達也

ん~、自分の部屋もいいけど、やっぱ広いリビングがいいなぁ

 誰となくつぶやき、達也はリビングルームへと向かう。

ミカ

………

達也

お、おわ! びっくりすんな!
な、何だよミカ、そんなところにつったって

ミカ

ねえ、お兄ちゃん教えて……都会で……コイビトとかできたの?

 ミカの目は真剣そのものだった。

達也

はぁ…?

 それに対して、何の口も出せない達也。
 いったい、ミカは何が言いたいのだろうか…?

ミカ

お兄ちゃん……教えてよ

 ミカはこの一言しか発しない。
 どうしても聞きだしたいらしい。
 だから、達也はまっ正直に答えることにした。

達也

あ…ああ……まぁ、一応はな

ミカ

!!

ミカ

そんなの…ウソ…だよね

 焦点の定まらない瞳で、見つめ続けるミカ。
 先ほどまで後ろ手組まれていたその両腕を
 ある種、抱擁するためがごとく広げて見せた。
 達也はその姿から目を離すことができなかった。
 特に、その右手に持っている物に気がついたからだ。

 鈍い、銀の光を発する刃。
 それは、どこの家庭にもある、包丁であった。

ミカ

お兄ちゃんの恋人は、アタシだけだから…

 そう、呟くミカ。

達也

ちょ、ちょっと待てよミカ、ど、どうしたんだよおまえ

 急なミカの豹変に、焦りを感じる達也。
 しかし、そんな言葉には目もくれずにミカは兄の大きな胸に飛び込む。
 そして―――

達也

あ……あ……?

 達也は胸に冷たい空気を浴びた。
 普段とは変わらない風景。
 しかし、胸の一点だけは冷たい穴が穿かれていた。
 その穴をあけたのは、自分の妹が持つ刃。

ミカ

お兄ちゃんには、あたしがいればいいの

 冷たい声で言い放つミカ。
 その眼にはすでに光は宿っていなかった。
 むしろ、濁った瞳ともいえるほどに。
 そして、その全体重を兄に預ける。

 その勢いに負け、押し倒される形になる達也.
 彼の冷たい腕は助けを求めるかのように、上空に力なく延ばされる。

それを見たミカは、嬉しそうにその手を握り締めると。

ミカ

やっぱりね…お兄ちゃんも アタシが好きなんだよね。
 こうやって、昔みたいに手をつないでくれるもん…

 ぎゅっと握りしめる。
 たとえ、達也の手から力が消え失せようとも。

達也

がっ……ごふっ!

 達也の口から赤い塊が吐き出された。
 既に、それを自分の手で拭う力すらも失せている。
 代わりにミカが、それを小指につけ、それを紅とし唇に塗る。

ミカ

うれしいなぁお兄ちゃん…
 さっそくアタシにプレゼントをくれるんだ…

 つぶやいた。
 そう、呟いた。

達也

あ……あぁ……

ミカ

いい笑顔にだね、お兄ちゃん

 握りしめられた、その手は

ミカ

二度と離れない約束

 唇に塗った、兄の血は

ミカ

お兄ちゃんからのプレゼント!

 そう、思う。

 数時間後、そこには幸せそうな兄妹の姿があった。
 妹の膝の上で 微笑みの表情で眠る兄。
 その兄の顔を満面の笑顔で、自分の胸に抱き抱える妹。
 それは、それは、とても幸せな姿でした。

ミカ

もう、あの時の…
お兄ちゃんが家から出て行った時の寂しさなんて二度とヤだから。

ミカ

ふふ、でもこれでずっと一緒になれたね。

ミカ

ずっとずっと、離れないよ。
ずっとずっと、一緒だからね!

めでたし。 めでたし。

2・お兄ちゃんと一緒

facebook twitter
pagetop