名前呼んで

呆れるくらいに何度も

触れていてよ

嫌がるくらいに幾度も

あぁ、せっかく人の心というモノが理解できたのに・・・。
これからというのに、時間がありませんね。

すまない。
俺はお前を・・・。

所詮私はまがいもの。
「人」と同じ時間を過ごすことなど叶わないのです。
だから・・・貴方様が気にすることなど何ひとつ無いのです。
残されるより、これで良かったのです。

・・・そうか。

置いていて。
動かなくなる日までは・・・。
傍にいて。
もう何もいらないから・・・。

「幸せ」とは目に見えないモノなんです。

私はただ、それを求め過ぎていたの。

またいつもの夢・・・

頻繁に夢を見る。
同じ夢。

その夢を見た朝は必ず泣いている。

誰かを愛しいと想う感情と、とても寂しいと想う感情が入り交じってとても複雑な感情。

この夢はなんなのかしら・・・。

夢に出てくる不思議な女性。
一緒に居る男性との関係もわからない。

ただ、理解できるのはあの女性は男性のことを愛しいと想っていること。

ただ、それだけ。

駄目ね。気分転換に癒されにでも行きましょう。

沈んだ気分を晴らすために、大好きな川のとこにでも行き癒されよう。

私は支度をして家から出た。

大好きな川を見ると気分が晴れてくる。
私はなぜか昔からこの場所が好きなのだ。

ここには誰もいない。
あぁ・・・落ち着く・・。

あれ?先客がいる。

!!!

彼を見た瞬間私の頭の中で何かが弾けた

優しい声・・・。
髪を撫でる大きな手・・・。

ん?どうした?

貴方様に髪を撫でられると心地良いのです。
とても安心します。

機械なのに人の「ココロ」が理解できるって凄いな・・・。

私自身びっくりしているんですよ。
「人」というのはこんなにも温かいモノで一緒に居ると心地良い。

また、貴方様を慕うという気持ちにも驚いています・・・。

お前を停止させたら、俺もすぐに逝くから・・・。

えぇ、お待ちしております。
ただ最後にお伝えしておきたいことがあります。

最後、か。

私は人に似た、まがいものです。
ですが、それでも・・・「人」と同じように誰かを想い、誰かを慕う。
・・・貴方様のことをお慕い申しております。

あぁ。ありがとう・・・。
俺がまだ生きていられるのならば、もっと同じ時間を過ごせたのにな。

私がもっと早くに自分の気持ちを理解していれば・・・。
結果は変わらずとも、一緒に過ごした日々を「幸せ」だと実感しながら過ごせたのですが・・・。

俺は幸せだったさ。
お前が居てくれて良かった。

「幸せ」とは目にみえないモノなんですね。
私は知らずに求め過ぎていたのか、それとも近過ぎて見えなくなっていたのか・・・。
それでも、最後に実感できて良かったです。

そうか。

願うなら、次は機械ではなく「人」として、一人の女性として貴方様のお傍にいれたらどんなに良いでしょう・・・。

きっと会えるだろう。
大丈夫。
俺はお前に会いに行く。
姿、形は変われど見つけるさ。

約束・・・ですよ?

あぁ。

もう、時間ですね。

あぁ。
「またな」

えぇ。

彼はそっと私の起動装置に触れた。
私が覚えているのはここまで。

「機能停止します」

俺もすぐに・・・。

あぁ。

夢の中の女性は機械だったのか。

理由はわからないけど彼は彼女を作った。

でも、彼はもう死ぬ間際だったのだろう。

「彼女」を残して死ねないから彼女の機能を停止させることを選んだ。

彼も彼女を慕っていたのかもしれない。

「機械」の彼女を。

「機械」の「彼女」は「私」
なんだ

う、ん・・・。

大丈夫?俺と目が合ってからキミ倒れたんだよ。

夢の中で見た彼にそっくりな男性。

きっとこの男性は「彼」なんだろう。

・・・本当に貴方様は・・・。

やっと見つけた。

やっと会えました。

俺は今のキミの名前も何も知らない。
知っているのは夢の中のキミだけ。
キミの今の名を教えてくれる?

私は凛。凛です。

凛か。素敵な名だね。
俺は楓。

楓・・・様。

次は人として俺の傍にいてくれるんでしょ?
凛さん。

もちろんです!
私は今の楓様を知りません。
ですが、これから知っていけば良いことです。

キミならそう言ってくれると思った。

・・・名前呼んでくれますか?

凛さん。

はい。

・・・凛さん。

はい!

何度だって呼ぶよ。
キミがそれを望むなら。

愛しい人が私の名前を呼ぶ。

こんなに幸せなことはない。

これからは目にみえない「幸せ」を一緒に過ごして行こう。

愛しい貴方様と。

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