……201X年夏
















某国立大学の化学研究室では




自由研究という名の




予算の無駄遣いが行われていた。





























国立ABC大学
山城研究室




















山城

見ろ!三井君。
遂に悲願のブツができたぞ!







三井

なんですか、その麻雀牌みたいなのは。

山城

麻雀牌じゃ。

三井
三井

で?

山城

ただの麻雀牌じゃないぞ!

山城

見よ!この麻雀牌を!

山城

こうやって、手のひらを押し付けると……

山城

なんと、手のひらにくっ付くのじゃぁ!!

後藤田

おぉ!

三井

……。

山城

見ろ!これだけ手を振り回しても
取れんのじゃ!

三井

じゃあ、どうやって取るんですか?

山城

フフン。良いところに気がついたな、三井君。

山城

コイツは界面上の水分子が一定量に達すると、急激に吸着力が落ちるのじゃ。

山城

なので、こう……
白さえあれば大三元、って時に
スポイトでタラっと……。

三井

僕はもう
雀荘行きませんよ!

山城
山城

な、なぜじゃ?
なぜ急にそんな事を!

三井

教授、その麻雀牌使って
イカサマする気でしょ。

山城

な、なぜわかった!?

三井

教授が今回の自由研究にとりかかったのは、3日前の朝ですね。

山城

そうじゃ、それがどうかしたか?

三井

その前日には
僕と後藤田さんと教授で
サンマーやって
教授はけちょんけちょんに負けていた。

山城

くっ……嫌なことを思い出させるのう……。確かにその通りじゃ。

三井

しかし、教授。
ここに大きな落とし穴がある!

山城

なんじゃと!?

三井

教授が麻雀に負けた翌日、
教授が研究室に来たことは
これまでに一度も無かった!

山城

うっ……

後藤田

ふむ。だがそれでは決定力に欠けるな。

山城

そ、そうじゃ!
それだけでワシが
ギリ技でイカサマをするとは限らんじゃろ!

三井

いやいや、もう教授が犯人だと決まっています。

山城

な、なぜじゃ!?

三井

思い出して下さい。
さっき私が
『教授、その麻雀牌使って
イカサマする気でしょ。』
と言った時、教授がなんと言ったか!




















三井

教授、その麻雀牌使って
イカサマする気でしょ。

山城

な、なぜわかった!?












山城

あぁ!!!

三井

既に教授の自供により
この事件は解決していたのです!

山城

うっ……。

後藤田

き、君は天才か!?

山城

スマン、三井君。
つい出来心で……。

山城

そんなつもりじゃ
なかったんだぁぁ!!!

三井

……教授……。

山城

み、三井君……。

三井

もう少し、カマかけに引っかからないようにしましょう。
ギリ技とかも言っちゃってるし。

三井

あと、教授は緊張するとすぐ手汗ダラダラなんで、実践したら絶対すぐ落ちますよ。

山城

うっ……

山城

ウワァァァン!




三井

それより、なんか暑くないですか?

後藤田

確かにちょっと暑いですね。

山城

夏なんだから仕方あるまい!
最近のワカモンは暑い暑い言いおってからに。

三井

くんくん……。

三井

それにこの匂い……。
なにか燃えてません?

後藤田

バーナーではなさそうだな……。

山城

んー?

山城

……もしかして。

三井

教授!どこへ!?

後藤田

私も行ってみよう。



























山城

わしの部屋……。
火事……じゃな……。











後藤田

そう……ですね……。













三井

どうして火事に!?











山城

吸着牌ができたのがあまりに嬉しくて
ガスバーナー止めるの忘れとったわい。






















三井

あ!炎が緑に!

山城

こりゃ……銅じゃな。

三井

炎色反応ですね……。
確か中学ですよね、習うの。

後藤田

スゴイぞ!これだけ豪勢な炎色反応なんて中々見れないぞ!






















山城

お、また変わった。
これは……硫酸銅か?
しかし、こんなに鮮やかな青だったかのう?

三井

うーん、僕も自信がありません。

後藤田

単に十分に酸素が供給されたメタンが燃えているのでしょう。




山城

おお、なるほど。
さすがは後藤田君じゃ。

三井

どんどんメタンが漏れてる所に
なんか上手いこと
空気が対流してるんですかね。

後藤田

……。



























山城

逃げろー!





































































三井

研究所……消し飛んでしまいましたね……。

後藤田

あぁ、そうだな。

三井

あれ?後藤田さん、山城教授は?

後藤田

サンフランシスコの学会発表へ逃げた。

三井

逃……げ……た?

後藤田

これを見たまえ、
教授の置き手紙だ。
















山城

拝啓、諸君。
今回の件は実に残念じゃったが、気を落とさぬように。

山城

ボクチンは、サンフランシスコの学会発表あるから行ってくるね。

山城

あと、研究所は国の持ち物だから、ばれないうちに後藤田君と三井君で何とかしてね。

じゃあ、ヨロシク。







山城

追伸





三井

おみやげは買わないから期待しないでちょ。

三井

じゃねーっつーの!

三井

教授のくだらない自由研究のでせいで火事になったっていうのに!

三井

何1人海外逃亡してんだ!

後藤田

三井君。それはいかん。

三井

え?

後藤田

たとえ教授の研究が
我々からしたら、くだら……
……理解し難いものだとしても、
それを否定してはいかん。

三井

後藤田さん、教授の研究がくだらないって言おうとしたよね?よね?

後藤田

まぁまぁ、三井君。
そんなに目くじら立てるな。
いつものことじゃないか!

三井

いや、まぁ、たしかに
いつもの事ですよ。

三井

でも、今回ばかりは
堪忍袋のテールがプッツンだよ!

後藤田

三井君も中々面白いなぁ。

後藤田

しかし、どうやって研究室を元に戻そうかな……。

三井

後藤田さんは、なんでまじめに教授の尻拭いをしようとしてるのか謎だ。

三井

バイトでもして、お金を稼ぎますか?

後藤田

なん……と……。

後藤田

君の発想力はスゴイな。

三井

え?

後藤田

私は研究室を化学反応で戻す事しか考えてなかったよ。

三井

いやいやいや、後藤田さんの発想のほうが……。

後藤田

ところで、どんなバイトをするんだい?

三井

えっと、それは……。
ちょっとまだ……。




後藤田

しまった、いかん!
忘れてた!



三井

今度はどうしたんですか?

後藤田

よかった、あったぞ。

後藤田

うん、動く動く。

後藤田

爆発したおかげで、熱によるダメージはほぼ無いな。

三井

そのARグラスみたいなのは
なんですか?

後藤田

ARグラスだよ。
本当に三井君はスゴいな。
天才とは君の事だ。

三井

執拗に持ち上げるのやめて下さい。

後藤田

ちょっと着けてみてくれ。

三井

これつけるとどうなるんですか?

N

……。

後藤田

……。

三井

……。







三井

……。

後藤田

……。





三井

……。

N

……。

後藤田

……。

三井

……。






三井

えーっと……。

後藤田

どう、何か見えたかい?

三井

あの……。
後藤田さんの隣に……
なんか性別不明の白い人が見えました。
……傍らにはNって文字も。

後藤田

あー!
それは窒素だな。

三井

ち……?

後藤田

つまり、このARグラスはだな……
元素 を 擬人化する
(Element Humanize)
EHグラスなんだ!

三井

元素を擬人化!?

三井

なんでまたそんなものを……。

後藤田

それは……話すと長くなるのだが……。

後藤田

昔、私はタイムマシンを作りたかったのは知ってるな?

三井

知りません。

後藤田

その流れで、これまで発生した全ての化学反応が、正確に逆反応を続ければ、過去へ遡れると仮定したのだ。

三井

何を言っちゃってるんですか。
仮にそれができたら、記憶とかもどんどん消えていくんじゃないですか?

後藤田

しかし、逆反応に必要なエネルギーは正反応とは違うし、全ての反応は可逆ではない。

三井

それを分かっているのに、どうしてその無理なところへ突っ込んていったんですか?

後藤田

そこで私は、なぜ全ての反応が均一に行き来できないかに疑問を持った。

三井

人の話聞いてねーよ、この人

後藤田

そして私は、原子単位で見ると、一般的な電子雲でしかないのだが、付近に存在する同一元素の原子を同時に観測すると偏りがある事を発見した。

三井

なんかしれっとすごい発見を発表したぞ。

後藤田

イオン結合でも共有結合でも水素結合でもない、新たな相互作用がありそうだと。

後藤田

そして私は遂に発見したのだ。

後藤田

元素は意思を持っているということを!

三井

な、なんだってー!!

後藤田

そして、その意思をビジュアライズするアイテムがこれ!EHグラスなのだ!











三井

てか、それなぜ学会で発表しないんですか?

後藤田

いやぁ、うちの研究室のテーマと全く関係ないからさ……。

後藤田

それに、証明が難しくてね。
某細胞のように色んな人に叩かれて終わっちゃうだろーなと。

後藤田

なんで、言い出せずに黙ってた。

三井

黙ってたって……。
スゴい発明じゃないですか!

三井

コレは世界の全化学っ子の夢のアイテムですよ!




三井

だってほら、こう……。

O

!!

三井

お!
Oって事は……
酸素……たんだ!

三井

うっはぁ……。
酸素たんかわぇぇ……。
吸っちゃうぞー!

O

……。

三井

スーハースーハー

後藤田

君も大概だな……。

後藤田

む……。

後藤田

酸素濃度が下がった気がする。

三井

え?

後藤田

嫌がられてるんじゃないか?

O

タッタッタッ……

三井

あ、酸素たん逃げないでー!

後藤田

まずいぞ!
酸素に謝れ!!

三井

そんな、元素に謝ってどうすんで……

三井

ぐ……!?

三井

くる……しい……

後藤田

ほら、酸欠だ。
早く謝っとけ。

三井

さ……

三井

酸素たん、
ごめんなさーい!!

さーい!!

さーい!!







O

!!!

O

……。

三井

……。

O

……。

O

ニヤリッ

O

タッタッタッ……

三井

だあぁぁぁ……
行かないでぇ……

後藤田

ふむ、トコトン嫌われたようだな。

三井

く……し…ぬ……。

後藤田

ほら、酸素ボンベだ。
これを吸うんだ。

酸素ボンベ

三井

スーハースーハー……

後藤田

とりあえず、EHグラスを取ろう。
VRと同じく脳が認識しなければ、酸欠にもならない。

三井

あー……死ぬかと思った……

後藤田

なに、あの酸素が世の中の全ての酸素じゃないさ。気を落とすな。いつかキミを気にってくれる酸素だって現れるはずさ!

三井

そのセリフ、人間の女の子にも人気がないボクには、スゴくダメージがでかいです。





後藤田

と、まあ……元素には意思があって……

後藤田

私は世の中の未解決な事象の中には、少なからず元素の意思が関わっているものがあると思っている。

三井

はい。

後藤田

以上だ。

三井

終わりかい!





後藤田

だ……、ダメかね?

三井

だって、このEHグラスがあれば、世の中の未解決な事象も解決できるものがあるかもしれないってことでしょ!?

後藤田

……!!

後藤田

三井君、君は天才だな……。

三井

もうこの手の持ち上げはスルーしておこう。

三井

世の中の未解決な元素意思由来の問題を解決する組織……。

三井

ゲンソ―探偵社
『ディテレメンツ』

後藤田

おお!

三井

これを立ち上げて、世の中の不思議を全て解決!

三井

そして、収入ガッポガッポじゃぁ!

後藤田

それが研究室を化学反応で復旧する予算になるんだな!

三井

クックックッ

後藤田

ふふふ……

O

……。

N

……。

C

……。

Sr

……。

Ni

……。

Ne

……。

Ag

……。

Y

……。

I

……。

H

……。

Rt

……。

Hg

……。

Ne

……。

Hg

……。

Hg

……。

Pt

……。

K

……。

Al

……。

Ne

……。

Cl

……。

C

……。

Fr

……。

He

……。

F

……。

Ar

……。

H

……。

H

……。

Ce

……。

Pm

……。

Pt

……。

Be

あ〜ぁ……。
いろんな物質を空気中にばらまいちゃって……

Be

しーらないっ!





































僕達の探偵活動は


まだ始まったばかりだ!!!































本作は『天才コンテスト』に向けて立てたプロットであり

また、シナリオの特質上

ストリエでしか実現できない内容であるため

短編用に再編し公開する事にいたしました。








探偵社を始めよう

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