ファンタ・G太郎（30）

ウウ…

人生が…

人生が虚しい…

有意義な人生を送りたいのに

毎日が平凡に過ぎてゆく…

フフフ…悩んでいるわね…

そんな時はガールズバーに行けばいいわ

わかりました

僕は根性無しだ…

店のドアをチラ見しては…

まるで興味ないように通り過ぎる行為…

これをもう3度繰り返している…

怖くて入れない…

いや、違うな…

怖いんじゃないんだ…

いや、怖くもあるんだけど…

それ以上に……

「ガールズバーに入る」という…

その行為が…

「僕は寂しい男です」って体現するようで…

カッコ悪くて…

ドアが…

開けられない…

駄目だ…

牛丼でも食って家に帰ろうかな…

40分2000円飲み放題でーす

！！！

あれは！

まさにガールズバーのビラ配り！

あれだ！

あれしかない！

あのビラを自然に受け取って

「安いね。まぁ暇だし寄ろうかな」って感じに振舞えば

ごくごく自然に店に入れるんじゃないか！？

テクテク（歩行の擬音）

テクテク（歩行の擬音）

40分2000円飲み放題でーす

40分2000円飲み放題なのかい

そうでーす

安いね

ですねー

………

………

何なんだこの沈黙は…

くそ、どうしよう

しょうがない…

一歩踏み込むか…

へぇ、お店結構ここから近いんだね

ですねー

………

………

嘘でしょうよ

これはアレか…

暗に「店に来んな」って事なのか？

何故だ？

そんなに金持ってなさそうに見えるのか？

そりゃ金持ってるか持ってないかだったら…

持ってないほうに入るさ…

30歳

アルバイト

手取り15万

お金持ちとは言えないさ…

でも40分2000円くらい

2000円くらい払えるよ…

僕は2000円も持ってなさそうに見えるのかな？

それとも僕の容姿がＮＧなのかな？

あぁ、何だか悲しくなってきた…

この悲しさはアレだ…

小学校の時、

クラスの女子が友達のプロフィール帳みたいなヤツを

皆に「書いてー」って配ってる中で

自分にそれが配られなかった時の悲しさ…

あの悲しさに似ている…

どうして今こんな事を思い出さなきゃいけないんだ…

あの友達のプロフィール帳みたいなヤツ…

残酷なアイテムだよなぁ…

この世から無くなったほうが良い…

アレ、正式名称なんていうんだろ…？

帰ったら調べてみようかな…

あの…

ずっとチラシ見てますし

よかったらお店寄って行きませんか？

あ、はい

行きます

ゆみちゃん（偽名）
「いらっしゃいませー」
「こちらの席にどうぞー」

あ、はい

ゆみちゃん（偽名）
「仕事終わりですかー？」

いや、今日は休みなんだ

ゆみちゃん（偽名）
「そうなんですかー」

……

ゆみちゃん（偽名）
「何飲みますかー？」

……

これはアレですか

生ビールと焼酎水割り以外は

別途お金がかかるシステムなのですね？

ゆみちゃん（偽名）
「そうですねー」

これはテストか何かなのか？

1000円をケチるかケチらないか試されているのか？

どうしようかな…

えーっと…

じゃあ、せっかくの飲み放題なので

生ビールでお願いします

ゆみちゃん（偽名）
「はーい」

今のは正解だったかもしれない

「せっかくの飲み放題」と補足する事で

そこまでケチ感が出なかったと思う

ゆみちゃん（偽名）
「はーい、生ビールでーす」
「わたしも一杯もらっていいですかー？」

なるほど

僕は知っている

この場面で女の子が飲む酒代は

客が払うシステムのはずだ

ドリンクは一杯1000円

これを断ると

今からの40分間

ケチくさい客として見られる事になる

その空気に

僕は耐えられそうに無い

良く出来たトラップだ

ゆみちゃん（偽名）
「ガールズバーはよく行くんですかー？」

いや、実は初めてなんだ

ゆみちゃん（偽名）
「そうなんですかー」

うん

ゆみちゃん（偽名）
「じゃあお客さんの初めて…」
「わたしがもらっちゃいましたねーﾜﾗ」

………

これは下ネタか…？

こういう場合、何て言葉を返したら良いのだろうか？

「ありがとう」は変だよな

「最初がキミで良かった」とか？

いや、重過ぎるだろう…

第一この子の事を現在ほぼ何も知らないんだ…

何を根拠に「キミで良かった」なのかもわからない…

………

どうしようかな…

少しエッチなジョークを投げられたので

こちらも軽くエッチなジョークを返すのが正解かな

ははっは、そうだね

ついでに身体のほうの初めても貰ってくれるかい？

ゆみちゃん（偽名）
「えー、ちょっとそれは…」

とても苦い顔をされたので不正解だったようだ

ゆみちゃん（偽名）
「それでー、最近はとんかつソースをかけるんですけどー」

ははっは、そうなんだ

スタートでミスを犯した感があるが

この子は自分からガツガツ喋ってくれるから

会話が楽でいいなぁ…

話してる内容はとんかつソースの話で

ぶっちゃけ心の底からどうでも良いって思える話だけど…

絹江（偽名）
「ゆみちゃーん、こうたーい」

ゆみちゃん（偽名）
「あ、はーい」
「じゃあ、ごちそうさまでしたー」

え、あ、はい

絹江（偽名）
「はじめまして。絹江でーす」

あ、はじめまして

え？あれ？

…何が起こったのですか？

絹江（偽名）
「20分経ったから交代したんですよー」

これは初めて知った

20分ごとに女の子が入れ替わるのか

「はじめまして」が終わり

ようやく会話らしい会話が可能になったのに

ここでまた「はじめまして」に戻されるのか

なんだこの強制リセマラは？

絹江（偽名）
「あ、わたしも何か飲み物もらっていいですかー？」

なるほど

僕は理解した

この場面で女の子が飲む酒代は

客が払うシステムであり

そして女の子は20分ごとの交代

交代の度にドリンクをせがまれる訳だ

40分飲み放題2000円…

これに女の子のドリンク1000円が2度発生する…

つまり40分、なんだかんだで4000円…

10分1000円のお値段だ…

1分だと100円…

すごい値段設定だ…

絹江（偽名）
「お客さんってぇー、」
「十文字鍋太郎に似てますねぇー」

？？？

すまない

その「十文字鍋太郎」とやらを知らないのだけれど…

芸能人か何かかな？

絹江（偽名）
「あ、違います違います」

絹江（偽名）
「十文字鍋太郎はぁ、」
「私の考えたキャラクターなんですよー」

ハァハァ…

やっと見つけたぞ…

金玉破壊爆弾っ！！

爆発前に間に合って良かった…

金玉を破壊される前に破壊してやる！

金玉破壊爆弾
「ははは。悲しいな。」
「十文字鍋太郎よ。」

うわぁ！

爆弾が喋った！！

そして何故俺の名をっ！？

金玉破壊爆弾
「お前の事なら何でも知ってるさ…」

金玉破壊爆弾
「通帳の残高から、twitterのログインパスワード…」

！？

金玉破壊爆弾
「お前が既に金玉を失っている事も知っている…」

なっ！？

金玉破壊爆弾
「知ってて当然さ…」
「なにしろ…」

……

金玉破壊爆弾
「俺はお前の金玉だったんだからな」

はは…

何となく…

何となくそんな気はしていたよ…

だから…

だからこそ…

お前は俺が破壊する…

俺の金玉だ…

俺が破壊しなきゃならない

金玉破壊爆弾
「本当にいいのか？」

金玉破壊爆弾
「憎かったんだろう？世の中が」

金玉破壊爆弾
「辛かったんだろう？孤独が」

金玉破壊爆弾
「アベックを見る度に湧き上がっただろう？」

金玉破壊爆弾
「殺意が」

……

金玉破壊爆弾
「俺はお前の負の感情を全て見てきた」

金玉破壊爆弾
「俺の爆発は、お前の意思のはずだ」

ふふ…

お前は俺が金玉を失うまでの記憶しか知らないようだな…

確かに孤独に襲われて他人を呪った事はあったさ…

いや、それが毎日だったかもしれない…

でも今は違う

ハムスターを飼ったんだ

こいつが可愛くてね

孤独の悲しさとか、馬鹿らしくなっちまったよ

金玉破壊爆弾
「……」

で、お前を破壊すると結構な額の賞金が入るんだ

その金でハムに良いケージを買ってやれる

だから破壊するよ

俺は

お前（俺の金玉）を

金玉破壊爆弾
「2～3年……」

……

金玉破壊爆弾
「ハムスターの寿命だ」

金玉破壊爆弾
「今のお前の幸福は一時的なものに過ぎない」

金玉破壊爆弾
「一時の幸せを失った後…、」
「お前は更なる孤独に襲われる事になる」

金玉破壊爆弾
「良いのか…？」

はは

幸せなんてそんなもんだろ？

ハムスターが死んだら

次は金魚でも飼うさ

金玉破壊爆弾
「……」

なぁ…

最後に聞くが…

お前が爆発をやめて

俺の身体に戻ってくるってのは

出来ないのか？

金玉破壊爆弾
「……」

金玉破壊爆弾
「分離してから半年以上が経過し、俺は完全な独立体となった」

金玉破壊爆弾
「その望みは、もはや叶わぬな…」

そっか…

じゃ、ラ・フランスだ

用無し（洋梨）って意味だぜ