いらっしゃいませ~

 何度も聞いた、ひねりのないどこでも聞く挨拶が俺を迎える。

 コンビニに来た理由は簡単だ。

 美姫からのバイトの話。ずっと何もせずに家で燻っているのももったいないので、誘い通り応募することにした。

 そのために、履歴書を手に入れに来た、というわけだ。

津雲 雅臣

これ、ください

280円になります。

 500円玉を出しレジ会計を済ませる。

 そうだ。せっかく来たんだし…。

津雲 雅臣

あ、あとあんまん1つ

かしこまりましたー。

 今回は普通に買えた。

 あの時食べたあんまん、結構おいしかったし…。

ありがとうございましたー。

 口の中にあんまんを頬張りながら、レジ袋を引っさげて外へ出る。

津雲 雅臣

はふっはふっあちち。

 熱いけど、ちゃんと食べてみるとおいしいなこれ…。

 口の中を満足させた俺は、今日外出したもう1つの理由のため、目的地に向かう。

津雲 雅臣

ここ、か…

 昨日パソコンで確認した例のカフェ

『Dream Memory』

の前に、俺は立っていた。

 駅前にある、ちょっとしゃれた感じのカフェで、たまに電車の音などが聞こえてくる。

 テラス席では、俺位の若者たちがお茶をしている。

 まぁ、今日はどんな雰囲気かを見に来ただけだから、入店するつもりは…。

あっ!!

まーくーん!

 どうやらそういうわけにもいかないらしい。

津雲 雅臣

や、やあ

いらっしゃい!お席にご案内しますね

津雲 雅臣

あ、えっと違って…

 事情を説明するつもりが、釣られるように足が動いていた。

こちらにお掛けになってお待ちください

津雲 雅臣

あ、ありがとうございます

 下見だけのはずが、まんまと美姫に捕まってしまった。

津雲 雅臣

2人席か…前に美姫が来るとか…そんなわけないよな

 美姫が厨房に戻ろうとする。

津雲 雅臣

あ、まって!注文します!

 インターホンがあるというのに、呼びかけてしまった…

 恥ずかしい…

津雲 雅臣

えーと…じゃあ…みーちゃんのおすすめ、お願いします

私のおすすめかぁ…うーん…

はい!かしこまりました!

-数分後-

お待たせ致しました!トロットロふわっふわオムライスです!

 おお、普通に美味そうだ…。

津雲 雅臣

頂きます!

 もぐもぐ…もぐもぐ……。

 ん!?

 この味……

 どっかで食べたことある味だ…

 何処だろう、うーん…。

美味しい…かな?

津雲 雅臣

うん、美味いよ!でも、この味どっかで食べた事あるような気がするんだけど…

気づいた!?これね、私の家のを再現してもらったやつなの!

ここのカフェ、2~3ヶ月に1回、『自分の味フェア』っていうのやっててね!今月は私の番で、私の家のオムライスをメニュー化してもらったの!

結構評判良くってね、もしかしたらまーくん思い出してくれるかなぁ~って思ったんだけど、思い出してくれたかな?

 ああ、鮮明に思い出したよ…。この味も、美姫との思い出も…。

さあ、出来たわよぅ!

 美姫と美姫のお母さんが、オムライスを持ってくる。

まーくん、召し上がれ♪

 美姫が、俺にあーんと言って、スプーンを口に運ぼうとしてきた。

い、いいよ。自分で食べれるから!!

 俺は美姫からスプーンを奪い、スプーンの上に乗ったオムライスを口に運ぶ。

…!!美味しー!!

 俺は思わず、立ち上がり叫んだ。

あらぁ!お口にあって良かったわぁ

 美姫のお母さんが、俺の頭をなでる。

おかわりまだまだあるから、遠慮しないで言ってねぇ

 笑顔でそう言い、美姫のお母さんは台所の方へと消えていった。

…実はね、私も手伝ったんだよ!

 美姫は、俺に笑顔を向けて言った。

みーちゃんは、きっといいお嫁さんになれるよ!!

そうかな…

私、まーくんの…

 美姫はもじもじしながら何かを言っているが、よく聞こえない。

 それを察した美姫は…

やっぱりなんでもなーい!

私、将来お母さんみたいに料理上手くなる!!

こんな美味しいご飯を毎日食べられるなら、俺、みーちゃんをお嫁さんにするっ!

本当に!ねぇ、まーくん、本当に!?

あらっ。まーくんなら、私は大歓迎よ!

 いつの間にか台所から戻ってきた美姫のお母さんも、俺の言葉に賛成の意を示した…

 あの時、美姫は俺に何と言いたかったのだろう?

私、まーくんの…

津雲 雅臣

まーくんの…お嫁さんになりたい!…なんて、そんなこと、ある訳ないか…

津雲 雅臣

それに、俺が言った『嫁にもらう』って言葉を今でも覚えていて、本気にしているとは思えないし…

まーくん?どうしたの?

津雲 雅臣

いや、何でもないよ…うん、やっぱり美味い!

 美姫は、俺が美味そうに食べる姿をその場で見ている。

津雲 雅臣

…みーちゃん、仕事、大丈夫なの?

うん。ちょうど今、お客さんいないから♪

 周囲を見渡すと、客は俺1人になっていた。

津雲 雅臣

何だか恥ずかしい気もするけど、客もいないなら、仕方ない、か…

 美姫に見られている中、恥ずかしながらも俺はオムライスを完食した。

津雲 雅臣

オムライス、美味しかったよ!ごちそうさま!!

どういたしましてっ!

 美姫は、笑顔で俺が平らげたオムライスの皿を下げた。

 その時…

美姫!そろそろバイト終わりだろ!?

 俺の背後に、スーツを着た長身の男性が立っていた…

第7話へ続く…

第6話「喫茶"Dream Memory"」(担当:剣世炸)

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