バケツをひっくり返したような、土砂降りの雨がビニール傘越しにたたきつけてくる。安かった分だけ、衝撃は緩和されず手に響いてくる。
 ビルとビルの間。ごみばかりが散乱して、人が一人通れるか否かぐらいの場所。
 

家までの近道に使ってみたが、鼻が曲がりそうなほどくさい。雨のせいでいくらか臭いがわかりづらいけど、それでも抑えきれないぐらい。
 なんでこんなところをとおってしまったんだろうと、五分前の自分を叱りたかったけれど。そんなことをする前に、早く通り抜けてしまえばいいと足早にいく。

人の足があった。

……はっ?

 思わず声を出してしまったが、本当に驚いた。
 なんだこれは。いや、人の足だ。しかも学校指定なのか靴下に校章が縫い付けられている上に、ローファーだ。靴下の上には、生足がのぞいているということはさらに、女学生ということだ。
 

犯罪臭の前に、こんなところにいるっていうことは違う意味で犯罪の感じがする。
 まさか、こんなところでこんなモノ見つけるとは思わなかった。

どうしろってんだよ、えっと、警察なの、か?

 しどろもどろになりながら、ジーンズのポケットから携帯を取り出し、番号を押そうか悩む。

あっ、そのまえにっと

 傘を肩にかけ、かがみこむ。あいた手で女学生の肩をがくがくと揺らす。上下左右に揺らし、なにかしら反応がないかと試してみたが。
 結果、なにもない。
 口元に手をもっていくと、一応呼吸はしているようだ。

よかった、生きてたか…

 身体に触れている限り、心音もあって呼吸もあって、雨にふられて体温が多少は下がっているが生死のことで問題はなさそうだ。
 イコール、俺の必要はなし。

さて、帰るか

見捨てるとは、いい性格してますねお兄さん

まあ、自覚はある

……最低です

 女学生に罵られる趣味は持ち合わせていなかったが、結構いいかもしれないとか考え込んでいる自分がいて怖い。
 しかし、自分でも本当に思うけどな。
 こんなところでまさか女学生と出会えるなんてこと、誰が思う。

で、なんでこんなところにいた?

……ノーコメント

じゃあ帰ってもいいか?

それも拒みます

 じゃあ、どうしたらいいんだってよ。

なに、おまえに傘でも援助したらいいのか?

そうじゃなくて、それもそうだけど。それ以外もたくさん、やってほしいなあ

……

 女学生はするりと俺の足に、自分の足を絡めてくる。素肌に張り付いたスカートの中身が見えそうだ。
強欲にもほどがあるし、最近の若者は怖いな。さらっと通りすがりの奴にたかってくるとわ、驚きしか生まれないが。
 いや、呆れもあるか。
 尻のほうに入れておいた財布をだし、中身を確かめてみる。諭吉もあるが、そこまで多くはなかった。

あれ、本当に援助してくれるの?

 足を投げ出したまま、しなをつくり媚びる感じではあるが、生憎ロリコンの気はない。

ほれ、立て

 手を差し伸べながら、言ってみるが女学生は立つ気がないのか、相変わらず濡れた地べたに直座りの状態だ。
 気持ち悪くはないのだろうか、それとも最近のは質がいいからある程度の水分は防げるのか?

いいから、援助してやる

んじゃあ、お願いしますっ

 援助の一言を言った瞬間、女学生は立ち上がり、俺の手を取った。
 満面の笑顔のまま、安直に、この子は。俺についてきた。

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