「災厄の紅玉翼」



昔むかし、あるところに、とても狭い【世界】がありました。そこは、【天界】【魔界】【地上界】の三つの国に分けられ、みんな平等に幸せを与えられていました。【天界】と【魔界】には、それぞれ王が据えられ、【地上界】はその二人の王から手厚く保護されてきました。
しかし、ある日のこと。世界を平等に保つための要ーー【秘宝】を巡った、【天界】対【魔界】の大きな戦争が起きました。原因は、天界に安置されていた秘宝の力を、魔界が独占しようとしたことでした。この戦争により、秘宝は粉々に砕け、地上界の至るところに飛び散りました。 

秘宝が砕け散ったことにより、その加護を失った【世界】は、ひどい災厄に見舞われました。貧困、疫病、犯罪の横行、そして心の摩耗ーー特に混乱が大きかったのは、特定の王を持たなかった地上界でした。それを見た天界の王は、一刻も早い秘宝の復活、保護を一人の天使に命じました。
その天使は、混乱を収束に導く力を持つとされている【救済の子】と呼ばれていました。しかし、戦争によって心の傷を負った天使の【欠片】探しは難航しました。
彼の心を占めるのは、自分を守ろうとして魔界に攫われた幼なじみ、そして、戦争が始まると同時に性格が変わってしまったように殺戮を繰り返し、魔界の捕虜となった【災厄の子】と呼ばれた兄のことでしたーー。

それから数百年という時間を掛け、天使は秘宝を守る守り神となりました。

しかし、これからする話は、その天使の話ではなく……魔界に【囚われた】一人の天使……彼の兄の話だ。

ーーこれは、一人の哀れな天使の【最期】の話……誰にも語られることがなかった、一人の天使と、魔族の話ーー。



ふと目が覚めると、知らない場所にいた。体がひどく重い…鼻につく鉄のような、嫌な臭いが充満している……。

サタン

あ、目ぇ覚めた?

笑いを含むような、不快な声に視線を上げる…そこには、ついさっきまで敵対していたはずの魔界の王ーーサタン・ブラインがいた。

エルフェ

貴様ッ……!!

俺はだるい体に鞭を打ち、サタンに襲いかかろうとする……が、体が強く後ろに引かれ、その場に尻餅をついてしまう…。

エルフェ

ッ……!!

サタン

そういきり立つな。それに、今のお前じゃそう自由には動けないよ…ところで、よくそれだけの悪意を取り込んで正気でいられるな?

落ち着いて見てみると、俺の体には何重にも鎖が巻かれていて、自由に動くことが出来ないようになっている……その先は、一人の魔族によって握られている…そうか。今の俺は自由どころか命すらもこいつらの手中だというアピールか…小賢しい…。

サタン

おい、聞いてるか?…そういうわけで、今のお前はひどく危険な状態でな?

エルフェ

殺せ

サタン

は?

エルフェ

捕虜として何も出来ずに過ごすくらいなら死んだ方がマシだ。それに、俺を捕虜にしたところで何の得にもならないぞ

俺が自嘲気味にいうと、サタンは口元の弧を深めて言った。

サタン

お前が【災厄の子】だからか?もしそうなら…俺はとことんヘレネを軽蔑するな

エルフェ

ほう…何だ?戦争を起こしておいて、命の重さは皆同じだとでも言うつもりか?そんなの、綺麗事でしかない…

サタン

残念だが違う。それに、俺だって戦争を起こしたくて起こしたわけじゃない

エルフェ

…どういうことだ?

確か話では、魔界が秘宝の加護を独占したいがために天界に攻め入ってきたという話だったが…騙すつもりか?

サタン

ヘレネのヤツ…天使にどう説明したんだ……

エルフェ

魔界が秘宝の加護を独占しようとしていると聞いたが

サタン

なんだそれ!そりゃヘレネの方だろ!?

やっぱりそうか。

エルフェ

戯言を…ならどうしてお前達は天界に攻め込んできた?

サタン

あれは……ああ、そうだ!!今はそんなこと話してる暇はないんだ!!

エルフェ

はぐらかすつもりか?にしては下手だが

サタン

違う!お前さっきの話ホントに何も聞いてなかったんだな!!

さっきの話…?ああ、そう言えば何か言っていたな。

サタン

そうだな…結論から言うぞ。お前は災厄の子になりかけてる

エルフェ

は…?俺はもともと災厄の子だ。お前も知っているだろう?俺の翼を…

そう言って、俺は通常隠している翼を出現させる…俺の翼は、ほかの天使のものとは違う。色を持たない、水晶のような翼だった。
比喩なんかじゃない。羽というものも持たないし、かと言って骨格でもない。そんな俺の翼を見て、天使達は口を揃えて言うのだ…『災厄の子がきた』と。
しかし、現在その翼の色が、ひどく変わってしまっていた…俺もたった今知った……何だ、これ……?

サタン

うわ……これはこれは……

今まで透明だった翼が、赤黒く染まっていた…。

エルフェ

な、ん……?

サタン

ずいぶん進行しちまってるな…

エルフェ

こんなこと、今まで無かったのに…

サタン

こりゃ、説明より前に悪意を外に出さなきゃな…アルタ!

サタンが声を上げると、鎖の先を持っていた魔族が前に歩みでる…。
赤い目が印象的な魔族だった。この目を、俺はよく覚えていた。

エルフェ

お前は……

アルタ

1日ぶりだね。エルフェ・ハミニカ。自己紹介がまだだったよね?僕はアルタ。アルタ・キュリだ

アルタ…こいつのことだったのか…!俺が囚われる前、最後に戦ったのが彼ーーアルタだった。
アルタ・キュリ…サタンの右腕にして、最強の魔族…1度手合わせ願いたいと思っていたが、まさかこんな形で実現していたとは…。それに、今囚われているということは……。

エルフェ

…そうか。俺は負けたのか……

アルタ

いや、違うよ?

エルフェ

は……?

アルタ

君は、悪意に取り込まれかけたんだ

エルフェ

…悪意に…なんだって?

イマイチ理解が追いつかない。まず悪意ってなんだ…?

アルタ

急に言われても…って顔だね。とにかく、時間が無いみたいだから先に取り除いちゃうね

そう言うとアルタは俺の後に回り、翼にそっと触れた。そして何事かを唱えると、赤黒かった翼が徐々に透明度を取り戻した。
それとともに、今まで感じていた気だるさも引いていった。これは一体…?

アルタ

……終ったよ。君すごいね、こんなに大量の悪意を取り込んでいたのに、こうして正気を取り戻すことが出来るなんて…

エルフェ

どういうことだ…?悪意って…?俺の体に何が起きてる?

サタン

何が起こっているか…か…説明が難しいのだが……まずは『災厄の子』の認識の間違いからだな

サタンはそう言うと、手元に1冊の本を出現させた。それをパラパラと捲り、あるページで停止させる…。

サタン

お前は災厄の子と呼ばれているが、実はそうじゃないんだ。まだな

エルフェ

まだ…?

サタン

そう。もともと災厄の子というのは、溢れ出してしまった『災厄』……『悪意』をその身に取り込むことで世界を平和に保つための存在なんだ……自分の身を犠牲にな

エルフェ

自分を、犠牲に?

サタン

そうだ。悪意を限界以上に取り込んだ災厄の子『候補』は、最終的に悪意に呑まれ…

サタン

そこでようやく『災厄の子』になるんだ

エルフェ

何が違う?

サタン

災厄の子って言うのは悪意の塊…悪意の具現化だな。そんで、今のお前は、所謂災厄の子『候補』ってわけだ……いや、予備軍というべきか

……つまり、俺は悪意を取り込むことが出来る体質で、それが行き過ぎると『災厄の子』になる…ということか?

エルフェ

災厄の子になったらどうなる?

サタン

溜め込んだ悪意の暴走によって世界を滅ぼす……残酷だが、殺すしかなくなるな

エルフェ

……そうか。なら尚更ーー

アルタ

だから、そうならないように僕らは君を捕虜にしたんだ

俺に言わせまいとするように、アルタがかぶせて言ってきた。

アルタ

君の中に取り込んだ悪意を、できる限り魔界に分散する。僕ら魔族は、災厄の子が現れるまで悪意の管理をしている種族なんだ……そして、君が災厄の子になるのを止められる、最後の砦だ

サタン

そういう訳だ。だから、表向きは捕虜として、裏側では保護として。おとなしく囚われていてくれないか?

どこまで本当のことなのか、にわかに信じ難いが、あの翼を見てしまったら信じるしかなかった…俺はコクリと頷き、肯定の意を示す。

サタン

わかってくれたか…いや、良かった…天界のエルフェは堅物だって聞いてたもんでな、信じてくれるかってのも心配だったんだ

エルフェ

あんなの見せられたら信じるしかないだろ…

サタン

そっか。思ったより物わかりが良い様で…アルタ、客人を部屋へ通してあげなさいな

アルタ

はい

客人って…アルタは俺に巻かれていた鎖を手際よく解くと、先に立ってついてくるように促した……。



アルタ

はい、ここが君の部屋だよ

与えられた部屋は、捕虜(表向き)に大して与えられるものにしては立派な場所だった。なんだか神聖な空気が溢れているような…ちょっと安心する感じがした。

エルフェ

もう少し小さな部屋を与えられると思ったが…

アルタ

そりゃあね。だってここ僕の部屋だもん

は?

エルフェ

どういうことだ…

アルタ

あ、大丈夫だよ。ベッドは別に用意してあるからどっちかがソファにねるってこともないし

エルフェ

違うそうじゃない…なんで同室なんだ?襲うかもしれないぞ?

アルタ

だからだよ

アルタはケロッとした顔で答える。

アルタ

君の中に取り込まれた悪意を定期的に取り除く為だよ

アルタ

部屋が別々じゃ、緊急時遅れちゃったりするだろう?

エルフェ

いやそうだが…むう……

一応敵同士だった関係もあり…なんというか…やりにくそうだ…。部屋に入ると、アルタの言う通りベッドが二つあった…本当にふたり部屋なのか…。

アルタ

それじゃ、これからよろしくね、エルフェ

エルフェ

…世話になる

こうして、この奇妙な共同生活が始まったわけだが……

エルフェ

おい、ブラシは鏡台に戻せと言っただろう

エルフェ

うわ!?お、ま…!!まっぱで風呂出てくるな!!せめて下を隠せ!!

エルフェ

痛い痛い痛い痛いなんでベッドん中入ってきてんだ!!いてててて髪引っ張るなバカ!!

なんというか…最悪だった。
価値観は合わないし、マナーは欠けてるし、おまけに片付けができない…しかも……脳筋。悪意を取り除いてくれるのはいいが…このままだと俺が災厄の子になる前にこいつに止めを刺すかもしれない……
しかも……

アルタ

おはようエルフェ!今日も早いね〜

アルタ

エルフェ〜!!一緒にお風呂入ろうよ!!

アルタ

エルフェ…あの、これ食べれる?僕これ苦手で……

やたら馴れ馴れしくてウザい。俺を気遣って…らしいセリフも見られるが、正直余計なお世話でしかない。
……まあ、でも……

アルタ

エルフェ!見てよ、この花魔界にしか咲いてない珍しい花なんだよ!綺麗でしょ?

悪意が溢れる『外』に出ることが出来ない俺のために、こうして定期的に外のものを持ってきてくれるのは…いいかもしれないな。

エル

兄さん兄さん!たまには外に出て遊ぼうよ!ずっと中にいたら腐っちゃうよ!!

エルフェ

………ああ、そうだな……

アルタ

…!

エルフェ

な、なんだよ…?

アルタ

……初めて同意してくれたね

エルフェ

は…?な、なん…!!ち、違うぞ!その花は綺麗だと思うが…決して、そ、その……!

アルタ

ははは、やった!エルフェに喜んでもらえた!!やったやった〜!!

エルフェ

違う!!バカ騒ぐなバカ!!

こいつと過ごすのも、たまになら悪くないと思い始めてきた俺なのであった……。

ーーしかし、この生活を初めて1年後……俺の体は人知れず限界を迎えていたーー。




異変を感じ始めたのは7日ほど前だった。いくら寝ても寝足りず、食欲もなく、酷くだるい。アルタにも散々心配されたが、俺は『大丈夫』の一点張りで…今日、とうとうあいつの目の前で倒れてしまったらしい。背中がひどく熱くて、痛い……。

アルタ

なん、で……?どうなってるの…?

アルタは、俺の背中を見て呟いた…。あいにく、自分の背中を確認することは出来ない。何が起きてるのか、俺にはわからなかった。一緒にいたサタンがうなりながら言う。

サタン

………手遅れだったのか…?

アルタ

そんな…だって、だって昨日まではこんなもの…!!

エルフェ

なあ、何が起きてるんだ?

サタン

災厄の子の侵食が…進んでいる…

エルフェ

………は?

なんだって?だって、悪意はちゃんと取り除いてたし、ここからだって出たことがない…それに、翼だって……翼…だって…?俺は顔を青ざめさせて翼を出すーー

エルフェ

……ッ!!!

昨日まで透明だった翼は、赤を通り越して真っ黒に染まっていた……

エルフェ

なん…だよ、これ……?

アルタ

こんなの、こんなのおかしい…!なんで…なんで…!!

サタン

落ち着けアルタ…ひとまずーー

周りの音が遠のいて…視界の端から、赤く染まっていく…怖い……

アルタ

ーー?……っ!!ーー!?

アルタが焦ったように、俺に何かを呼びかける…でも、もう何も聞こえない…赤く染まる視界から逃げたくて、俺はアルタに手を伸ばしたーー。

エルフェ

たす、けて……

    




次に目を覚ました時、俺はまた鎖で拘束されていた。濃い血の匂いで、頭がクラクラする…視界も、時々赤く点滅して気持ちが悪かった……。

アルタ

エルフェ…

俺を呼ぶ声…よく知っている。1年間一緒に過ごしたんだ…とてもイライラして、でも、落ち着く声……。

エルフェ

……アルタ……

アルタ

エルフェ…エルフェ!!元に戻ったんだね…良かった……!!

薄暗い中で確認すると、アルタの首筋には赤いあとがついていた…首に巻き付くようにしてあるその跡は、何者かに首を絞められた跡のようだった……

エルフェ

アルタ…?どうしたんだ、その、首の……

アルタ

あっ…えっと…これは……

アルタはしばらく言いにくそうにしていたが、やがてポツリと言った。

アルタ

……君に、やられたんだよ

エルフェ

は……?俺に……?

ふと、ノイズがかかった映像が脳内で展開される……腕を目一杯伸ばし、アルタの首を絞める光景…駆けつけた魔族兵の四肢を引きちぎる光景…そして、黒い水晶の翼が、赤い光を帯びる光景……。

アルタ

……覚えてないんだね…アレは…やっぱりエルフェじゃないんだよね…?違うんだよね…!?

エルフェ

……俺は……

アルタ

違うよ!アレはエルフェじゃない!!エルフェじゃないんだ…!エルフェのせいじゃない…大丈夫だから…ね?

エルフェ

……アルタ…

アルタ

エルフェのせいじゃない!!だから……だから!!

エルフェ

聞けアルタ!!

びくりと、大きく肩を震わせる…その目には、今にも溢れそうなほどの涙が溜まっていた。ああ…本当にウザイ…こういうところが…本当に……

エルフェ

聞け……頼むから…聞いてくれ…

エルフェ

俺さ、消えたかったんだ。ずっと…どんなに頑張っても、どんなに強くなっても、俺を『エルフェ』として見てくれる人は、弟だけだった…ヘレネ様ですら、見てくれなかった…俺は、あの方にとっても『災厄の子』でしかなかったんだ…

アルタ

……

エルフェ

捕虜にされて、ようやく死ねるんだって思ったんだ

エルフェ

でも、違った…お前たちは、俺を殺してはくれなかった…でも、代わりに…俺を認めてくれた

アルタが、下げがちだった顔を上げる…その拍子に、涙がぽろりと落ちた。

アルタ

認めるよ…!だって、君は君じゃないか!!災厄の子と、君は違う…君は君だ…エルフェは『エルフェ』なんだよ!!

エルフェ

……アルタ。認めてくれたお前に、こんなこと頼むのは酷だと思う。でも、聞いてくれ

アルタ

嫌だ!!聞きたくない!!

首を左右に振り、必死に耳を塞いでいる…その顔は、もう涙でぐちゃぐちゃで…本当に情けない顔をしていた。あの時戦った、凛々しい指揮官の面持ちはどこにもない。
ウザい。今だって、すごくウザくて、お人好しで、くどくて……でも、俺を俺として見てくれた…きっと、最後の人だ。素直に、まっすぐ表現するなら……そう……1人の友として、俺はアルタを愛しているのだろう…。

そんな彼に、こんなことを頼むなんて、なんて恩知らずな行いだろうか……。

エルフェ

アルタ……ごめん………俺をーー

サタン

ちょおおおおおっと待ったあぁぁ!!!

この広い部屋全体に響く声…この声は……。

サタン

早まるなエルフェ!!まだ方法はある!!

アルタ

…サタン、様……

エルフェ

まだ……方法が……?

サタン

ああ……リスクはかなりでかいけどな!できればやりたくなかった!!

リスク…でも、リスクだけですむなら……

サタン

この方法をとれば、お前は確実に災厄の子になる未来から逃れることが出来る…だが、下手をしたら人格が破壊されかねない

アルタ

……それって……

サタン

ああ、そうだ

サタン

エルフェ・ハミニカを、強制的に魔族にする。方法はこれだけだ

   


俺はその話を二つ返事でOKした。死なずに済むなら…この守られた命を何らかの手でつなぐことが出来るのなら…それでいいと思った。ずいぶん変わってしまったと思う。それもこれも、全部あのお人好し魔族のせいだ。

アルタ

ねえ、エルフェ。これが成功するとね、君の人格は眠りにつくんだ

エルフェ

ああ、そうらしいな

アルタ

もしさ、眠りにつくだけなら…また目覚めることがあるってことだよね?

エルフェ

まあ…そうだろうな。残念ながら

アルタ

残念ながらって何さ!喜ばしいことに、の間違いだろ?

エルフェ

またお前のうるさい声を聞くことになると思うとな

アルタ

なんだよそれ!

口ではそういいつつ、アルタの顔には笑が浮かんでいる…

アルタ

ねえエルフェ。魔族の君はなんて呼んだらいいかな?

エルフェ

は?今までどおりエルフェのままでいいだろ

アルタ

だめだよ!だって、エルフェは君でしょ?それとは違う、魔族の人格が生まれるんだ…だから、違う名前で呼んであげなきゃ

エルフェ

なるほどな…好きに呼べよ。まさか俺から名乗るなんてことほとんどないだろうしよ

アルタ

…それって、僕が名付け親になっていいってこと?

エルフェ

……どうとでも解釈しろ

アルタ

………あははっ、素直じゃないなぁ、エルフェは…わかったよ。さいっこーにいい名前を付けてあげるよ!

アルタ

それで、次に目覚めた時に教えてあげるね

エルフェ

そうか。さして期待しないで目覚めなきゃな

アルタ

期待してよ!!

冷たいと思うだろうか。でも、これが俺のアルタへの対応だ。うざったい、言うなれば俺の監視役との…たった1人の友達との、最後の問答だ…かしこまる必要なんて、どこにもない。

アルタ

…ねえ、エルフェ…

エルフェ

なんだよ。さっきから話っぱなしで…疲れないのか?

アルタ

…疲れないよ。君と話して、疲れことなんてないよ

エルフェ

……物好きだな

アルタ

……エルフェ、次に目が覚めたらさ、もう一回戦わない?

エルフェ

…手合わせか?

アルタ

うん。あの時は、君が先に取り込まれちゃったから…

エルフェ

そっか…勝負はついてないってことか……いいぜ。やってやる

アルタ

……うん

エルフェ

嬉しくなさそうだな。言い出しっぺのくせに

アルタ

……嬉しいよ。嬉しいに決まってるだろ…

僅かに声が震える…まったく…何なんだ…お前ってやつは……本当に……

アルタ

約束だよ、エルフェ。絶対、絶対…約束だよ…

エルフェ

……ああ。約束だ

俺は、アルタの前髪をかきあげ、額に1度だけ口づけをした…呪われたこの身での祝福に、効能があるかはわからないが…それでも…

エルフェ

アルタ・キュリ…神の加護のもと、あなたに幸せな日々が訪れますように…

アルタ

……………

こいつ…せっかく祝福してやったのに……本当に…

エルフェ

……そろそろ時間だから…行くな

返事はない。俺はそのままアルタを追い越し、サタンの許に向かう……

アルタ

エルフェ!!

エルフェ

…なんだ

アルタ

お花…見に行こ、ね…?綺麗なとこ…いっぱい、いっぱい、あるから…!!

エルフェ

………ん

振り向かなかった。多分、すごく情けない顔をしてたから……






気がつくと、そこは薄暗いところだった。僅かな松明の明かりが、あたりをぼんやりと照らしている…

アルタ

あ…気がついた?

声のする方に体を傾ける…そうか…俺は今寝そべっていたのか…。

アルタ

ここは、魔界城の君の部屋だ…正確には、君の部屋になる場所かな?

そいつは妙なヤツだった。目元に包帯を幾重にも巻いていて、なのに、そこに何があるのかわかっているような振る舞いをしていた。今だって、ほとんど音を立てていない俺の方を、まっすぐ見ている。

お前……どうやって……?

アルタ

ああ、この目かい?僕、見えちゃいけないものが見るんだ。だから…こうして目を覆い隠しているのさ

ふうん……変なヤツ

アルタ

率直だね…

俺はゆっくり体を起こし、改めてそいつと向き合う…透き通るような銀髪の、儚げな印象の男だった。

アルタ

僕はアルタ…アルタ・キュリ。君の教育係だよ。よろしくね

俺の教育係…?何のことだ?

アルタ

……君は、たった今生まれたばかりのまだ幼い魔族なんだ。名前もない

言われてみれば……たしかに、自分の名前もそうだが、今まで何をしていたのかもさっぱり思い出せない…いや、生まれたばかりなら、何も思い出せなくて当然なのだが…。

アルタ

君の名前はルフェ。ルフェ・カルシアだ

ルフェ

……ルフェ……

ルフェ…それが、たった今与えられた俺の名前…うん。なんだかしっくりくる気がする。ずっと前から、そう呼ばれていたような…。

アルタ

気に入ったかい?

ルフェ

ああ、すごくしっくりくる。お前センスあるんだな

アルタ

褒めても何も出ないよ

ルフェ

へへっ…これからよろしくな、アルタ

アルタ

うん………よろしく。ルフェ

アルタの声は、少し震えている気がした。でも、きっと気のせいだろう。まだ聴覚もはっきりしてないから、そう聞こえただけだろう…俺は、真っ赤な髪と、それに溶け込むような真っ赤な水晶の翼を揺らし、アルタに微笑みかけたーー。





『災厄の紅玉翼』   fin

あとがき

ルシフェル

いやー、ひどいネタバレがありましたがね!セブすと本編はもう自己完結しちゃってるしいいかなーって思いまして!

るりいろ

時間かけすぎです

ルシフェル

ほんとそれな…申し訳ないです…

るりいろ

ルフェ本人すらも知らない衝撃の事実ですよ。先に外に出してしまってどうするんです

ルシフェル

しゃーなしやな。まあ、彼もいろいろ感づいているみたいだし?万事OKかな??

るりいろ

最近チラチラエルフェ成分が見え隠れしてますからね…このまま何もなく終わればいいですが…

ルシフェル

まーなんかあったらその時はその時だな

るりいろ

楽観家ですねぇ……本当に…

ルシフェル

物語の補足をするなら…アルタが「見えちゃいけないものが見える」って言ったやつ。アレはルフェの姿のことですね

るりいろ

魔族や天使が死者の魂が見えるってのは普通ですからね

ルシフェル

ルフェの姿ってのは…エルフェが災厄の子になった時の姿なんですよね…

るりいろ

魔族転生後ものすごく焦ったみたいですからね…失敗したって…

※立ち絵の関係で姿変わってないように見えますが、変わってる体で見てください。

ルシフェル

まあ…結局成功だったわけですがね…アルタにとってルフェの姿ってトラウマレベルで見たくないものなんですよね…こうなっちゃった未来を想像しちゃうらしくて…

るりいろ

言霊って怖いですよね

ルシフェル

やめろるりるり洒落にならんわ

るりいろ

おや失礼

ルシフェル

んじゃー、今回はここまでですかね

るりいろ

そうですね。お開きにしましょうか

ルシフェル

そんじゃ皆様方ー、閲覧お疲れ様でしたー

るりいろ

また会いましょう、次はできれば動画で…

ルシフェル

さりげに急かすなよ

pagetop