手紙を書いた―――




憧れのあの人に




自分の気持ちを少しでも

知ってもらいたくて―――



















便箋を買うのに一週間も悩んでしまった


それだけ、時間をかけたのに

結局、最後は色や柄の無い普通の便箋を選んだ








彼女の好みなんてわからなかった


話したこともなければ


まともに近づいたことすらなかったから








この便箋の白さは――





僕の空白なんだ







何も知らないから色をつけることができなかった








彼女との空白








それでも、その空白に想いを綴った






ただ、知って欲しかった








僕は彼女を好きになったことを




モブキャラクターの憂鬱
その③

石塚賢治

あいつら来ねえな……

柴野一樹

捕まえたら2-C前で待ってるって
言ってたんだが

石塚賢治

早くしねーと
昼休み終わっちまうぜ?

柴野一樹

こりゃぁ、捕まえるのに手間取ってるな

柴野一樹

連絡の取りようもねぇし
どうする?

石塚賢治

まぁ、待つしかねぇだろ

神崎美桜

はぁ

石塚賢治

げっ

神崎美桜

げって何よ……
ていうか、どこ行ってたの!?
一緒に
お昼食べるって言ってたでしょ?

柴野一樹

お前ら……
いつのまに

神崎美桜

春奈と仲良くなるために仕方なくよ!
変な誤解しないで!

石塚賢治

その言い方じゃ
誤解されても仕方ないと
思うぜ?

神崎美桜

黙れ!

石塚賢治

へいへい

柴野一樹

冗談だけどな

神崎美桜

アンタらねぇ……

いい加減諦めろ!!!

石田弘大

登ったり降りたりで
疲れるからやめて!!

檜山千秋

向こうもへばってきてるみたいだよ

ど、どいてくれぇ!!!!!

柴野一樹

おい!アイツ!

石塚賢治

えっ!?

石田弘大

一樹!!ソイツ止めてぇ!!

あぁ!くそ!待ち伏せかよ!!!

って!!あれは!!

神崎美桜

な、なに!?

か、神崎さん

柴野一樹

お前知り合いなのか?

神崎美桜

だ、だれ?

っ……

くっ……

石塚賢治

おい!捕まえろよ!

柴野一樹

いや、アイツ

柴野一樹

……泣いてたのか?

石田弘大

ほらほら!!君たちも走った走ったぁ!

柴野一樹

お、おう

神崎美桜

ちょ、ちょっと!

神崎美桜

いっちゃった……

も、もう……
動けない……

石田弘大

さぁ!観念しやがれぇ!

檜山千秋

石塚、アイツだけど

石塚賢治

いや、知らねぇ

ちっ……

なんだよ!お前ら!!
どうして、僕についてくるんだよ!!

檜山千秋

君、石塚に用があったんだろ?

別に……

檜山千秋

俺には用があったように見えたけど

そう見えただけだろ!
俺は別に用事なんてなかったし!!
仮にあったとしても!
それが僕を追う理由になるのか?

柴野一樹

まぁ、大した理由にはならねーな

柴野一樹

だがよ
檜山が話しかけた時
なんで、逃げた?

それは……

檜山千秋

逃げられたら気になっちゃうよね

……

はぁ……

神崎さんと一緒にいるのが
気に入らなかった
だから、忠告し行った……
それだけだよ……

檜山千秋

そうか

檜山千秋

くだらない、用事だな

檜山千秋

現実世界の石塚の知り合いか、
召喚魔術と関わりのある人間かと
思ったが……
両方、ハズレだったようだな

柴野一樹

なるほど、嫉妬って奴か

なに、笑ってんだよ!

柴野一樹

笑ってねーよ

石塚賢治

お前

なんだよ!

石塚賢治

好きなのか?神崎のこと

……あぁ

ずっと……
好きだった……

石塚賢治

そうか

石塚賢治

わりぃ
俺、めちゃくちゃ邪魔だったか

そうだよ!!目障りだ!

石塚賢治

あぁ、目障りなら
俺よりも藤宮の方が

……アイツは

僕の力じゃどうしようもできないから

石塚賢治

……?

アイツに近づこうとしても
どういうわけか上手くいかないんだよ
毎回……

だから……
諦めた……

石田弘大

まぁ、主人公だしねぇ……

石田弘大

可哀想だけど
モブ君には敵わない相手だよ

石塚賢治

そうか……

石塚賢治

けど、安心しろ
俺は神崎のコト
狙ってるわけじゃねーし
アイツも俺のこと全然
興味ねーから

石塚賢治

俺のことは気にしないで
がんばれよ

石田弘大

うんうん

がんばれ……

もう……がんばったよ
十分……

石塚賢治

え?

だけど……ダメだった

フラれたんだよ
あっさり……

石塚賢治

お前……もしかして

石塚賢治

ラブレターの……

なんで……
お前が知ってるんだよ……

別にどうでもいいけどさ……

神崎さん……
僕のコト忘れてたし

……

石田弘大

あ!!そうか!この人!!
ラブレター渡して振られちゃう
モブキャラクターだったんだ!!

石田弘大

どうりで、思い出せないわけだ

柴野一樹

あ?

石田弘大

いや、なんでもない

石塚賢治

もう、諦めるのか?

答えられなかったんだよ……
どこが好きかって聞かれて

情けないな……
容姿以外でどこに惚れたのか聞かれてね……

何も言えなかったんだ……

きっと、悲しかったのは
フラれた僕じゃなくて神崎さんの方なんだと思う……

最悪だよ……本当に

石塚賢治

……

石塚賢治

まぁ、
普通はルックスから入るよなぁ

は?

石田弘大

うんうん!
やっぱり、可愛い子だと
凄く気になっちゃうよね!

なんて野郎だ……

柴野一樹

きっかけなんて
大体そんなもんだろ

……

檜山千秋

……

石田弘大

まぁ、アレかな
告白するの早すぎたんじゃない?

仕方ないだろ!!
向こうは学園で一番人気の人なんだぞ!
近づきたくても
近づけなかったんだよ!

柴野一樹

確かに
取り巻きとか多いよなアイツ

手紙だって……
ちゃんと読んでもらえるか心配だったし……

手紙に書いた待ち合わせ場所に
彼女が来た時……
それだけで、奇跡だと思ったよ

……嬉しかったよ
こんな僕の手紙を読んで来てくれたんだから

石塚賢治

単なる少年Aが
主要ヒロインと
仲良くなんかなれるはず
ないよな……

石塚賢治

ラブレターを渡せたのも
奇跡なんかじゃない

石塚賢治

神崎がモテるっていう設定を引き立てるために
用意された残酷なシナリオだったんだ

はぁ

石塚、悪かったね

石塚賢治

え?

まだ、謝ってなかったからさ

君達の仲が良いっていうのは
僕の誤解だったんだね

石塚賢治

いや、謝るつうか
お前は俺になにもしてないし

ううん、僕は君に嫉妬していた
羨ましかったんだよ
神崎さんと一緒にいるのが……
あの、藤宮を差し置いて

正直なところ……
邪魔だし消えてほしいくらいに思ってた
だから……

本当にすまない……

石塚賢治

あぁもう!気にすんな!
俺らこそ追いかけ回して悪かったな

はぁ

なんか、すっきりしたよ
色々、溜まってたもの吐き出せてさ

それにさ……

石塚賢治

ん?

いや、なんでもない

きっかけか

あの時から
ずっと考えてた
何を言えば正解だったのか

初めから正解なんて
なかったんだな

だって、僕は……
綺麗な神崎さんを見て
その時、恋をしたんだから

柴野一樹

やべ、チャイムなっちまった

石塚賢治

あ、そうだ
お前、名前教えてくれよ

え、僕の?

石田弘大

君以外に誰がいんのよ

柴野一樹

早くしろよ

僕の名前は――

浦橋誠人

うらはし、まこと

石塚賢治

お、そっか!
よろしくな!浦橋!

浦橋誠人

あぁ

石田弘大

んじゃ、まこっち!
早く教室もどろうぜぇ

浦橋誠人

ま、まこっち?
それ、僕のこと?

つづく

モブキャラクターの憂鬱 その③

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