布川は今日の昼休みもイジメられていた。
布川は今日の昼休みもイジメられていた。
ついでに言えば昼休みだけでなく放課後も。
担任の指示で時間が確保されて、文化祭で何をするかという話し合いをする、はずだった。
布川にとって不幸だったのは、文化祭を主導する立場の文化委員が彼女をイジメる主犯格の女子で、布川にその役割を押し付けて早々に帰ってしまったこと。
そして布川が司会をやるとなった途端、ほぼ全員が続いて帰ってしまったこと。
もちろんそれはクラスメイト同士で示し合わせたとおりのできごとだった。
ひとつだけ手違いがあるとしたら、僕だけが一度帰ったふりをしてすぐに教室に戻ってきてしまったことだった。
彼女はひとりでまっさらな黒板の前に立ち尽くしていた。
僕が開けた扉の音に振り返る。
布川さんも帰ればいいのに
……
責任取らされるのって文化委員か級長でしょ
私
……え?
級長、私です
……なるほど
そういえば学期の初めに推薦と多数決という名の数の暴力で押し付けられていたな。
ちなみに僕は図書委員だ。
……どうしようかな?
さぁ?
僕に訊かれても困る。
助けに戻って来てくれたんじゃないんですか?
……そうなのかもね
昨日の話がしたかっただけなんだけど。
ピアノはいつから弾いてるの?
子供の頃から
今も習ってる?
ショパンなら
顔を見合わせて、それが彼女なりの冗談だったのだと知る。
兄貴に聞かせたら、兄貴もすごいって
それで録音してたんですか。告白の返事もせずに
だからそれはもういいって。
でも僕はすごいどころじゃなくて、頭おかしくなるくらいすごいと思う
……
そしてもっとたくさんの人とこの興奮を共有したい
……それで、つまり何が言いたいんです?
つまり……演奏会なんかどうだろうかって
僕は黒板にそれを書き記した。
『布川のピアノソロコン』
そしてその少し下に一の字を入れた。
僕の一票だ。
これで過半数だね
彼女は驚いたように目を丸くする。