【フレンブルク城下町の診療所】
【フレンブルク城下町の診療所】
ペオルは疫病の村で助けた子供に会いに、その子が運ばれた診療所に来ていた。
ういーす!
これはペオル隊長、どうも
ここに昨日運んだ生き残りのガキがいたと思うんだけど、意識戻ったみたいじゃん。ちょっと様子見に来た。
そうですか、ご苦労様です。どうぞ
医者に連れられペオルは、助けた子供の病室に行った。
そこには、ベットにいる少年の姿があった。
歳はまだ13歳くらいだろうか、
幼さ残る顔つきの瞳には生気がまるでなかった。
隔離してないのか?
その必要はありません。なぜなら彼は感染してないですから
ペオルはそれを聞いて驚いていた。
この疫病の特徴は身体に黒い斑点が現れる。
致死率の高さと感染率の高さから黒死病とも呼ばれている。
黒死病の感染経路は多義に渡り、空気感染、接触感染、血液感染が現在判明されていた。
しかし現状は、この疫病に対する治療法は確立されておらず。感染拡大を防ぐために感染者を隔離するしか手がなかった。
そんな少年の身体には一つも黒い斑点がなかったからだ。
嘘だろ?あのガキのいた村人全員感染して死んだんだ。あのガキも感染してなきゃおかしいだろ
そうなんですが、彼には黒死病の症状が見受けられず、至って健康そのものです。奇跡としかいいようがありません。
奇跡ね、これが神の御業とでもいうが正直胡散臭い
。
もしかしたら、あの子は特別な体質の持ち主なのかもしれません。
特別な体質ね...
ただ...
ただ、なんだ?
いえ、それが...
ったく、めんどくせえな。ハッキリ言えハッキリ
身体は健康ですが、心に大きな傷を負ってまして精神的ショックが大きかったのでしょう。助かったのにまだ笑ってもいないんです。
ふーん
食事もいっさい手をつけないので、私共もどうしたらよいか
戦争孤児によくみられる特徴だった。
戦争に行ったことがあるからよくわかる。
このお医者先生様は怪我や軽い病気ぐらいなら治せるんだろうが、心に負った傷までは完治できない。
話はできそうか?
ええ、今は。ただ余り無理をさせないでください。
先生には迷惑かけねぇよ。任せときな
ペオルは先生を残して少年の部屋に入り、彼と対面する、少年の目は光がなく生気が抜けたようにしてベットにうなだれていた。ペオルは彼のベットの横に立った。
よう!
……
少年は答えない。
まぁ、当然の反応だな。
だがペオルはめげずに少年に話しかけた。
俺は聖教会騎士団のペオルっていうもんだ。お前に二、三聞きたいことがあって来たんだわ。
……
おいおいなんか喋ってくれよ。おっさん一人でぺっちゃくってたら寂しい奴だと思われんじゃねぇか
……
実はお前を助けたのは俺なんだぜ!
……
案の定、駄目か
少年は無反応のままだった。
しかたねえ、話しの切り口を変えるか
お前、両親は?
・・・!?
両親のことを出すと少年は少しピクッとして反応した。ペオルはそれを見逃さなかった。
よし、親の話で少し反応した
親だ。お前のお父さんとお母さんはどうしてるんだ?
ペオルは畳み掛けて質問した。
それに虚ろな目の少年は微かに口を開いた。
死んじまった・・・
二人とも死んじまったよ・・・疫病で
そうか
だろうな、あの村の生き残りはこいつだけだったんだ。両親はとっくに死んでるだろう。
ペオルはそれを知っていながらわざと聞いたのだった。この少年の心の傷は両親だ。だから普通なら両親が亡くなったことはタブーにするものだが、ペオルはあえてそのタブーに触れることで少年の感情を煽り、少しだけ本来ある感情を呼び起こしたのだ。
ペオルは今までそういった戦災孤児を見てきたから慣れていた。
俺も疫病で死ねばよかった・・・
はぁ?
親父やお袋、それに村のみんなが死んじまって、これから子供一人で生きていくなんて無理だよ・・・飢え死ぬのがオチさ。だったら俺も
村のみんなと死んでたほうがマシ・・・
ペオルは子供の頭をはたいた。
イテッ!
子供は頭を抑えながらペオルを睨み付けた。
なにすんだよおっさん!
メソメソすんなクソガキ! 俺は泣き虫なガキが嫌いなんだ!
泣いてねえよ!
嘘つけ、今にも泣きそうな面してたじゃねぇか
それでも、いきなり叩く奴があるか!!!
大体てめぇは甘えてるだけなんだよ!なにが死んじまったほうが楽だ。笑わせんなWWW
なんだと!俺の気も知らないで!
そうやって落ち込んでれば誰かが優しくしてくれるって思ってんのか?
なっ!?
僕は村で唯一生き残った悲劇を背負った子供です。だから皆さん僕に優しくしてください。とでも思ってたんだろ!
俺はそんなこと一度も・・・
減らず口叩ける根性はあるようだな
うるせえ!ほっとけよ!
イテッ!
年上の口の聞き方がなっちゃいない!
また殴ったな!
怒りで目の色が変わったな、いい調子いい調子だ。
これが親を失って傷心した子供へのやり方である。
こうして怒らせればマイナスな考えも吹き飛ぶ。強引なやり方だが、これが効果あった。
少年はさっきとは違い感情が蘇ってきていた。
悲しみは色んな負の感情がごっちゃ混ぜになる。怒りは生きる活力だ。こうして喧嘩してれば、こいつも・・・
いてぇ!? 噛みつくのは反則だろ!
うるへえ!
その日はクソ生意気なガキんちょとドタバタ喧嘩して終わった。この野郎、歯形がくっきり残ってやがるじゃねぇかバカヤロウ
三日前
よう
げっ、また来たのかよ
うるせえ、いいだろ別に
俺はまた診療所に来ていた。
正直暇だったってのもある。
いわば暇潰しだ。
ガキをからかうのは面白いしな。
帰れよおっさん
可愛いげのない糞ガキだねーほんとに
ガキガキガキって、俺はガキじゃねえ!ヨブだ!
ヨブってお前の名前か?
そうだよ
変な名前
いてえ! だから噛みつくなっての! お前は獣か!?
おっさんがわりいんだろ!
俺とヨブはワーギャーと言い合う。
ほんとひねくれたクソガキだぜ。
ペオルは椅子に腰掛けて少年の話し相手をする。
おっさん教会の騎士なんだろ?
ああ、そうさ。かっこいいだろ!
サボってないで仕事しろよ
・・・・・・・・
どこぞの俺の部下みたいなこというなよ
なんであんたみたいなグータラ親父が騎士なんだよ。騎士ってのはもっとこう、みんなのために体張って治安を守るとかさ
やってるよ!バリバリ騎士の仕事してるからね!
今おっさんはここで何してんのさ?
・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・
お仕事の話はやめないか?
やっぱサボってたんだ。ここをサボりの場所にしてたんだ!
騎士の現実なんてこんなもんさ。
なぁ、おっさん一つ聞いていいか?
なんだよ?
なんで神様は疫病や戦争から人間を救ってくれないんだよ、そういうための神様なんじゃないの?
神さんはそこまで万能じゃないんだろうよ。かくゆう俺は無神論者だからな。神さんのことはわからん
聖教騎士団のくせに無神論っておかしいじゃないか!
大人には色々事情があるんだよ
汚い大人だな。騎士のくせに
大体なんださっきから騎士騎士って、聖教騎士団に興味でもあんのか?
べ、別に興味なんか全然ないからな!
嘘が下手くそだな。興味津々なのがバレバレだ。
まぁ、こんくらいの歳のガキは騎士団になりたいって思うもんだもんな。
お前、他に身寄りはいねえのかよ
いない…俺一人だけだ
そうか、まっそんなこったろうと思ってたぜ。
こんな他愛もない話をして、その日は過ぎた。
二日前
ちょっと出てくる
あれ? またあの子のとこにいくんですか?
珍しいですね隊長が子供好きだとは知りませんでしたよ。
だってここにいると、お前に仕事させられるじゃん。
というと仕事させられるので黙っとくことにする。サボる口実にもなるしな。
知らなかったの?俺子供大好きでさ。
どうせサボる口実にしてるんでしょ?バレバレですよ
バレてた!?
行ってきても構いませんが、隊長の今日やる仕事は残しときますから
おっと!こうしてる間にもヨブ君が苦しみながら俺が来るのを待っている!今いくぞ待ってろよヨブ君!!!
ペオルはまた診療所にいた。
その時、意外な人物がいた。
ありゃあ、本隊の隊長様じゃねぇか
本隊の隊長が医者の先生と何かを話していた。
正直珍しい光景だった。あの堅物が何の用でここに?
ペオルは柱の物陰に隠れて二人の話を盗み聞きした。
それは本当か?
はい、あの子は…
ゴニョゴニョ小声で話していてペオルのいる位置から聞こえなかった。しかし本隊の隊長の顔は真剣な表情でそれに耳を傾けていた。
むぅ、だとしたらこれは一大事だ。私では判断しかねる。上層部に報告しておこう。
本隊の隊長は急ぎ診療所から出ていき馬に乗って去っていった。
一体何の話してたんだ?
ペオルは疑問に思ったが、このまま深く考えてもわからないし、なによりめんどくさいので、さっさと忘れて子供のところへ向かった。
ペオルは紙切れをヨブに渡した。ヨブは最初なんのことかわからず戸惑った。
な、なんだよこれ
いいから読んでみろ
ヨブは渡された紙をマジマジと見る。
わかんね。俺文字読めねぇもん!
そこからかい!
仕方なくペオルが読んで聞かせた。
これはな聖教会騎士団への入団の書類だ。
ん? なんでそんなもの俺に見せたんだ?
はぁ、察しの悪い奴だな。うちに来いって言ってんの
はぁ!?
お前歳は?
13だけど…
13か、入団できる年齢は15なんだけどサバ足しときゃあ問題ないか
い、いいのかよ。そういうのってまずいんだろ…
いいんだよ。隊長特権だ。
このご時世、ガキ一人で生きていくのは無理だ。
まして身寄りがないんじゃ、飢えて死ぬだけだ。
せっかく生き残ったんだ。こいつには生きるチャンスがある。
このクソみたいな世界の神様は、飢饉や戦争や疫病やらもなんとかしてうださらないし、ガキ一人も救いやしない。
だから無能な神さんに代わって救いの手を差し伸べてやんのも悪くねぇ。
俺が大っ嫌いな神様に対しての最高の皮肉だぜ。イカすだろ?
それに10年前の戦争で死んだ俺のガキも生きてたら、こいつと同い年くらいだったろうにな。
おっと、らしくなかった。なに感傷に浸ってやがる。