幸せショート

第2話 真夜中の 電車

作:三山 冽

キャラクター:かさこ

ガタン、ゴトン。ガタン、ゴトン。

 電車が走ってゆきます。

普通電車だな

勇馬くんは思いました。

音で、わかるのです。

普通電車は、

 ガタン、ゴトン。
ガタン、ゴトン。

特急電車は、

 ガタゴトガタゴト。

と速くて、
あっという間に行ってしまいます。

田舎の町の病院です。
 勇馬くんは入院しています。
 5歳です。

1人の部屋です。

 お話する人がいないので、
いつも外の音を聞いています。

 電車は、上り下りを合わせて、
1時間にたった6本です。

 そのうち2本が、特急です。

普通電車のお客さんは、
どこまで行くのかな。
特急電車のお客さんは、旅行かな


毎日、そんなことを考えています。

ぼくも、電車を
運転してみたいなー

と、思ってもいます。

真夜中の駅です。


 車庫の扉が開いて、
電車が、そろーっと、出てきました。


 運転手は、いません。

電車は、ひとりで動いています。


 午後2時10分に、
病院のそばを走った電車です。


 ピピピッ!
と、感じたのです。


 入院している勇馬くんが
思っていることを、です。


病室に、
電車が入ってきました。


 眠っていた勇馬くんは、
目を覚ましました。


わ! 電車!

びっくりして、飛び起きました。


 普段は熱があって、動くのも大変なんです。

 でも、今は、そうでもありません。

勇馬くん、

ぼくを運転してみませんか

えっ? ほんとに?

するするっ!
運転、させて!

勇馬くんは、ベッドから飛び下りました。

ひろーい草原です。

 お月さまとお星さまが、出ています。

 勇馬くんは、運転席に座っています。
 運転手の帽子をかぶっています。

それでは、出発進行!

勇馬くんがレバーを押すと、

 ウィ~ン。
 グゥー。

 電車はゆっくりと動いて、
 ガッタン、ゴットン。
 ガッタン、ゴットン。
 走りだしました。

  


ひろーい草原を走り回り、


人も車もいない真夜中の街に入って、


 直線道路を走ったり、

 交差点を曲がったり、

 坂を上ったり、下ったり、

うわー! 面白いなー。
どこでも走れるんだね!

勇馬くんは、
運転がじょうずですねえ。
おとなになったら、
是非、ぼくを運転して下さい

うん! 
早く元気になって、

早くおとなになって、
きみを運転するよ!

約束しました。

朝です。

勇馬くん、
おはよう

看護師さんが、熱を計りに来ました。

ねえ、ねえ、
看護師さん!

勇馬くんは、
誰もいない夜中に電車が来て、
いろんなところを運転したことを、
話しました。


 もちろん、電車との約束のことも。

うわ。すごいわねー。
勇馬くんが運転手さんに
なったら、わたし、
乗せてもらおうかしら

うん。
乗せてあげる。

どこにでも行けるんだよ。

山にも川にも海にも、
乗せていってあげるね!

わあ、嬉しいなー。


あら!

看護師さんが、大きな声を出しました。

勇馬くん、

お熱、
下がってるわよ!

ほんと? 

だったら、ぼく、

早くおとなにならなくちゃ



顔中で笑って、言いました。

おしまい


作:三山 冽

キャラクター:かさこ

幸せショート 第2話 真夜中の電車

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