なぁ壮太ぁ

壮太

椿?
いたの?

いや、さっきから二人だけだったろ

とある学校のパソコン室
たった二人のパソコン部が活動をしていた

椿

相談があるんだけど

壮太

何?

モテたい

壮太

気のせい

……

パソコン室に静寂が訪れる
椿は恨めしさと呆れが混ざったような目で壮太を見つめる

椿

なぁ

壮太

椿じゃないか
いたのか?

椿

そっからやり直しかよ

壮太

で?相談って何?

椿

モテたいんだよ
どうすればいいと思う?

壮太は目の前のパソコンを指さした

壮太

ググれ

椿

女の子をイチコロにするような笑顔でくそみたいなこと言うなよ!

椿はパソコン室に響き渡るような声で叫んだ
むなしく響いた声は壮太の心に届かずに消えた

壮太

モテたいだなんて……
そんな単純なことを聞かれても……

椿

なんかいい方法あるのか?

壮太

笑顔で優しくすればいいと思うよ

椿

でたよ
顔で得してるタイプの人間が言うことだそれ

椿は椅子に背中を預けのけぞり大きなため息をついた

壮太

でもさ椿。
なんでそんなにモテたいの?

壮太はディスプレイから目を上げ訊ねた
椿はのけぞった上体を素早く起こして叫んだ

椿

だってさ、可愛い女の子とあんなことやこんなことできるんだぞ?

壮太

そのためのコストを考えたことがある?

椿

コスト?

壮太

デートの代金にそれに割く時間。
相手にもよるけど、毎日連絡を取ったり……
それを積み上げて得るものとして、椿の言うあんなことやこんなことは釣り合うの?

椿

それは……

壮太の思いのほか真面目な指摘に椿は口ごもる

壮太

そこまでの覚悟を考えてないって言うなら、モテないのも当然だよね

壮太は椿の後ろからささやくように言葉をかけた
椿はその場に突っ伏してしまった

下校時間を告げるチャイムが鳴る
壮太はカバンを持って帰宅の準備をした

壮太

ほら、椿
帰るよ

椿

俺……モテなくてもいいかもしれない

壮太

僕としてはたった二人のパソコン部から一人いなくなるのは寂しいし、それの方がありがたいかな

椿

どっか寄り道して帰るか

壮太

そうだね

二人は戸締りをしながら他愛ない会話をつづける。

ここはたった二人のパソコン部……

互いにとってかけがえのないものがある
互いにとってかけがえのない場所

たった二人のパソコン部

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