大草原を馬で旅して分かったこと

5 船の上で過ごす時間

モカ

ゆえゆえー!しるしるー!
夕飯食べに行こ~!!

しるこ

え?
あっ!はい!

慌てて起き上がった。






もうそんな時間?

…すっかり寝てた。。。





私達の船室は六畳くらいの小さな空間に
二段ベッドが2つと小さな窓と
テレビがあるだけの簡素な部屋だった。


正直狭いけど、ギリギリ丁度いい感じ。
旅してる感はばっちり(笑)





ベッドの上の段からゆえじが降りてきた。

ゆえじ

あ~!よく寝たー!

モカ

なによ二人とも、
初日からお疲れモード?(笑)

ゆえじ

う~ん、私、昨日東京から
夜行列車で来たから…
正直ちゃんと休めてない感じかな

しるこ

夜行列車!?
攻めてるね!(笑)

ゆえじ

うん、節約節約、
青春18きっぷサマサマ!

モカ

しるこは?

しるこ

私は…
昨日大阪の友達の家に泊まって、
遅くまで語りまくってたからかなぁ

小さい頃よく遊んでた幼馴染のみーちゃん。


家の都合で大阪に引っ越しちゃってから
なかなか会えてなかったけど。


昨日、数年ぶりの再会だったのに
いざ顔を合わせると全然久しぶりっていう
感じがしなくて。ずっと毎日会ってたみたいにごく自然に一緒に過ごせた。

お互いの近況とかいろいろ話してたら
あっという間に時間が過ぎてて…。


楽しかったなぁ。また近々会いたい。

しるこ

…あ、それもあるけど、直接の
原因はあの中国語講座かな(笑)

ゆえじ

それだ!(笑)
先生の声小さくて
全然聞こえなかったしね~

食堂での全体ミーティングと
班別の自己紹介の後、
そのまま簡単な中国語講座があった。



私は日本人です。

●●はどこですか?

△△が欲しいです。



現地で役に立つであろう簡単な
中国語のフレーズを教えてくれた。

でも、もともと大学で中国語とってる
私やゆえじからしたら、知ってること
ばかりで新鮮味がなかったんだろうね。

先生のか細い声が
子守唄みたいに聞こえてきて…

しるこ

無理!
眠い!
寝てくる!

講座が終わったらゆえじと二人して即、
部屋に直行して昼寝してた。





ちょっと仮眠するつもりだったんだけど、
まさか夕飯の時間まで寝てたとは…







本当だ。
部屋の小さな窓からオレンジ色の西日が
差し込んできてる。

行こ!というモカに促されて
私達三人は食堂に向かって歩き出した。

しるこ

モカはあの後何してたの?

モカ

甲板にいたよ~!みんなで自己紹介がてらいろいろ話して、あとは写真撮ったり、ラジオ体操したりしてた(笑)

しるこ

ラジオ体操!?
なんかいいね!

モカ

うん、すごい気持ち良かったよ~!
潮風受けながらさ!
も~開放感バツグン!
明日一緒にやろうよ

しるこ

やるやるー!

今日、大阪を出港して、
上海に着くのは明後日の朝。

明日は丸1日ずっと船の上で過ごす。
何するんだろうなぁ。





とりあえずは、ラジオ体操か(笑)

ニュー鑑真号の食堂は、
大学の学食みたいなシステムだった。

ガラス越しのカウンターに、
野菜炒めやら魚を煮たのやらいろんなおかずが
並んでて、好きなのをよそってもらう。

お味の方は…

しるこ

まずくはないけど、
おいしくもない、ね(笑)

モカ

…全体的に馴染みがないというか、
日本の味と違う感じ

しるこ

慣れれば美味しく
感じるのかなぁ(笑)

ゆえじ

かもね。
私、北京行く時は
醤油持って行くわ

ゆえじはもうすぐ
北京へ1年留学に行くんだって。


留学かぁ…なんかすごいよな。
私はそんなの考えたこともなかったよ。



将来の目標とかどうやって考えたんだろう。



どうして留学しようと決めたのか、とか
時間ある時ゆえじにちゃんと聞いてみたい。






私はやりたいことが何もないから。






なんだかんだ忙しい日常生活を離れて、
ゆっくり考えてみたい。


そう思ってこのキャラバンに
参加してみたんだ。



この旅に参加してるみんなの価値観に
触れてみることも、きっと大切なはずだ。

けんた

お、どう?ここの飯

おかず山盛りのプレートを持った健太が
話しかけてきた。

後ろには天谷とはちるもいた。

モカ

うーん、正直微妙!

あまや

えっ、そうなの…

はちる

……

けんた

ははは、やっぱりここの味は
変わってないんだな。

中国の飯は断然美味いから安心しな。

ゆえじ

そうなんだ、良かった~(笑)

あまや

健太、あっち席空いてるよ

けんた

おう。

…じゃあまた後でな、
20時にラウンジ集合で

モカ

りょうかーい♪

夜はキャラバン参加者みんなで集まって
懇親会しようって。健太の呼びかけで。

はちる

……

しるこ


はちると目が合ったので、

しるこ

また後でね~

という気持ちを込めて
ひらひらと軽く手を降った。

はちる

はちる

……

すぐに目をそらして
そのまま行ってしまった。

しるこ

ちょっ…
なんかリアクション
ちょうだいよ!(笑)


まぁ、あれがはちるクオリティだから
しょうがないかな…。







でもちゃんと一緒に
ご飯食べる人がいて安心した。


…きっと健太が呼びかけてくれたんだろう。


はちるは無愛想で控えめなタイプだから、
他のツアー参加者とうまくやっていけるのか
心配だったけど。


健太と天谷がいてくれたら大丈夫そうだな。




良かった。

夜20時。




モカ、ゆえじと三人でラウンジに
行ってみると15人くらいが集まって
大きな輪っかを作ってた。

しるこ

・・・・・・

ぐるっと見渡してみたけど…
はちるの姿は見当たらなかった。

モカ

あれ~?
はちる来てないのかぁ〜

しるこ

…えっ!?

モカ

…って思ってたでしょ、今

しるこ

…え…

図星なんだけど…






モカはイタズラっぽい顔して
ニヤニヤ笑いながら
私の顔をのぞき込んでくる。



な…なんで分かったんだろう?
そーいう顔してた?私…



急に恥ずかしくなってきて
サッと視線を逸らした。

しるこ

お…思ってないよ!

とっさに否定してみたけど、
きっと無駄な抵抗なんだろうな。



でも認めるのはなんか嫌だった。


だって私がいつもはちるのこと
考えてるみたいになっちゃうじゃん!



本当は全然違うのに…

モカ

ふーん、まぁいっか!
あっちの方空いてるから座ろ!

しるこ

う…うん

続々と参加者が集まってくる。

ラウンジのソファーに座りきれない人たちは
そのまま地べたに座って、輪っかが少しずつ
大きくなっていった。

ねぇ、ちょっとこれ見て

・・・・

どれ?

・・・・

みんなそれぞれ、最初にターミナルで
集合してた時と比べて、今はもうずいぶんと
お互い打ち溶けてきている感じがする。



まだまだ話したことない人達ばかりだけど、
そんなみんなで作る輪っかは
決して居心地悪いものではなかった。

けんた

思ってたより
沢山来てくれて嬉しいなぁ

30人くらいになったところで、
健太が立ち上がって大きな声で話し始めた。

けんた

じゃあ、まぁ、
ぼちぼちはじめよっか

みんな初対面だと思うから
改めて自己紹介しようぜ

いえーい!

待ってました!


ひゅーひゅー!という声が聞こえてきたり、
拍手で歓迎しつつ、場が一気に盛り上がった。


こういう一体感、好きだ。

けんた

トップバッターは、
モカ!行け!

モカ

えー!?あたし!?

けんた

大役だぞ~!
お前が何話すかでこの後の
場の流れが決まるからな(笑)

モカ

ちょっと、無駄に
プレッシャーかけるの
やめてくれる?(笑)

ゆえじ

あははは!

しるこ

がんばれ~!

モカから始まった自己紹介は
順調に進んでいった。



ゆっきー、かじ、いく、まい、とみー、
おくちゃん、しげ、よのすけ・・・・・



うーん、みんなの名前ちゃんと
覚えていられるかなぁ~…

けんた

じゃあ次は俺な、
もう何回も言ってる気がするけど、
斎藤健太、大阪出身です!

ゆえじ

えっ、健太って大阪なんだ?
全然関西弁出ないね

けんた

うん、俺、大学から東京だからさ、
なんか標準語に慣れちゃって。

地元帰った時くらいしか
関西弁はもう出ないなぁ~

ゆえじ

へぇ~、そうなんだ!
私の周りの関西人はみんな
コテコテの関西弁だけど

けんた

まぁ、普通はそっちだろうな

なんか面白いことやってよー!

いいね!ひゅー!!

誰もが楽しそうに健太を囃し立てた。

あまや

あはは!

しるこ

健太
なんかやってー!!

けんた

お前らな~!
大阪人がみんなネタ持ってるとか
思うのやめろよな、偏見だぞそれ!

めんどくさそうに言ったかと思うと…

けんた

じゃあここで
モノマネを一つ・・・

ゆえじ

あはははっ!

どっとみんなが笑う。

しるこ

結局ネタやるんじゃん!

けんた

クイズ形式でいくか、
みんな俺が何のマネしてるか
当ててな!

・・・そうそう、早押しで!

健太ってノリ良くて面白いな。

初対面の人達ばっかりだったけど、
一緒に話して、笑って、
船に乗る前と比べたらぐっと距離が
縮まった気がする。





キャラバンツアー初日の夜。










楽しい時間はあっという間に過ぎていった。

5 船の上で過ごす時間

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