽく見えるんだから、下世話な話は控えた方が良いよ

湯島

状況により善処します

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