天気のいい午後。

 小川のせせらぎが聞こえる。
 そんな草の丘で俺は少しばかりの休憩をしていた。

 あたりを見回すと、森が見える。
 とても素晴らしい森だ。
 きっと森の動物達も多いのだろう。











最近にしては珍しいな……。

 







 なんせ俺たち人間は、木々を切って家を建てたり様々な道具を作っているからだ。
 
 最近は、モンスターも増えているし、初心者向けの「こんぼう」や「ひのきのぼう」も数が足りない。
 どんどん木を切らなければ追いつかない。
 森の動物達には悪いが、人間も木がないと生きていけないのだ。

 俺はそんな事を思いながら、
 手に持っていたスモークジャーキーを食べ終えると、ドカっと横になり、昼寝をしようとした。

 そんな時、声がした。








きゃー!誰か、誰か助けてー!






 とっさに起き上がり、オレは悲鳴の方を向いた。
 少し遠いところで女性が悲鳴をあげていた。

 その周りをみるとゴブリンがいた。
 まぁ……、なんというかわかりやすい図だ。

 俺は持っている剣で、ゴブリンを追っ払い女性を助けようとしたのだ、が……。



 一つの疑問が頭に浮かんだ。

そういえば、ゴブリンはなぜ人を襲うのだろう?
 襲った先には何が待ち受けているのだろう?

 

 

 俺は単純にそう思ったのだ。
 あたりを見回すと他に人影はいない。

 俺が助けなければ女性はゴブリンに襲われるだろう。


 でも、俺は静かに様子を見ることにした。



 もしも命の危険があるようならば、その時は助ければいい。 

 ゴブリンを追い払う事なんて朝飯前だ。

 しばらく見ていると、女性はゴブリン数匹に引きずられていく。


 必死に抵抗する女性。
 だが、1対数匹の力関係は簡単には崩れなかった。
 当たり前の話でもある。

 ゴブリン達は人間よりも小さいが、力は人間の倍はある。

 しかも人間の方は女性だ。

 見たところ武器もないようだから、勝ち目なんてあるわけがない。

 しばらく見ていると、ゴブリンは草陰に女性を引きずっていった。

 面白そうだから俺は後をついていった。

 すぐに助けなかった理由はまだある。

 それは女が美人だったし、

すぐに助けてはもったいない。ギリギリまでこらえるんだ……。

 




 と、良くない思いもあった。


 健全な『下心』のある男としては、
 
 当然の行動だと思う。





 草陰を抜けると小さな洞窟が現れた。
 どこにでもある他愛も無い洞窟だ。

なるほど。これがゴブリンの巣か。
ここに女性を連れ込んだんだな。






 

 
 俺はゴブリン達が洞窟に入っていくのを見て、しばらくしてからその洞窟に入った。

 中はしっとり暗かったが明かりがあった。
 光る苔のおかげだろう。こういった洞窟でたいまつも無く進めるのは大抵こいつのおかげだ。




 しん……、とする洞窟内で、きいきいという声が奥のほうで聞こえる。



 きっとゴブリン達だ。



 俺は、声の方に進んでいった。


 奥に進むと、少し拓けたところに出た。


 そこは50匹くらいのゴブリンが集まっていた。
 視線を中央の祭壇のような場所に向けると、縄でくくられたさっきの女が生贄の様に祀られていた。

生贄、か。

 やっぱり……。思った通りのようだ。

 しかし女がゴブリンに囲まれている図を見ると、なぜか色気を感じてしまうのは俺だけだろうか。
 俺はしばらく、様子を物陰に隠れながら見ることにした。

 この数だとさすがに負けるかもしれない。
 できるだけ息をひそめて、祭壇を凝視した。

 
 すると、なにやら呪文のような詠唱をゴブリン達が一斉に唱え始めた。


 彼女に向けての呪文詠唱だ……。

 それを見て、俺はひとつの仮説を立てた。

あれは、もしかして「生贄」ではなく、
ゴブリンにしようとしているのかも……。

 ――あの祭壇の上の女をゴブリン仲間に……。

 考えてみると、ゴブリンの生殖活動を見たものはいない。

 俺は「きっとゴブリンは太古よりこうして仲間を増やしているのだろう」と推測した。



 そうなると、さらに興味が湧いた。
 ――人間がゴブリンに変わるのを見届けよう。

 俺は、祭壇から目を離さなかった。


 やがて、詠唱が終わると女性は”緑色”に光り始めた。

 『緑』はゴブリンの色。

 やっぱりそうだ! 

 これはゴブリン達が「仲間」を増やす為の特別な儀式だったんだ!

 そう俺が思った時、女性の形がどこかで見たような形になった。

 あれは……まるで……、

 植物!?


 いや……。違う……。


 もっと大きい。

 


 木だ!




 


 
 




 なんて事だ!

 ゴブリン達は彼女を「木」に変えてしまったのだ!
 俺は、急に怖くなり、急いで洞窟を出ることにした。

 木に変える理由がわからなかったし、自分もあそこにいたら祭壇の上に乗せられるかもしれないからだ。

 


 しかし……。








う、うわわああああああああ!

 洞窟から出た瞬間、俺はゴブリンに捕まった。
 
 奴ら待ち伏せしてやがったんだ……。

 さすがのオレでも、20匹もいるゴブリンには太刀打ち出来ない……。


 そのまま、頭をつかまれ引きずられた。


 そして、さっきの彼女のように祭壇に連れて行かれ、儀式が始まった。

 


 どうやら残念な事に、オレも同じ目に合うらしい。




どうせ、木になるんだろう……

 そう思っていたら体が緑に変わっていき、背もどんどん縮んでいく感覚に陥った。



 明らかに目線が低くなっていく……。

 







 儀式が終わったらしい……。


 俺は、早く自分の姿が見たかった。


 都合よく横にいたゴブリンが大きな鏡を持ってきた。
 そこには俺が写し出されていた。











 その姿は、
 なぜか『ゴブリン』だった。














 なぜだ!? 

 なぜ俺はあの女のように木にならずにゴブリンになったのだ?
 不思議に思っているとゴブリンが話しかけてきた。

 その時、すでにきいきいという声ではなく、明らかに言葉だった。



そうか、俺もゴブリンになったから言葉がわかるのか。

 そのゴブリンはこんな事を言った。

 
























 やあ新人君!

 キミもこれからはボク達みたいに森林伐採反対運動に加わるんだよ!

 人間の女をすべて樹木にしてさぁ!
 男はゴブリンにしてさぁ!

 この星の緑をどんどん増やそうよ!

 人間は木を切りすぎだよ!
 キミもそう思うだろう!?

【3分で読める】ゴブリンが女性をさらう理由

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