小学校の頃、私は雨に濡れるのが好きだった。

雨に当たる僕、ちょうかっけえ……

季節は梅雨入り少し前。
その日も雨に当たりながら一人で下校をしていた。

折り畳み傘は持っていたが、ランドセルに入れっぱなしにしていた。

大丈夫?

自分に酔いしれながら歩いていると、後ろから女の人の声がした。

ん?

振り返ると高校生くらいのお姉さんがいた。

傘はもちろんさしていた。

傘さしてないけど大丈夫?

心配そうに話しかけてくるお姉さん。

考えてみれば、雨に濡れて一人で歩く小学生の図はなんとも寂しそうに見えるだろう。

うん

傘は持ってるよ、ランドセルに入ってる

……そうなんだ

傘を持っているのにささずにずぶぬれで歩く小学生は不思議に写ったことだと思う。

お姉さん高校生?

そうだよ

僕、○○。お姉さんは?

私は××

適当な自己紹介をお互いにすると、お姉さんは不思議そうに聞いてきた。

なんで傘さしてないの?

雨好きなんだ

そうなんだ

でも風邪ひくと大変だよ

バカだから大丈夫。バカは風邪ひかないから

…………

その後、適当な話をしながら二人で歩いた。

分かれ道に差し掛かり、お姉さんが声をかけた。

それじゃあ気をつけてね

うん!じゃあねお姉さん!

1ヶ月ほどたったある日。

あ、傘のお姉さんだ

前に会った道と同じ道で、前を歩くお姉さんを見つけた。

お姉さん!

あ、久しぶり

私のことを覚えていたようで笑顔を返してくれた。

この辺に住んでるの?

うん、そうだよ

君もこの辺?

ううん。僕の家はちょっと離れたところ

そうだったんだ。大変じゃない?

全然。慣れちゃったし

そうなんだ

何気ない世間話をしながら歩く。

偶然とはいえ二度も会えたことに私は少し興奮していた。

そして前に別れた道と同じ道でまた別れる。

それじゃあねお姉さん。また会おうね!

そうだね。気をつけてね

約束でもない約束を交わし、僕達は別れた。

それから何度か同じ道でお姉さんを探してみたがなかなか会うことはできなかった。

……いないか

約1年後、その日はお姉さんと初めて会った時のように雨が降っていた。

学年が一つ上がった私は、きちんと傘をさして帰路についていた。

あっ……

…………

反対側の歩道に歩いている傘のお姉さんを見つけた。

名前も忘れかけていて、顔もおぼろげになっていたがすぐにわかった。

お姉さーん!

道路を挟んでいるので手を大きく振りながら大声で呼びかけた。

あっ……

お姉さんはこちらに気付き、手を振り返してくれた。

……

離れているため、声はよく聞こえなかったが、傘を指さしながらなにか言っていた。

今日はちゃんとさしてるね

そんなふうに言ってくれてる気がした。

うん!

……

お姉さんは笑って手を振ると、いつも別れていた道で帰って行ってしまった。

その後、お姉さんに会うことはなく、私の記憶からも姿を消してしまっていた。

……

時は経ち、私が高校生になり、帰り道を帰っていると、雨のなか傘もささずに歩く小学生を見つけた。

昔は俺もそんなだったな

雨の中、はしゃぎながら帰ったことを思い出していると、ふと傘のお姉さんをことを思い出した。

大丈夫?

そういえば……

顔も名前も出てこなくなってしまったが、あの親切なお姉さんは今は何をしているんだろうか。

そんなことをぼやっと考えていると、傘をさしていない小学生に声をかけてみたくなった。

俺もやってみるか

私は男の子の近くまで行くと、やさしく声をかけた。

大丈夫?

あのときお姉さんがかけてくれたのと同じ言葉。

…………

男の子はこちらを振り向くと、ゆっくり私を一瞥し

全速力で走って逃げた。

最近の子供の防犯意識は高いな……

そんなことを考えながらも、あの時声をかけてくれた傘のお姉さんはすごかったんだなと思ったのだった。

雨の日の出会い

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