透き通った緑色の、四つ葉のクローバーのペンダント。
透き通った緑色の、四つ葉のクローバーのペンダント。
これを見ると、私は決まって一年前のあの夏の事を思い出す。
爽やかな風。心地よい日差し。生い茂った木々。その中心に聳え立つ推定樹齢百年以上の大樹。
まるで周辺の木々を見守る親の様に広く大きな枝葉を伸ばすその樹の下に私はいた。
両親が仕事の都合で海外へ旅立つため、私は明日、住み慣れた田舎を出て都会での一人暮らしを始める。
だから、私のお気に入りのこの場所とも今日でお別れだ。
今までありがとう。私は向こうでも上手くやっていくからね
今日までのたくさんの思い出と、私を支えてくれたこの大樹にお別れを告げる。
ざわざわと枝葉が揺れその隙間から差す光が私を照らした。
そろそろ、時間かな。じゃあ……バイバイ
最後に別れを告げて私は大樹に背を向ける。感傷もほどほどに、何の気なしにポケットへと手を入れた。
あれ? ……ない!?
そこで気付いた。昨日最後に会った時に両親がくれた、白い紙に包んだ四つ葉のクローバーがない事に。
探さなきゃ!
もう夕陽も落ちかけていて辺りも薄暗くなって来ていたが、それでも私は四つ葉のクローバーを探す事にした。
だって、あれが私とお母さんお父さんとを繋ぐ唯一の物だと思ったから。
ない。ない! ない!!
森の中を駆けずり回った。原っぱを這って探した。だけど何処にもなかった。
四つ葉のクローバーなら沢山あった。森の中だもの。そこら中に生えている。
だけど、それじゃ駄目だ。意味がないんだ。二人に貰った、あの四つ葉のクローバーじゃないと。
はあー。どうしよう
結局見つからず、辺りはすっかり暗くなって、私はあの大樹の所に戻っていた。
あれがなきゃ私は、駄目……なのに
思わず言葉が漏れた。すると。また大樹の枝葉がざわざわと揺れて、そこから差す光が私を照らした。
温かな優しい感じがした。……思わず涙が零れた。
嫌だよぉ。ここを離れたくない。あなたとずっと一緒にいたいよぉ
だけど、この光は私に応えてくれなくて、段々と私から離れていった。
あっ……待って! 私を、私を一人にしないでっ!!
その光を追い掛けて私は走った。周りには目もくれず前だけを見つめて、一目散に駆けた。
やがてその光は動くのをやめて、止まって。
その光の中心に白い紙があった。
見つけた!
そう言って駆け出した私は、
という音を聞いて、そのまま下へと落ていった。
いたたたた
光を追い掛けた私は、そこで失くした物を見つけて、その時足元が崩れて、
落ちた……よね?
だけど白い紙は何処にもなかった。そして目の前にはいつもの大樹があった。
結局。駄目だったんだ。あなたにも迷惑掛けちゃったね。助けてくれたんでしょ? ありがとう。でも私はもう遠くに行くから。一人で頑張るから。だから、大丈夫だよ
嘘つき
何となく、そんな声が聴こえた気がした。
周りには誰もいないけど、そうじゃなくて。
私には……
大樹さん?
いつも見守ってくれている様な、温かくて優しい感じがした。だからそう思った。
また大樹の枝葉がざわざわと揺れ出す。
今度はそこから光は差し込まなかった。
でも……
あっ……
目の前に、動物耳の可愛らしい女の子がいた。
嘘つき
彼女はもう一度そう言った。
なに、を?
大丈夫なんかじゃない。貴女には私が必要なんでしょ? 一人でなんて頑張れないんでしょ? でも、それでいいんだよ。私も貴女が必要だから
そう微笑んだ彼女の笑顔は、温かくて、優しくて、どこか懐かしかった。
迷惑かもしれないけど、これにも私の心を込めておいたから。向こうに行っても貴女は一人じゃない。ずっと私と一緒だよ。それで……いいかな?
私へと差し出されたその手には、透き通った緑色の、四つ葉のクローバーのペンダントがあった。
うん。うん! 私も、あなたとずっと一緒にいたい。だから。ありがとう。これでもう安心だよ
そう言って私は、ペンダントを受け取り、思い切り彼女に抱き付いて。
それからその森を後にした。
ここが新しい家か。よし。今日から一人暮らし頑張るぞ!
とうとう始まった一人暮らし。
だけど私はもう一人じゃない
そう強く思って、新居の扉を開けた。
もちろん、ペンダントを首に掛けて。
おっかえりー!!
うわぁ!? 何なに!?
扉を開くといきなり何かに飛び付かれた。
咄嗟にそれを突き飛ばし、改めて見る。
そこに。
窓からの光に照らされて、動物耳の可愛らしい女の子がいた。
その首にはお揃いの透き通った緑色の、四つ葉のクローバーのペンダントを掛けて。
あ、あっ……
また涙が零れてしまったけど、その意味は前とは違って。
だから私は、やっぱり思い切り彼女に抱き着こうと走り出した。
ただいま!