いつだか忘れたが、僕はおじいちゃんとおばあちゃんと3人で暮らしていました。正直、貧しかったけれども、とても明るい家庭でした。
ある寒い雪の日、僕は街へお茶を買いに出かけた帰り、雪の中に何かが動いているのを見つけました。
いつだか忘れたが、僕はおじいちゃんとおばあちゃんと3人で暮らしていました。正直、貧しかったけれども、とても明るい家庭でした。
ある寒い雪の日、僕は街へお茶を買いに出かけた帰り、雪の中に何かが動いているのを見つけました。
あれは何だろう。
僕は罠にかかっている一羽のカラスをみつけました。
動けば動くほど罠はカラスを締めつけます。僕は見ていて辛くなりました。
じっとしててね。動くともっと傷ついちゃうよ。今助けてあげるから少し我慢して。
カラスを助けてやると、カラスは山の方に飛んでいきました。
家に帰ると、僕はその話をおばあちゃんにしました。
今日罠にかかっていたカラスを助けたんだけど、大丈夫かなあ。
すると入口をたたく音がしました。
だれでしょう。
とおばあちゃんは扉をあけました。
美しい娘さんがそこに立っていました。
夜分すみません。友達を尋ねてこの街に来たのですが、雪が激しくて道に迷ってしまいました。どうか一晩ここに泊めてもらえないでしょうか。
まあこの辺にはここ以外家がありませんからねえ。それに今夜は特に冷える。さあ入んなさい。ごらんの通り貧しくて十分な布団はありませんがよかったら泊まっていって下さい。
娘さんはこの言葉に喜び、そこに泊まることにしました。正直、こんなきれいな人が一晩家に泊まるということにドキドキしていましたが、なんとか悟られないように心を落ち着かせました。
次の日も、また次の日も雪は降り続き家から一歩も出れないほど積り、数日が過ぎました。
娘さんは心優しく僕達ののために炊事、洗濯、何でもやりました。寝る前にはおじいちゃん、おばあちゃんの肩をやさしく揉んであげました。
二人は、わが子のように思っていました。僕も姉ができたような不思議な気持ちになりました。
そして、ある晩のことです。娘はこう言いました。
私を子どもにして下さい。
二人は喜んでためらいもなく
いいよ
”鶴の恩返し”かよ!!!!
僕は思わずツッコんでしまいましたが、おじいちゃん・おばあちゃんが良いと言っているし、僕自身もこんなきれいな人が家族になるなら嬉しいと思っていたので反対はしませんでした。
ある日、娘はこう言いました。
私は綺麗な布をおりたいと思います。糸を買ってきてくれませんか。あ、出来れば黒色の。
おじいちゃんはさっそく糸をアマ○ンで買いました。その3日後に届くとさっそく作業を始めるました。
そして娘さんはこう言いました。
これから、機をおります。機をおっている間は、決して部屋をのぞかないでください。決して、決してのぞかないでください。
わかりましたよ。決してのぞきません。素晴らしい布をおってください。
部屋に閉じこもると一日じゅう機をおり始めました。夜になっても出て来ません。次の日も次の日も機をおり続けました。おじいちゃんとおばあちゃんと僕は機の音を聞いていました。
三日目の夜、音が止むと一巻きの布を持って娘は出てきました。
おとうさん、おかあさん。これを見てください。できました。
それは実に美しい、真っ黒で周りの光や色を吸い取ってしまうかのような…いままで見たことのない織物でした。
何と美しい織物でしょう。こんな素晴らしい織物を見るのは初めてです。
とおばあちゃん。
これはカラスの織物と言うものです。どうかすぐにでもネットで売ってください。そしてもっと糸を買ってください。
おじいちゃんは早速ネットに売りました。
”カラスの織物”……っと。これでよし。
商品情報を入力し終わり、決定のところにマウスを持っていきクリックすると、すぐに高いお金で売れたので、おじいさんは娘の言うとおりに糸と他の物を買いました。そしてうれしく家に帰りました。
次の日、娘はまた織物をおりはじめました。三日が過ぎたとき、おばあちゃんはおじいちゃんに言いました。
すばらしい織物をどうやっておるんじゃろ。ちっとのぞいてみたい。
そんなことするもんじゃない。決してのぞいてはいけないと言っていた。
でもおばあさんはおじいさんの言うことには耳を傾けませんでした。
ちょっとだけ。ほんのちょっとだけですよ。
僕も「決して覗いてはいけない」と言われて気になっていましたが今はとてつもなく眠くて眠くて仕方がなかったので、そのまま目を瞑りました。
…………
…ふああああぁ。あれ、まだ暗いな。もう少し寝ようか…ん?
僕は娘がいた部屋に二人の影を見つけました。
おじいちゃんとおばあちゃん、結局中まで入ったのか。やれやれ。
僕だけ仲間はずれなのも嫌だったので、その部屋のふすまを開けてみました。
…え?
そこには、
おじいちゃんと
おばあちゃんが
首を吊っていました。
うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
僕はあまりに現実離れした現状に対して思わず大声で叫んでいました。
すぐにおじいちゃんとおばあちゃんを下ろしてあげました。
しかし、二人の息はとうに途絶えていました。
僕はしばらく放心状態になりました。
な……んで…
二人の首には見覚えのある織物が巻き付いていました。
高値で売れた、あの真っ黒な織物が。
そんな、まさか
すると、背後に気配を感じ振り向くと、娘が立っていました。
…
僕の全身がぶるぶると震えだしました。
なぜなら、娘は右手に真っ黒の織物を持ち、左手には見たことがないほどおぞましく禍々しい凶器らしきものを持っていたからです。
…
あ…あぅ…
娘に圧倒されて僕は言葉すら出てきませんでした。
すると向こうからこう言ってきました。
私は…許さない…
え…?
私は!
お前が仕掛けた罠にかかって死んでしまった仲間の仇を取る為にここへ来たのだ!!
お前が何と言おうと無駄だぞ。私はしっかりとこの目でみたからな。楽に殺されると思わないことだ!!
ちょ、ちょっと待って!!一体何のこと!?…
僕は娘に足を切断され、
次に腕を切断、
次に上半身と下半身を分けられて、
あと数十回刺されました。
最後は首を絞められたと思います。
上記のどのタイミングだったかはわかりませんが、僕は走馬燈を見ました。
…よし、完成!
僕の一族は代々狩猟をして生計を立てていました。
でも、最近はやたら動物を保護する社会になってきたため、僕らは酷いバッシングを受けました。動物を大事にしろ!…と。数年前から僕の家の周りには人がいなくなりました。どこかへ引っ越してしまったのだと思います。
僕は幼い頃から狩猟しかやってこなかったため、世間というものがまるで分からなかったのです。死んでしまった父も、おじいちゃんも、ひいおじいちゃんも…
兄弟はいないし、周りの人からは酷いバッシングを受けていた僕には友達すらいません。
唯一の楽しみは、家の周りに罠をはって、引っかかった動物を殺して解剖することでした。
僕は他の遊びを知りません。
でもある日、罠に引っかかったカラスを僕は殺さず逃がしました。
そのカラスは殺すにはモッタイナイくらい綺麗な黒色だったのです。
この雪が降りしきる銀世界に、1つの吸い込まれそうな黒点という風景に胸を打たれたのです。
僕はそれをずっと見ていたいと思いました。
そういえば、カラスの頭が少し切れて血がでていたような…
僕とおじいちゃん、おばあちゃんを殺した綺麗なカラスは、空に舞い上がると家の上を回って、山の方に飛んで行ってしまいました。