あの後は色んなことが起きた。

 家に帰ると、母さんがいた。
 合宿中に父さんと母さんの間で話し合いが行われたのだという。

 結果。
 僕は母さんに引き取られることになった。
 母さんが泣いていた。
 本当は僕のことも手放したくなかったんだと言ってくれた。
 
 姉ちゃんが無言で帰ってきた。
 これで、僕と母さんは姉ちゃんの死を受け入れることが出来たのだ。

 そして、僕たちは高校生となった。
 
 姉ちゃんの稼いでくれたお金で予定通りに高校に入学。生活費を稼ぎたい僕はバイトが出来る学校を選んだ。

 ナガレも一緒だ。
 それに、梓も……
 
 彼女は両親とたくさん話し合って、僕たちと同じ高校を受験したのだ。

桜 ハヤト

あ……

梓 アンズ

おはよう、ハヤトくん

滝 ナガレ

……

梓 アンズ

と、ナガレくん

滝 ナガレ

何、その態度の違いは

梓 アンズ

ハヤトくん、私ね動画サイトに投稿することにしたの

桜 ハヤト

何を?

梓 アンズ

リンコさんの歌をカバーして、『歌ってみちゃった動画』に

桜 ハヤト

え?

滝 ナガレ

音痴の梓が?

梓 アンズ

それでは、聞いてください

梓 アンズ

END LESS LULLABY

滝 ナガレ

やめろー

梓 アンズ

わ〝た〝し〝の〝こ〝え〝は〝~♪

滝 ナガレ

うわー

み、耳がぁぁぁぁ

桜 ハヤト

人災だな

~~♪

桜 ハヤト

……

梓 アンズ

~~♪

滝 ナガレ

やめーろー

桜 ハヤト

梓の絶妙にズレた歌声に通学中の生徒たちが頭を抱え込む。
酷い歌声だった。
僕は慣れているから我慢できるけど

リンコ

私の声は届かないけれど この想いをとどけます

桜 ハヤト

重なるように、姉ちゃんの声が聞こえる気がする

リンコ

この言葉は永遠に 
誰かの声で繰り返される
おやすみ 愛しい子 
安心して 明日は来るから
見えなくても 触れられなくても 
私はここにいるよ
だから 安心して おやすみ
そして 夜が明けたら
おはようって言うね

桜 ハヤト

寝る前に僕は姉ちゃんの遺影に『おやすみ』って言う。
そうすると、姉ちゃんも『おやすみ』って言っている気がする。
そして、朝は……夢の中で姉ちゃんに叩き起こされる、目が覚めると呆れ顔の母さんがいて……また、お姉ちゃん離れ出来ないのねって笑われる

桜 ハヤト

ねぇ、ナガレ。僕っていつになったら姉ちゃん離れできるかな

滝 ナガレ

………一生出来ないんじゃないかな

桜 ハヤト

え?

滝 ナガレ

冗談だよ。そういえば神田さんが、カカオの写真記念館を作るんだってね

梓 アンズ

クルミさんの個展もやるんだって。ミントちゃんが張り切っていた。ミントちゃん、クルミさんのこと大好きだからね。去年からベタベタしていて羨ましかったな。

滝 ナガレ

去年って……「ミントはハヤトが好きだ」って勘違いしてたよな、コイツ。
ミントがハヤトにくっついていたのは、お姉さま系に可愛がられているハヤトに嫉妬していたからだったのにさ。
人間の勘違いと思い込みって怖いなぁ。

滝 ナガレ

ササミさんから手伝いに来ないかって誘われたけど、ハヤトは?

桜 ハヤト

僕も手伝いに行くよ。
僕たちは彼らの生きた証を守って、語り継がなければならないって言っていた。だから、

梓 アンズ

だから、私はリンコちゃんの歌を語り継ぐの!

桜 ハヤト

……僕は……………それを修正しないといけないな

滝 ナガレ

さすがアイドルの弟。
音楽を編集する才能があったなんて親友としては驚きだよ

桜 ハヤト

そうかな

梓 アンズ

この前だって、芸能事務所に声をかけられていたよね。
音楽活動と並行してモデルもやらないかって。
あのお姉さんしつこかったね。

桜 ハヤト

あれは、リンコの弟だからだよ。
僕みたいな根暗がモデルなんて……

滝 ナガレ

そう思っているのはお前だけだよ

桜 ハヤト

とにかく、僕は姉ちゃんの音楽を正しく伝えないと

梓 アンズ

一緒に頑張ろうね

桜 ハヤト

それぞれに頑張ろう……って言うところじゃないかな

梓 アンズ

ううう、ハヤトくんのフラグが上がらない

桜 ハヤト

滝 ナガレ

ハヤトは難関だよ。
お姉ちゃんっ子だし……容姿も悪くないから人気もある。
特に年上のお姉さまに。
お姉ちゃんが恋しくなったら妹系の梓より、お姉さま系だろうなぁ

梓 アンズ

ううううう

桜 ハヤト

桜 ハヤト

とりあえず、二人とも遅刻しちゃうから、教室急がなきゃ

滝 ナガレ

おっと

梓 アンズ

はーい

桜 ハヤト

………今日もがんばるよ

リンコ

…………うん

リンコ

私の声はもう届かない、だけど私の歌はいつも貴方の側にある。ハヤトが幸せなら、私はそれで幸せ

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