キャ!

 可愛らしい小さい悲鳴が
 桜の花びらと共に上がる。

雅臣

っとと、おお…

 そういえばもうそんな時期か…
 ここの桜は綺麗だからなぁ、たまにテレビの取材も来るぐらいだし、他から見たら相当綺麗なんだろう。

素敵…桜の花吹雪に囲まれるなんてなかなか出来ませんね!

 得しちゃいました!と彼女はあからさまに喜びをさらけ出す。

雅臣

…座りましょうか

 思わず見とれていたことに気づく、鼓動の速度はまだ変わらない。

 適当な場所に腰を下ろし、逸れに合わせて彼女が隣に座る。

ん~♪おいしい!

雅臣

ん、美味い

 まだ熱を持ったあんまんは口の中で甘さを広げていく。

やっぱり誰かと食べるのはおいしいですね!

雅臣

あ、ああ…そうですね

 お互いの分を食べ終わると立ち上がる。

あ、いけない!遅れちゃう!

 なにやら慌てだす彼女。
 この後約束でもあったんだろうか?

では、失礼しますね。

またどこかで!





 彼女は走っていってしまった。



ポトッ...



雅臣

ん…?これって…

 俺は足元に目を向ける。

雅臣

彼女の学生証か…?
慌てて鞄から落ちたんだな…

雅臣

大事な物だ、届けないとな。

 彼女の学生証を拾い上げ、情報を得るため内容を確認してみた。

雅臣

林 美姫(はやし みき)…
××大学の3年生…?
俺と同い年じゃないか…

雅臣

えーと住所…まではさすがに書いてないか…

 そう思い裏を見ると丁寧に自宅の住所が書いてあった。

雅臣

はは、自宅の住所だけ手書きだな
よほど忘れっぽいのか…

雅臣

おお…程よく近い距離に住んでいるんだな

雅臣

いかんいかん、これじゃまるでストーカーのようだ…

雅臣

ちょっと寄り道しちまったけど、もうお昼か…今日は家に戻って明日届けに行くとするか…

 そう言いながら、俺は綺麗な桜を再度眺めながら自宅へと急いだ。

















雅臣

ただいまー

おかえりー、お兄ぃー。

ねえ、キッチンに置いてあった白イチゴどうしたの?

痛んじゃうと思って冷蔵庫に入れといたけど…。
あれ、高いやつなんでしょ?
ニートなのになんでそんなに買えたの?

 妹にまで、ニートって…。情けなさすぎる。
 そろそろ、職安でも行ってみるか。

雅臣

ああ。

雅臣

それ、林さんっていう人から貰ったんだよ。一緒に食うか?

良いの!?やった!!
いちご食べたかったんだ~。
しかも…白なんて!!

 妹と一緒にイチゴを食べ始めた。
 ふと、思っていた疑問を妹に問いかけてみた。

雅臣

そういえば、遥…。お前『林さん』って知っているか?

え?林さんってあの豪華な家の人でしょ?あの…お家のお姉さんに家庭教師やってもらってるよ?

雅臣

ふーん、あの家に娘さんいたのか…。

 …ということは、『あの林さん』の娘っていうことか…。

雅臣

…想像ができない。

 俺は想像するのをやめた。

…お兄ぃ、ニートで部屋あまり出ないもんね。知らないのは当たり前か。今日もね、夜来るんだー!

雅臣

…ふーん。

一度ぐらい挨拶したら?

 妹は頬を膨らました。

 …挨拶か、面倒くさいけれど…どんな人か気になるな…。

雅臣

了解。

 俺はその場を後にした。



数時間後…



…それじゃ、失礼します



雅臣

ZZZ…… う~ん…

 パソコンの前で俯せで寝ていた俺は、聞き覚えがあるような声で徐々に目が覚める。

お兄ぃ、先生帰っちゃうよ~

遥ちゃん、お兄さん寝てるんでしょ?だから、また今度で…




雅臣

…この声、どこかで…

 起きようとした瞬間、肘にマウスがぶつかり、パソコンが機械音と共にスリープ状態から目を覚ます。

先生、ごめんね

 頭がボーっとする中、俺は自分の部屋を出て、玄関に向かう。

それじゃ、またね。失礼します





 玄関のドアが閉まる音がする。





 俺は玄関前のドアを開けると、そこには
 ふくれっ面の遥が立っていた。

も~う!お兄ぃ!!
先生に挨拶するって約束したじゃない!

雅臣

悪かったよ…
ついうっかり寝過ごしちまって…

雅臣

(林さんの家のお姉さん、か…一体どんな人だったんだろうか…)

雅臣

(林…そう言えば、今日あんまんを分け合った人も林さんだったな…)

雅臣

遥!次、先生が来るのはいつなんだ?

え~?えーっと確か明日また同じ時間帯に来るよ。

 てことは大体18時から20時くらいか…。

雅臣

ん、了解。

 ならその時間は起きていないとな…。

あ、そうだ。

 遥が何か言葉を言いかける。

えっとねー
先生がお兄ぃのことをねー。

 にやけ顔で遥は言葉を…。



遥-!ちょっと手伝って~!



 …続けることはなく母に呼び出されてそちらの方へ向かってしまった。

雅臣

ったく、なんなんだか…

 遥の先生が何か俺のことを言っていたのか?
気にはなるけど…。

雅臣

まぁニートの俺に対する話題だ、碌なものではないだろうな

 自虐ネタもほどほどにしつつ、俺は自分の部屋へと戻りパソコンを起動する。







雅臣

今日のあの子、かわいかったなぁ…

 あんまんを分け合った
 あの子のことを思い出す。

 気が付けば俺はついさっきと同じく
 寝落ちしてしまった。

 朝に妹の怒号により起きたのは
 言うまでもない。

第4話へ続く…

第3話「桜並木とあんまんと」(担当:トーン・シュヴァイン)

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