THE 海

 気が付くと俺は、人気のない浜辺に立っていた。

なんで俺はこんなとこに……

 
 思い返せば、彼女に別れを告げられて二日経つ。

 齢31歳にして、まさかの寝取られ発覚。

 俺は絶望の淵に立たされていた。

もうドラマみたいにこのまま海に身を投げてしまおうか。


 地平線を見ているとこのまま海の中に入って流されてしまえばどこまでも行けるような気さえしてきた。

バカヤローーーー!!!


 身を投げる前にとりあえず叫んでみた。

 ドラマの主人公感が出て、なんだか少しだけテンションが上がる。

ザバァー!!

誰がバカヤロウだ、コノヤロウ

!?


 見知らぬ物体が突如、水面から姿を現した。

主人公気取ってんじゃねぇぞ、このタコ

??


 その二本の脚で直立した魚はハっとした顔をし、何かを思い出したように微笑んだ。

いや、わりぃな。
なんかやっと陸にたどり着いたと思ったら、バカヤロウなんて聞こえてきてつい熱くなっちまった

あ、いや、え、あ、はい……

久々の陸地なんだよ、肺呼吸できるか心配でなかなか顔が出せなかったんだけど、お前がビビらせるからつい顔出しちまったよ

はぁ……

勇気を、ありがとうな……

 なんだか見た目はグロいが悪い奴ではなさそうだ。

ふふ

まぁ、気にすんなって

ところで、どうしたんだい
こんな人気のない海でバカヤロウなんて
青春真っ只中っていうわけでもなさそうじゃないか

実はな……

 俺はこの未知の生物に彼女を寝取られたこと、ふと気が付くとこの浜辺に立っていたことを話した。

はぁ……人間ってやつぁ大変だな

まぁ、もしかしたら俺にも非があったのかもしれないし

はは、おめぇはバカだなぁ

え?

今の話聞いただけでわかるぜ
お前は良い奴だってな

そ、そんなこと……

なにより悪いのはその女だ
結ばれる前に素性がわかって良かったじゃねぇか

……

そうかも、しれないな

ああ、そうだぜ

なんか、ありがとうな

気にすんなって!!
俺だってお前にもらった勇気のおかげでこうやって陸に上がれたんだからよ!!

 俺は改めて謎の生物と向き合った。

なんか、思っていたより気が合うな
あんた、名前は?
俺はタカシ、高山タカシ

俺か?
俺は、ギョ・ジーン・エラコッキュ
この世界を支配しに来たんだ

そうかお前も大変……

 支配……、だと?

安心しな、その女も寝取った男も全員ぶっ殺しといてやるからよ!

…………

まぁ、いつかはお前とも敵同士になっちまうかもしれねぇけどな……

オラァ!!

ギョギョギョー!?

何しやがるッ!!

色々と話を聞いてもらっておいて悪いが……

テメェの好きにはさせねぇ!!

ちょ、調子に乗りやがってェェーー!!

かかってこいや、ゴラァ!!
こちとら丁度鬱憤爆発じゃあ!!!

……ピクピク

ハァッ……!
ハァ……!

 俺は充実感に満たされていた。

 この世界を救ったのだ。

 人知れず、誰もいないこの浜辺で。
 

とりあえず、つぶやいとくか

 カシャ!!

地球防衛なう、と

 この旅で俺は生きていくための自信がついた。

 この浜辺に来たのもきっと運命だったのだろう。












 そして、なにより刺身にして食ったギョ・ジーン・エラコッキュのことはきっと忘れることはないだろう。

THE END

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