ある日の夜だった。
時刻はすでに24時を回っていた。
ある日の夜だった。
時刻はすでに24時を回っていた。
来るなっ!!来るなぁッ!!
あたりに響くは男の声。必死に何かに向かって叫んでいるようだ。
しかし、その声は霧散するばかり。
来るなって言ってんだろ!お前らに殺されなきゃならねぇこと何かしたかよ!?
男はまた必死に何かに叫んだ。
それに対し返ってきたのは、冷たく、無慈悲な声。
確かに、お前は『俺らに対しては』殺されるようなことはしてない。だがな…
スラリと刀の抜かれる音がする。それの後にジャキンと銃を構える音もした。
刀は月明かりに照らされ、銃は街頭に照らされ、どちらも鈍く、不気味に光る。
一呼吸置いたところで、また例の声が響いた。
お前はそれ以前に、『何の罪もない奴ら』をその手で殺してきただろ?
それだけのことをやっといて、まさか『死にたくない』なーんて…言わねえよな。
瞬間。男の手には銃弾が撃ち込まれており、その手に持っていたノコギリがあっけなく地面に落ちる。そのノコギリはよく見ると、『赤黒い何か』がべったりとこびりついていた。ついてからずいぶん日が経っているのだろう。ほとんどが固まっていた。
男はこの世の終わりを迎えたような顔をした。
そして気づかぬうちに、男の目の前には、例の声の主が音もなく立っている。その右手には、鈍く、不気味に光る『刀』。
その者の隣には小柄な人間。サイレンサーがついた小型の銃を、似合わない小さな手で持っている。
男はそれに気づき、もう何も動けなくなった。
刀が持ち上がる。
散々やっといて、死にたくないとか無しな。今度はお前の番。
その後だ。
男の首から上がなくなっていたのは。
その後のとある一軒家にて。
ほんと疲れた。さてネトゲやるか
そうつぶやいたのは、メガネをかけた無表情の少女。小柄で、ぶかぶかとは言わないが、身の丈に合っていないようなパーカーを着ている。
その隣には、『赤い液体でまみれた銀色の銃』。
いったい何の用途に使用したのかは、言うまでもない。
おい、ネトゲをやるのはいいが何時だと思ってんだ、『嵜』。
それさ、さっきまで『殺人鬼殺し』に出掛けてた未成年の言える言葉じゃないよね、『凪』。
『凪(ナギ)』と呼ばれた男が、今まさにネトゲを始めようとしていた彼女にそういうと、『嵜(サキ)』と呼ばれた彼女はそう反論した。
その言葉に嘘偽りはなく、凪は黙りこくった。
しかし、数秒後。
明日は月曜日なんだがな…
と、凪が答えると、嵜は何も言わずに先ほどまで立ち上げていたパソコンをシャットダウンさせた。
はあ…折角の日曜日の夜に、『殺人鬼』は出てほしくなかったね。
空気を読む殺人鬼なんて、それはフィクションの中だけだ。さっさと寝ろ。
といった後、嵜は心底いやそうに床についていった。
凪はそんな彼女を見送った後、自らの手にしていた『赤い液体がこびりついた刀と鞘』を手に、自室へと戻っていった。
その足跡は、赤く、あかぁく染まっていた。
彼ら――――『凪』と『嵜』ははたから見れば、ただの高校生くらいの男女(兄妹だが)に思える。
しかし彼らは『普通』の高校生ではない。
先ほどから彼らの会話にある『殺人鬼』という単語。1回だけ飛び出た『殺人鬼殺し』。嵜の持っていた『赤い液体でまみれた銀色の銃』、凪の手にしていた『赤い液体がこびりついた刀と鞘』。それらを何の用途で使用したのか。想像することなど、たやすいであろう。
つまり彼らは、そうなのだ。
町でひそかに噂になっている、殺人鬼だけを狙う現象のようなもの。
人々はそれを、
殺人鬼を殺す殺人鬼、と呼んだ。
人々は知らない。その現象のようなものを、
2人の男女が、故意にしていることであることを。
そしてなぜ、彼らがそんなことを繰り返している理由も、人々は知らない。なあんにも知らない。