ここは、銀杏(いちょう)大学の講堂。
ここは、銀杏(いちょう)大学の講堂。
今日は「講義見学ツアー」の一環として、煉先輩が受講している「初級管理会計論」の講義を、先輩と一緒に聞いている。
まさか、美琴と一緒にこんな早く大学の講義を受けられる日が来るとは思わなかったよ…
えっ!?
先輩…私が高校を卒業するのは、まだ2年も先の話なのに…そんな先のことまで考えてくれているなんて…
どうした?美琴…
いえっ。何でもないですよ♪
今日の井間村教授の講義は「工業簿記と財務諸表の関係」について、だそうだ。
ちょうど昨日、学校で総合原価計算が一段落して、次から貸借対照表・損益計算書・製造原価報告書の作成についてやるぞって、戸山先生が言ってました♪
俺にとっては「復習」になるが、美琴にとっては「予習」になりそうだな!
はいっ。
さて、それじゃ今日は「工業簿記と財務諸表」について、考えていこうと思う。
それじゃ…そこの君!
私、ですか?
そうだ。
「財務諸表」とは、何のことを指しているかね?
はい………
「貸借対照表」や「損益計算書」のことを指しています…
その通り。
「財務諸表」とは、企業がステークホルダー(利害関係者)に対して一定期間の経営成績や財務状態を明らかにするために、複式簿記に基づいて作成された書類のことで、別名「決算書」とも言われている。
その種類には「貸借対照表」「損益計算書」「キャッシュフロー計算書」「株主資本等変動計算書」などがあげられるが、工業簿記が主に関わってくるのは「貸借対照表」と「損益計算書」だ。
さすが大学の授業…難しい言葉が容赦なく使われてますね…
俺たちみたいに、商業高校で「簿記」を勉強してきた学生じゃないと、理解できないまま先に進んでしまいそうだな…
さて、それでは何故「貸借対照表」と「損益計算書」は工業簿記に関わっているのか…
そこの君!!
俺っすか?
そうだ!
なぜ工業簿記が「貸借対照表」と「損益計算書」に関わっていると思う?
そりゃ先生…
貸借対照表は会社の財産を示した決算書ですよね!?であれば、製品を生産する工場で使われている機械とか工場の建物そのもの、工場が所有している現金とか借金なんかを、まとめて貸借対照表に示さなきゃだからじゃないですかね?
それでもって損益計算書は、製造業の売上を支えるのは、工場で作られる「製品」な訳で、その原価が「売上原価」になるから、なんじゃないですか?
君は、言葉遣いは悪いが、的を得た回答をするな…
貸借対照表は、企業の財政状態、言い換えれば企業の「健康状態」を明らかにする決算書だ。
つまりは、工場が所持している資産・負債も、営業活動を行っている本社の資産・負債と合算して表示しなければならない。
工場が所有する現金はもとより、期末に残っていた材料や仕掛品、製品などの、製造業特有の「棚卸資産」を、貸借対照表に記載することになるんだ。
ねぇねぇ先輩…「棚卸資産」って何ですか?
一般的には、販売目的と何らかの形で結びついている財産のことで、数をカウントできる資産のことだな。
「棚卸」という言葉自体も、「棚から品物を卸し(下し)て、品物を一つひとつ調べること」が言葉の由来らしいし…
棚卸って、そんな深い意味があったんだね~知らなかったなぁ…
さて、一方で「損益計算書」だが、企業の一定時点、これは所謂「決算」のことだが、その時点での経営成績を明らかにする決算書のことだ。
工業簿記を採用する「製造業」には、商品の「仕入」は存在しない。そんな状態で、「売上高」を計上するために要した「売上原価」をどうやって算出するのか…
それは、「製造原価報告書」により算定された『当期製品製造原価』に、『期首製品棚卸高』を足し、『期末製品棚卸高』を差し引くことにより算出するんだ。
商業簿記の売上原価を算出する際に使用した「期首商品棚卸高+当期純仕入高-期末商品棚卸高」の計算式を「製品」に置き換えればいいんですね!!
その通りだ!
「工業簿記」ならまだしも「原価管理」とか「管理会計」とかいう名前になると毛嫌いする奴も多いが、その実は案外簡単なものも多い。
ここにいる学生の皆は、工業簿記を毛嫌いせず、俺の話を聞いてもらいたいものだ。
何だかあの教授、言葉遣いは悪いけど、とっても学生のことを考えて講義をしている気がします…
まぁ、まだ内容的にも工業簿記の「初歩」段階だから、美琴にも分かりやすく聞こえるのかも知れないな。
さて、そうしたらいよいよ「製造原価報告書」について、だが…
おっと、どうやら休み時間のようだ。学生諸君も、見学に来ている高校生諸君も、休み時間にしてくれたまえ。
15分後に、講義を再開する!!
chapter16 に続く