あ・・・死骸だ。

掃除時間


いつもといっていいほど窓際には虫の死骸が落ちている


ちょっと男子!!
あんたたちが片づけなさいよ!!

はぁ!?
嫌だよ、お前が見つけたんだからお前が掃除しろよ。

えー!?
だって気持ち悪いもん!!

そういいながらクラスの女子はほうきと塵取りを持った僕をみやる

・・・僕だって嫌なんだけどな。
喘息持ちだから汚いものに触れられないし。


でも視線が痛いし仕方ない

・・・けほっ。

少し近づいただけでこれだ


早く済ませてしまおう





そう思って塵取りをセットする

その時

ちょうちょぉ!!!!

!?


僕を突き飛ばし、現れた彼女は、両手で蝶の死骸をすくい上げた


・・・誰だこの子。


そしてそのまま廊下に出ていくかと思ったら、僕らに指をさしてこういった

きたない。

はぁ!!???

ふふふ♪
ちょうちょー♪


そしてそのままスキップをしながら、教室から出ていってしまった


なにあいつ!???
きもいんですけど!!!!

あー、なんか転校してきて保健室登校だった障害者じゃなかった?
先生が優しくしてやってねとか言ってた。

絶対無理!!!!!
あーもう最悪の気分!!!!

・・・なるほど。




これが僕と彼女の最初の出会いだった


・・・・なにしてるの。

放課後、グラウンドでまた彼女を見かけた


ちょうちょぉ♪
ちょうちょお♪


そして彼女の手にはあの時の蝶の死骸が

・・・・きも。



僕は彼女を一瞥すると、そのまま帰路についた



のど・・乾いた。


僕は近くの自動販売機に立ち寄る



ピー、ガコン

あ・・・ここにも死骸。



光に集まってきた虫たちが、そのまま命尽きたのか地面にいくつか転がっていた


カブトムシまでひっくり返ってる。
足もげてるし・・・・。



僕が眉にしわを寄せると、再び咳が出始める


けほっ・・・。
早く家に帰らないと。




今日は嫌に死骸が目に付く


おかげで咳が出っぱなしだ







そうして僕は家に帰り、その一日を終えた



今日の理科の授業は草花の観察だ。
夏に生える草について班で調べなさい。

めんどくさ。

お外おおお♪

は!??
よりによってこいつと同じ班!?

確かに・・・。
昨日の今日でこれは素晴らしい組み合わせの班だ。


半ば感心しながら僕は自分の作業へと戻る


あ・・・蟻。

おいしい食べ物を見つけたのか一生懸命に運んでいる

がんばるなぁ。



するとそこにアゲハチョウが飛んでくる


わ!
綺麗!!

夏だから元気いいな。

あ。

ちょうちょぉ♪



そこに彼女が現れ、蝶を追いかけて走って行ってしまった

おい、お前ら。
班は一緒に行動しなきゃならん。
誰かあいつを連れ戻して来い。

えー!!
面倒だしいやよ!!

ぐちぐち言わずにつれ戻して来い!!


すると、またクラスの女子からあの目が向けられる

はいはい。
行けってことね。

僕は仕方なく、彼女のあとを追っていく


どうやら学校の隣にある森に入っていったようだ


おーい。
えーっと・・・。


しまった

彼女の名前を聞いてない



僕はとりあえずあたりを見回しながら進んでいく


すると


あ・・・さっきの蝶?



先ほど彼女が追いかけていった綺麗な青い羽根のアゲハチョウが姿を現した

彼女、どこに行ったか知らない?
・・・なんて聞いても意味ないか。



答えるはずもないのに、ふざけて聞いていると不意に蝶が不思議な動きをする



そして

ポトッ・・




そのまま蝶は地面に落下した



えっ?






そう、蝶は僕の目の前で死んだのだ


その命が尽きたのだ





・・・・。
気持ち悪く・・・ない。




僕はふと、昨日の掃除の時間に見つけた蝶の死骸のことを思い出す



同じ種類のアゲハチョウだ。




目の前のアゲハチョウは昨日の蝶と同様に死んでいる


でも

なんでだ?
死骸なのに、気持ち悪く感じない。



さっきまで生きてたから?


その時、彼女のことを思い出す

ちょうちょぉ♪

・・・・同じだ。


彼女は


死んだ蝶にも

飛んでいた蝶にも


同じ言葉をかけていた





そうか・・・、彼女の世界ではすべて平等だったんだ・・・。



僕らはただ死骸をみて気持ち悪いと感じてしまった


でも、生きている蝶を見たその直後に見た蝶はそのままの美しさだった

つまり、僕らは蝶の生を、視ようともしてなかった
感じようともしてなかったんだ



死んでいる蝶も

生きている蝶も


同じなんだ


なんだ・・・。
世界に汚い死体なんて存在しないんだね。



そして僕は、昨日の彼女のように優しく死んでしまった蝶をすくい上げる


けほ・・・。



あ、あそこにも生が


けほっ。


そして潰されてしまったクワガタをひろいあげる




こちらにも生が

けほ・・・こほ。


次は蜘蛛の巣にからめとられて死んでしまった蠅を




こうして森の中の道をすがすがしい気持ちで歩いていると、公園に出る



学校の森ってここにつながってたんだ。


僕は木の陰に座る

そしてそっとてのひらに乗せていた死骸を地面に置く


けほっ・・ごほっ・・。


僕は何をしてたんだっけ?

ごほっ・・ひゅー。
ひゅー・・。

まあいいか、今日ほどこんなにすがすがしい気分になったことはないし

だって

ひゅー・・・ひゅー・・・。





こんなにも世界は美しいものであふれてたんだ


・・・・・。

・・・綺麗。




消えゆく意識の中、誰かが
そうつぶやいた声が聞こえた気がした






おわり

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