人肌恋し

























人里より遠く離れた名も無き山。







人に踏み荒らされていない。







そこには一匹の狸が住んでいた。





たぬき

うぅ……。さみぃ……。

たぬき

今年は格段にさみぃべ……。
全然餌が見つかんねぇ。









餌を探し雪上をうろつく狸。





しかし、一向に餌は見つからない。













それもそのはず。




本来、豪雪地帯ではないこの山に




今年は記録的な降雪があったのだ。













冬眠の習慣がなかったこの山の住民は




みな、蓄えの必要性を




後悔するだけであった。









たぬき

誰かいねぇかなぁ……。
寄り添って温まりてぇ。

たぬき

うさぎのヤツは、こんな日でも元気に遊びに行っちまってるしなぁ……。

たぬき

……。
うさぎかぁ……。








うさぎ

山を降りたところにいる人間ってやつは
私たちを毛嫌いし、時には取って食おうとする。

うさぎ

人間にだけは気を許してはいけない。







たぬき

うさぎはあんなこと言ってたけんど……。

たぬき

んもう、人間でもいいから、この山に入ってきてくんねーかな……。












震える狸の歯がかち合う。














たぬき

カチカチカチカチ……


























pagetop