つづき
つづき
続き
遠くに鳥居が見える。
振り返るとそこには色とりどりの出店が並んでいた。
お祭りだ。
一番奥にある出店には行列ができている。
私はそこに並んでいた。
子供の頃に見た風景。
なぜだか顔がぼやけて見えない大人たち。
私の2人ほど前に並んでいた浴衣姿の子供が、こちらを見て小さく手を振るのが見えた。
子供の口から血が流れる。
真っ暗な闇の中、鳥居と同じ朱色の血が、鮮やかに見えた。
私はその子供が幼馴染であることに気付き、駆け寄ろうと列から離れる。
列を離れちゃいけないよ
後ろに並んでいた大人に手首を掴まれて、私は列に引き戻される。
なすすべもなく私が見つめるその先で、幼馴染は地面に倒れ、息絶えた。
目を覚ますとそこは見慣れた部屋。
ベッドの上に身を起こし、ぐっしょりと濡れたパジャマに身を震わせる。
時計を確認すると午前6時。
休日にしては早く起きてしまったなと思いながら、私はシャワーをあびることにした。
シャワーを浴びてスッキリしたところに、急に電話がなった。
少し嫌な予感を抱きながら受けた電話からは、しばらく会っていない懐かしい友人の声が聞こえてきた。
その日の午後、私は着の身着のままで故郷へと向かっていた。
幼馴染が急に亡くなったのだ。
食道静脈瘤。
口から血を吐いて倒れたというその様子に、私は今朝の夢を思い出していた。
普段の通勤列車とは違い、電車はガラガラで日差しもぽかぽかと温かい。
私はいつの間にか眠りに落ちた。
……鳥居が見える。
振り返ればお祭り。
行列に並ぶ私の前には、もう一人、知らない大人が立っていた。
突然、目の前に並んでいた人が頭から血を流して倒れる。
朝に見た夢の中、2人前に並んでいた幼馴染、その後の電話、幼馴染の死。
ピクリとも動かない1人前に並んでいた人の体を見て、私は「次は自分の番なのだ」と気付いた。
汗が吹き出し、震える足でゆっくりと後ずさる。
振り返って逃げ出そうとした私の腕を、また知らない大人に掴まれた。
順番は守りなさい
身を捩り、逃げ出そうとするがどうしても手が振りほどけない。
暴れる私の見ている前に、真っ白い人型のモノがふわりと舞い降りた。
それはただの紙の人形のように見えたのだが、私の腕は総毛立つ。
殺される。
人ならざるモノの無言の殺意を全身に受け、私は心臓が止まる程の恐怖に目がくらんだ。
……おい
……おい、起きろよ、おい
……よう、やっと起きたか
気がつけば電車の中。
いつの間にか私の隣の席には、友人の芦屋が座っていて、私を揺り動かしていた。
頬を流れる冷や汗を袖で拭く。
ドキドキとなる心臓が落ち着くのを待って、私は夢の話を芦屋に話した。
またお前はそんなもん見てたのか
少し険しい顔になった芦屋が溜息をつく。
彼はそれ以上何も言わず、ただ私の背中に指先で何かの模様を描いた。
よし。これでいい
最後に私の背中を叩くと、芦屋は屈託なく笑った。
なに、よくある『猿夢』ってやつさ。続きを見なけりゃ何の問題もない
幼馴染が連続で死ぬのも寝覚めが悪いし、続きを見ないようにおまじないを掛けといたから心配ないさ
香典だってただじゃないしな!
芦屋の言葉にホッと胸をなでおろす。
よくある話だと彼は言った。
続きを見ないようにおまじないも掛けてくれたと言った。
そこで安心して終われば良いのだが、私はどうもこの手の話に興味が尽きない。
思わず、続きを見たらどうなるのか、おまじないとはどんなものなのかを芦屋に問いただしてしまった。
『猿夢』だよ。知ってるだろ?
続きを見てお前の順番になったら……死ぬだけさ
……おまじないはおまじないだ。物理的に何かがある訳じゃない、気の持ちようってやつさ
……大丈夫だよ。お前が俺を信用して、おまじないに効果があるって思ってるうちは続きを見ることはないさ
まぁせいぜい俺を信用することだな
なんでもないことのように芦屋はそう言うと、通夜の後、久しぶりに地元の店に飲みに行かないかと持ちかけるのだった。
もちろん、私のおごりで。
―― 終