きたぜ、イギリス! 存分に満喫してやる
編集長、取材に来たんでしょ? 遊びに来たわけじゃ…
へ! うちの雑誌なんておあそびみたいなもんじゃない
あんたが言うなよ…
僕は島田次郎。
大学卒業後、
憧れのジャーナリストになるはずが、
なぜか潰れかけのオカルト雑誌
「オーソロシィ」のライターをやっている。
隣の女性は編集長の神宮寺みさと。
旧財閥家系のひとり娘で、
金持ちの道楽で「オーソロシィ」をやっている。
今回のイギリス旅行…もとい取材も
彼女の親父さんが全て手配してくれたそうだ。
僕も金持ちの家に生まれたかった…。
今回は何の取材をするの?
ええ! 決めてなかったんですか?
イギリスよ? なんかあるでしょうよ
なんかって…
じゃあ、あれは?
『ロンドンの鼻』!
今時、ロンドンの鼻ですか? あれは都市伝説でも何でもないですよ? とある芸術家が監視社会を皮肉って、壁に鼻をつけるといういたずらをしただけで…
いいじゃない、理由なんて適当につけてさ。
『ロンドンの鼻に秘められた宇宙人からの警告!?』とかどう?
編集長、あなたという人は…
でね。今回の取材のために、新兵器を用意してるの
新兵器…!?
じゃーん!
これ、最新のドローンじゃないですか! すごい!
まあね。私の力を以ってすれば、こんなもんよ
親の力でしょ…。
でもロンドンはドローン禁止じゃ…。
ほら、標識もあるくらいですよ
THE FLYING OF DRONES
OR MODEL AIRCRAFT IN
THE PARK IS PROHIBITED
大丈夫。ちゃんと民間航空管理局には許可とってあるから
国外の公的機関にも顔が効くの? あなたの親父さん…
あら、雲が…
さすが『雨のロンドン』。天気が悪いですね
雨が降る前に、ドローンで撮影しなきゃ
そうですね。まずはバッキンガム宮殿でも撮っておきますか
If the rain comes〜♪
下手ねあの人、歌
『Rain』ですね、ビートルズの
へえ
ビートルズの楽曲で、テープの逆再生が初めて使われた曲です
逆再生ねえ。あなた、ビートルズ好きなの?
…好きというか。まあちょっとは詳しいかな
意外ね
この曲はな、『Rain』というんだ。サイケデリックな曲調とジョンの気だるそうな歌声がマッチしていい塩梅だろ
おまえは、何事にも中途半端なんだ! ジャーナリスト? お前はジャーナリストになって何がしたいんだ!
…ねえ、しまじろう君? どうかした?
え、あ…。なんでもないです
準備できたんで、ドローン飛ばしましょう
テイクオフ!
すごい! 操作性もバッチリ。カメラも高性能ですね
じゃあ、バッキンガム宮殿をぐるりと一周しますか
えー私にも操作させてよ〜
おもちゃのラジコンじゃないんですよ…
あ、雨だ
せっかく飛ばしたばかりなのに…。仕方ない、ドローンはまた後に
…あれ
どうした?
コントロールが…
ホームボタンを押したら、元の位置に戻ってくるはずなんですけど…
降りてこないよ
おかしいな…
え、雷!?
すごい…。なにあの雲…
え、雷はまずいんじゃ
!?
!?
うわああああ
…
編集長…?
ここは…
おい! セヴィル・ロウでなんかやってるみたいだぞ
ちょっくら行ってみるか
……なにかが…おかしい
うわあ…
新聞…
30 Jan.,1969
……
1969年1月30日…
はあ!?