茉希(まき)の異変に気付いたのは、意外にも彼女の父でも母でも無く、夏夫と言う、親戚の叔父であった。
久々に会う親戚たちとの酒の席。だが、夏夫はめっぽう酒に弱い上に、三十後半を超えた今でも尚、嫁さんに恵まれない。酒で泥酔してしまった親戚達の蚊帳の外で、夏夫は小便を理由にリビングを出た。
まだ朝だってのに、みんな早いんだから。呆れ交じりに一息つくと、二階から茉希の泣き声が微かに聞こえてきた。
そう言えば、この家の主人の娘は、初めに挨拶したきり上の階にこもりきりだった。年頃だから親戚のジジババと関わりたくないだけだと思っていたが、少し様子が違うようだ。気になった夏夫は、二階の彼女の部屋へと向かった。
――コンコン。
軽く扉を叩き、返答を待つ。返答はすぐには出なかったが、やがて泣き声が消えると、扉が開いた。