切ない声に思わずジッと固まると石川くんが私の涙を拭った。

もう一度はっきりとそう言った彼の顔は、心配してくれているのが滲み出ている。

思わず叫んでしまった。だけどやっぱり、気にしなくていいと思うことはできない。

私の知ってる大ちゃんは、いつもみんなの中心にいて

友達想いで、優しくて、気が利いて、口は悪いけど頼りになったし、一緒にいて面白かった。


あんな大勢の前で誰かを傷付けるようなことをする人じゃなかったのに。

”ごめんなさい”

もう一度そうやって謝ろうとしたら、グイッと腕を引かれて石川くんに抱きしめられた。

グッと強く抱きしめられて、思わず涙がこみ上げる。


こんなに優しい人なのに。噂に振り回されてる人は、馬鹿だ。


水をかけるだけじゃなくて、ビンタの１つでもおみまいしてやればよかった。

素直な気持ちを呟けば、痛いくらい彼の腕が更に強くなる。まるですがってるみたいに思えて、胸が苦しかった。

きっと石川くんも辛いはず。


”恋は素敵だよ。”
私はつい最近、師匠にそう言ったのに。
こんな風になってるなんて、説得力無さ過ぎるよね。

こみ上げた涙は堪えて石川君のために、空気が和めばとそんな台詞。私が元気を取り戻したからか、彼の腕がゆるまっていったのでソッと離れた。

案の定彼は私の言葉にクスクスと笑ってる。

きちんとお礼をしなくてはと、ソッと呟いたら

と囁かれてしまった。


相変わらず弟子を喜ばせるのがお上手。

2人で笑い合えば怒りがスーッと引いていく。


すごいなぁ…石川くんは。
怒りさえも鎮めてくれるんだから。

そこまでしてもらうのは。と遠慮する私の腕を掴むと石川くんはそのまま歩き出した。




…ほんとどこまで優しいんだ。

言った通り私の家の前までしっかり送り届けてくれた彼に、私は頭を下げる。

家の玄関の前でそんな挨拶を交わすと、少し考えた様子の石川くんは、ジッと私の顔を見つめた。

いきなりのことにキョトンとしてしまったけど、言葉の意味を理解した後はしっかりと首を縦に振る。

ここのところ石川くんにべったりだった。
私が遠慮すれば彼も探しに来てくれたりして、ほとんど毎日一緒。

要くんもそれが面白くないみたいなことを言ってたし、自粛するいい機会かもしれない。

もしかしたら女の子と約束があるのかもと考えた。私に振り回されて、全くそういうことしてないみたいだし、いろんな意味で発散してきて欲しいもんね。

敬礼する私を見て笑った師匠は、ソッと手を伸ばして頬に触れてきた。

そして切なげな声。

慌ててそこを拭おうとした私の手を掴んだ石川くんは、ソッと涙後にキスを落とす。


思わずギュッと目をつぶったけど、よく考えたらまたご褒美をもらったじゃないか。


喜びを言葉にしようと思ったのだけど、何故か悲しそうな顔をしている彼に思わず口を閉ざした。

…やっぱりなんだか悲しそう。
何を考えてるのかな…

聞こうと思ったけど、遮られてしまいそのまま彼は背中を向けて去って行った。


…なんだか急におかしい雰囲気になったけど、大丈夫かな…石川くん。