よぉ、

気だるげな声を出しながら入ってきたのは、とても教師には見えない男だ。
因みに、私の先輩であり、同僚であり、あとは、なんだろう。

随分しけた面してんな。朝メシ食ったか?

その言い方やめてください。それだから椚先生はカタギに見えないとか言われるんですよ

お前に言われたかないね、樹センセ

言いながら、彼は机の上に置かれたプリントを手にする。
書かれているのは今月の予定と、それから、。

……は、

彼の、この笑い方がすきだ。
瞳を眇め、息を吐くように漏れる、その声がすきだ。
もちろん本人にはそんなこと知られないようにしているけれど。
賢くて敏い彼のことだ。
とっくにお見通しだろう。

何か?

いいや

プリントには、そんなに変なことは書かれていなかったように記憶している。
今日の日付と、今月開催される予定の文化祭の諸注意と、今月誕生日を迎える教師の紹介くらいだろう。

あ、……

彼が気付いたことに気付いてしまい、頬を赤らめてしまう。
それを見られてしまい、彼がにやにやと笑みを浮かべる。
彼の、そういう表情はすこし苦手だ。
何でも知っている、と言うような、ズルい男の表情だ。

ミ、ミーティングしますよっ

はいはい

はい、は一回です

はいよ

プリントで顔を隠し、少しでも見られないようにする。
できるだけ平静な声を出そうとするけれど、その努力は無駄に終わる。
彼が、プリントを取り上げ、顔を寄せてきたから、だ。

今夜、あけとけよ

彼は、私の先輩であり、同僚であり、そして、とてもズルい男、だ。

【Fin.】

【ずるいひと】

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