猫の世界に人間になりたかった猫がいました。

　猫は、長老猫様に人間になる方法を聞きました。

　すると、一つだけ方法があると長老猫様が言います。

　それは、十回人を結びつけること。

　それを聞き、猫は急いで困っている人を見つけ、その人の飼い猫になり、一生懸命飼い主様のいいお相手を見つけて結びつけました。

　結びつけた後は、飼い主様からそっと去っていきます。

　努力の甲斐あってか、猫は九人の飼い主様を結びつけることに成功しました。

　猫は張り切って、困っている人を探しました。

　すると、猫は言い争いをしている男女を見つけます。

　女性はそのまま怒って去っていき、男の人は困った様に立ち尽くしています。

　猫は男性の前へと行き、

と、鳴いてみせました。

　　男性は猫に気づくと、寂しそうな顔をして言いました。

　猫もまた、悲しそうな顔をして、男性を見つめます。

　男性は猫を抱えると、赤子のように優しく揺らしながら尋ねました。

　猫にとって、これはまたとないチャンスです。

　猫は、元気良く返事をしました。

　猫は初めての男性の飼い主、そして何より、その男性の優しさに徐々になつきとは違う感情を覚えていきました。ですが、男性から出るのはどうしても喧嘩をしていた彼女の話ばかり。猫はモヤモヤが晴れません。

　男性が、彼女に恋をした心情を猫に伝えました。
　その心情はなんと、今の猫の心情と同じです。
　猫はやっと気づきました。

　これは恋なのだと。

　ある日、男性は猫を連れて彼女と会うことになりました。

　猫を椅子の上に乗せると、男性は部屋から出て行きました。

　その時、男性と入れ違いになるように彼女が入って来ると、不貞腐れた顔をしながら、携帯電話で話をしていました。

　猫は、彼女の心情を聞いてしまい悲しくなりました。

　けれど、猫の一番の夢は人間になること。

　猫は彼女の携帯をしまおうする手首に向かい体当たりし、彼女が驚いて落とした携帯を奪い、前足を上手く使いメール文章を打ちました。

　動物が苦手な彼女は、急いでしっしと猫を追い払います。

　彼女は慌ててメール画面を見ると、
「怒ってごめん。素直になれないけど、本当は大好きだよ」
と彼に送られていました。

　彼女は送信済みのメール文を見て、顔を真っ赤にして驚いています。

　その時、メールを見た男性が急いで彼女の元へとやって来ました。慌てて訂正しようとする彼女を抱きしめ、男性は言いました。

　猫は人間の姿になりました。

(了)