ごめんなさいね、気分を悪くしたかしら?

 今、俺は林さんと2人で話していた。

 美姫のことで話があるらしい。

雅臣

い、いえ、驚いただけです

彼ね…秀人さんは、私が経営する会社の大株主の息子さんなの。ある日、うちで晩餐会を開いた時、美姫を見た大株主、つまり秀人さんのお父様なんだけど、美姫のことを偉く気に入っちゃってね…








大株主

ぜひ私の息子の嫁に!!








って、強引に婚約状態にさせられちゃったのよ…私自身、あまり乗り気じゃなかったんだけど、その当時軌道に乗っていなかった、あのカフェの投資話を持ちかけられてしまって…美姫には悪いと思ったんだけど、断りきれなかったのよ…

雅臣

投資話を餌に、強引に婚約ですか…

 本人の知らないところでそれは…。

正直このことに美姫も乗り気じゃないのよ。一年や二年前に急に婚約者ですといわれた人と仲良くなんて無茶な話だわ

 そこで、とこちらに林さんが顔を近づける。近い近い。

美姫をあの人から取り戻して欲しいのよ!

雅臣

え…俺がですか!?

あなた以外に居るわけがないわ

 林さんは少し眉間にしわを寄せていた。

雅臣

ですが…事実上の家族であるお兄さんのほうが良いのでは?

やだもう、青いわね。美姫の気持ちを…

 まーくんまだー!?

 家中かから美姫が俺を呼ぶ声が聞こえた

雅臣

あ…えっと…美姫が何ですっけ?

ああ、いいのよ。さあ、行きましょう

 二人は家の中へと入って行った。



















秀人

秀人

(チッ…何なんだよ。あの男…。大体何で美姫はあんなガキみたいな男に…。)




雅臣

(なんか、秀人さんから凄い視線が…。怖すぎる…。)

美姫

まーくん!あのね!!見せたいものがあるって言ってたでしょう?だから私の部屋に来てちょうだい!

雅臣

あ、ああ。

秀人

美姫。俺も行ってもいいか?

美姫

えっ…秀人さんには関係の……

秀人

いいよな?美姫

美姫

は、はい…。










 これが美姫の部屋か…。遥の部屋とは全然違う…。整理整頓もちゃんとしていて…。遥にも見習ってほしいものだ…。

秀人

で、美姫。この人に見せたいものって?

美姫

あ、うん…。これなんだけどね!覚えてるかな?まーくん。







そこにあったのは、おもちゃの指輪だった。

秀人

何だ?このガラクタは?

雅臣

触るな!!!!

美姫

ま……まーくん…?

 そう、これは…。







幼少の雅臣

みいちゃん!これね、僕からの誕生日プレゼント!

 あの時は、確か美姫の誕生日だった。

幼少の美姫

わあ!まーくんありがとう!開けてみてもいい?

幼少の雅臣

うん!もちろん!

幼少の美姫

可愛い指輪!

幼少の雅臣

その…ね。大きくなったらちゃんとした指輪を用意して、プロポーズするから!その指輪は…。みいちゃんが誰にも取られないための印だから、大事に持っておいてね!!

幼少の美姫

まーくん…。うん、分かった!大事に持っておくね!










 そう…。俺たちにとっては大事な指輪を、美姫に見せてもらった瞬間、俺は美姫との約束を鮮明に思い出した。




雅臣

…これは大事な…。

言い掛けようとした時、俺は我に返った。

雅臣

…秀人さんごめんなさい。

俺はいつの間にか掴んでいた秀人さんの腕を放した。

秀人

…ふん。

秀人さんは俺を睨んだ後、

秀人

そんな指輪よりも、俺が美姫に相応しい指輪を贈るよ。







 と言い残し、秀人は部屋から出ていった。

美姫

…まーくん。

美姫は不安そうに俺を見た。

雅臣

…大丈夫だよ。…まだ、あの指輪持ってくれていたんだね。

美姫

当たり前だよ…!だって…。

美姫

約束したもの…!

美姫

それは、その指輪は…私がまーくんのものだって、証だから…

雅臣

美姫…

美姫

って、そんな約束をした遠い昔の話、まーくんは覚えていないわよね…

雅臣

美姫、いや…

美姫

いいの!私たちは、もうあの頃の私たちじゃない。無邪気に結婚するなんて、言ってられるような年じゃない…それは分かっている、分かっているのに…

 美姫の瞳に、大粒のダイアモンドが浮かび上がる。

 本当は覚えている…言うべきなんだろうか?

 言ってしまえば彼女は恐らく今後の生活が大きく狂うことになる。

 秀人さんが、納得するわけが無い。

雅臣

美姫…みーちゃん

 瞳のダイヤモンドを指で取り去る。

美姫

まーくん、ごめんね?

雅臣

いや、どうせだ、もう少し無邪気な子供を続けてみようじゃないか

美姫

え?それって…

 いたずらの準備をする子供のように俺は笑う。

 そうだ、目の前の笑顔が消えるくらいなら…

雅臣

林さん、この話乗りましょう

 ドア越しに見える手からは、ぐっと親指が立てられる。

 秀人さんが出て行ってからすぐに林さんはそこに居た。

 人差し指を口の前に立てられていたため、あえて言わなかったが…。

雅臣

子供のころの約束、その続編と行こうじゃないか。

 俺は笑ってあの日の約束の再開を宣言した。




第8話「果たされるべき約束」(担当:トーン・シュヴァイン)

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